表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神隠しという名の異世界転移  作者: 紫煙の作家
176/226

旅立ち

No176

旅立ち



 出発当日の目覚めはいつも通りだった。

俺は身支度を整えて宿の食堂へと向かった。

「おはようございます、ロゼッタさん」

「おはようさんだねっ! 昨夜はよく眠れたかい?」

「はい。よく眠れて体調も快調ですよ」


「そりゃあ、良かったよ。あんたが旅立つ聞いた時はたまげたけど、ついにやって来たんだね....寂しくなるよ」

「俺もですよ。ロゼッタさんがいる"餌付け亭" では美味しい食事に綺麗な部屋を用意してもらって毎日気持ちよく過ごさせてもらいましたし、ロゼッタさんの顔が見れなくなると思うと寂しくなります」


「もう来ないのかい?」

「いえ、来年にはまた来たいと思ってますよ。火水祭や海水浴を楽しみにしてますから」

「そうかいっ! 今生の別れじゃないならまた会えるんだねっ! じゃあ、それまでは元気に達者で暮らすんだよ!」

 と、朝の挨拶と簡単な別れの挨拶をしてると、リリアーナがやってきた。


「おはよう、セイジロウ。おはよう、ロゼッタ」

「おはよう、リリアーナ」

「おはようさんだねっ! リリアーナっ! しっかりと寝たかいっ?」


「うん、しっかり寝た。今日は出発の日だから」

「まったく、気の良い奴らは仲良くなったと思ったらすぐにいなくなっちまうんだから、宿屋なんて因果な商売だよっ!」


「でも、ロゼッタさんが宿屋をやってくれたおかげて私たちは出会えました。美味しい食事も食べられたんです。私は感謝してますよ。もちろん、リリアーナもです。なっ?」

「うん。感謝してる。もっとここに泊まりたかったけどセイジロウが出発するなら、わたしも出発する。セイジロウの仲間だからっ!」


「はんっ! 口だけは達者なんだからっ! リリアーナはセイジロウのように口達者になるんじゃないよっ! さっさと席に付きなっ! 朝食を用意してやるからねっ!」

 と、何故か俺だけ貶してロゼッタさんは朝食の準備に向かった。


 俺とリリアーナは窓際のテーブル席に腰を下ろして朝食が用意されるまで話をした。

「リリアーナ、ハルジオンに着くまでは野営になるからもし足りない物や買い忘れた物があればあとで言ってね」

「大丈夫、昨日の夜に確認した。マダラの影の中にはちゃんと入ってるはず」

「そっか、まぁ緊急時にはマダラに頼んで能力使って街にはすぐに戻れるから大丈夫だけどね。リリアーナは少ししかルインマスの街に居れなかったけど本当に大丈夫?」


「大丈夫? わたしは大丈夫だよ」

「ルインマスの街で暮らそうとは思わない? ハルジオンの街が住みやすい街とは限らないよ?」

「わたしはセイジロウと一緒に行くと決めた。それに、まだ少ししか街を見てないしセイジロウが居た街も見たい」

「そっか、ちゃんと自分の意思で決めたなら俺は何も言わないよ」

 と、リリアーナと話しているとロゼッタさんが朝食をテーブルに用意してくれた。


「あいよっ! お待たせだね! 旅立ちなんだからしっかりと食べて行くんだよ! それと、これは昼食に食べなっ!」

 ロゼッタさんはいつも朝食に編みカゴを渡してきた。


「ロゼッタさん、ありがとうございます! 凄く嬉しいですよ!」

「ロゼッタ、ありがとう。昼食が凄く楽しみ!」

 と、リリアーナは席から立ち上がりロゼッタさんに抱きついた。


「あんたはずいぶんと長くウチの宿を利用してくれたからね。ちょっとした感謝とお礼だよ。リリアーナもウチに泊まってくれてありがとうね! 編みカゴにはたくさんのサンドパンを作って入れてあるからお腹いっぱい食べるんだよ。あと、あんたの従魔の分もあるからしっかり食べさせるんだよ?」


「ありがとうございます。三人で仲良く昼食をいただきます」

「なら、冷めないうちに朝食を食べちゃいなっ! 出発の時はまた声をかけるんだよっ!」

 と、ロゼッタさんのサンドパン入りの編みカゴを端に置いてから朝食をいただいた。

 初めてルインマスの街にやってきて、"餌付け亭" の朝食を食べた時はその旨さに感動したのを今でも覚えてる。あれから、朝食が楽しみになり少しだけ体重が増えたのは良い思い出だ。


 リリアーナは黙々とパクパクっ朝食を食べている。明日からは美味しい朝食はおあずけだ。この瞬間をしっかりと脳裏に刻んでおこう。


 俺もリリアーナのように黙々と食べてこの味を忘れないように噛み締めて朝食を堪能した。


 朝食を食べ終わり部屋へと戻って出発の準備が出来たら宿の入口へと向かった。そこにはすでにロゼッタさんとリリアーナがいた。

「あれ? リリアーナ早いな。ロゼッタさん、お世話になりました」

「しっかり世話をしてやったよっ! また、ルインマスの街に来たらあたいが世話をしてやるから宿に寄るんだよっ! リリアーナはしっかりと食べてもっと成長するんだよ!」


「またお世話になる日まで元気にやりますよ」

「次に会うときは成長してる。.....はず」

「元気で達者にねっ!」

 と、ロゼッタさんに見送られながら俺とリリアーナは冒険者ギルドへと向かった。ちなみにマダラは空気を読んだのか、しばらくしてから影の中から姿を現した。


 メイン通りの露店でいつものように買い溜めをしつつ、馴染みの露店主には旅の挨拶をしていった。挨拶をする度に餞別にと料理をおまけしてくれた。これには、俺とリリアーナ、マダラは大いに喜んだ。


 そんな事をしながら冒険者ギルドに着いた。マダラには影の中に入ってもらい俺とリリアーナはギルド内へと入った。


 ギルド内は時間的にまた早い時間な為にそれなりの冒険者達て溢れていた。俺とリリアーナは一応良さげな依頼がないかの確認の為に依頼板で依頼を探すが特に見つからなかった。

 護衛や討伐、採取依頼などはあるがハルジオンの街向けの依頼は無かったので、シンディさんが受付をしてる列にリリアーナと一緒に並んだ。



 しばらく並んだ後にようやく順番がやってきた。

「シンディさん、おはようございます」

「シンディ、おはよう」

「おはようございます、セイジロウさん。リリアーナちゃん。今日は依頼の手続きですか?」

 受付嬢のシンディさんはいつものように対応してくたが残念ながらそうじゃない。


「今日はハルジオンへと出発します。それなので一言挨拶に来ました。シンディさん、ルインマスに来てから色々とお世話になりました。ありがとうございました」

「わたしも短いけどお世話になりました。シンディ、ありがとう」


「えっ、えっ? 出発って.....ちょっ、ちょっと待って下さい! そんな話は聞いてませんよ!?」

「はい。初めて言いましたから....本当なら昨日伝えようとしたんですけど、色々と挨拶回りをしていたら疲れちゃいまして。出発当日の挨拶になってしまったのは謝ります。ごめんなさい」


「いやいや、そうじゃなくてっ! いえ、それもありますけど、いきなり出発しますなんて言われても.....とにかく、ちょっと待っていて下さいっ!」

 と、シンディさんは席を離れ足早に階段を上がっていった。


「あー、いっちゃったよ。たぶん、サーシャさんに話をしに行ったんだろうな.....」

「セイジロウ、サーシャってだれ?」

「リリアーナはまだ知らなかったね。サーシャさんは冒険者ギルドのギルドマスターで一番偉い人だよ」

「ほぅ、一番偉い!」


「うん、一番偉いんだけど.....出来れば会いたくないけど、ここでしらばっくれたら後が怖いしな。仕方ない、とりあえず先にギルドの食事処に行ってマレルさんに挨拶をしようか」

 と、ギルドの食事処に向かった。


「マレルさん、おはようございます」

「んっ? おぅ! セイジロウじゃないか! なんだよっ、久しぶりじゃねぇかっ! 最近は顔を出さないと思ったら! 見た感じ元気そうだなっ! んで、何か食うのか?」

 と、久しぶりにあったマレルさんは今日も元気な姿だった。冒険者ギルドで依頼を受ける度にマレルさんには昼食やらマダラが好きなフライドポテトや唐揚げを作ってもらっていた。


「いえ、今日は出発の挨拶に来たんですよ。ハルジオンの街に行きます。リリアーナも一緒に」

「はあぁっ! ずいぶんと急じゃねぇか! 当日に挨拶かよ.....なんだよぉ」

 と、マレルさんは意気消沈してしまった。


「挨拶が遅れてしまったのはすいません。本当なら昨日挨拶する予定だったんですけど、他にも挨拶先があってアンリエッタさんに挨拶をしたらいい時間になってしまって」

 本当は挨拶回りに疲れたんだけどこう言っておけば、

「なんだ、アンリエッタさんのとこに行ってたんならしょうがねぇか....また、ルインマスには帰って来るのか?」

「はい、来年にはまた来る予定ですよ。火水祭や海水浴、マレルさんのお店にも期待してますから!」


「はんっ! まだまだ修行中だからな、まだ先の話だが期待していてくれよ!」

「はい。それで、今から少し時間がかかりそうな案件があるので、その間に料理を作って置いてくれますか? とりあえず、銀貨二、三枚分で唐揚げにフライドポテト、ピザにステーキ肉をお願いしたいんですけど」


「金は要らねぇよ! 恩人の旅立ちなんだ! そんぐらい作ってやるよっ! その案件が終わったら取りに来なっ!」

 と、マレルさんの粋な計らいに甘えたところでシンディさんが声をかけてきた。


「セイジロウさんっ! 探しましたよ、まったく。なんで受付にいないんですか....はぁ...はぁ....ギルドマスターが呼んでますか付いてきて下さい」

「いや、すいません。ちょっとマレルさんと話してました。ちなみに、なんですが呼び出しを断ることは....」

「出来ると思ってるのですかっ?」

 と、シンディさんの一睨みですぐに理解した。


「....いえ、ただの戯れ言でした。シンディさんに付いていきます。リリアーナも行くよ」

 と、リリアーナは呼ばれてないが俺の仲間だからしょうがない。


 シンディさんにギルドマスターの執務室へと案内された。部屋に入るなりギルドマスターのサーシャさんは怒鳴り声を上げ、挨拶が突然過ぎるだの、なぜ旅に出るんだとギャーギャーっと言ってくるが、俺は平静にソファに座った。


「ギルドマスター、落ち着きましょう。まずは、座った話をしましょう。セイジロウさんとリリアーナちゃんはすでに座ってますし」

「はぁ....はぁ....まったく、会うたびにふてぶてしくなるわね! もっとわたしを敬いなさいよねっ!」

「サーシャさん、私はこれからハルジオンに向けて出発なんですから用件は手短にお願いしますよ? それと、良い大人が子供の前ではしたないですよ? リリアーナ、女性はもっと清楚でおしとやかじゃないといけないよ」


「清楚でおしとやか.....わかった。ありがとう、セイジロウ」

「クッ....フンっ。まぁ、良いわ。良い女は心も広いのよ! それも覚えておきなさい。それで、セイジロウ! 突然の旅立ちとはずいぶんね。何か理由があるのかしら?」


「旅立ちとはいつもの突然では? っと、言っても納得しないでしょう。元々氷雪季になる前にはハルジオンの街に帰る予定だったんですよ。ただ、それだけです。来年にはまたルインマスの街に来る予定ですし」

 と、特にやましい事もないので素直に旅立ちの理由を話した。


「本当にそれだけなの? また何かやらかして今度は手に終えないから街を離れるのじゃなくて?」

「そんな事あるわけないでしょ? サーシャさんは一体私を何だと思ってるんですか?」


「....面倒事を起こす男....疫病神.....災いの従魔使い?」

「ほぅ、それは私に喧嘩を売ってるのですね? なら、買いましょうか? 代金は要りませんよ、来年の火水季にサーシャさんの体で払ってもらいますか。不眠不休の書類整理を私からプレゼントしますよ。のしを付けてね」


「わっ、わゎ。いや、冗談よ! ついな、つい。オホンッ! 予定だっのなら仕方ないわねっ! それならそうともっと早くに連絡してよね。いきなりBランクの高ランク冒険者が街を出るなんて言うからビックリするじゃない。しかも、それがセイジロウなら尚更よ」


「私なら尚更ってどういう意味ですか? 本当に来年の火水季は不眠不休で働かせましょうか?」

「たからっ! 揚げ足を取らないでよっ! ただ、ちょっとお礼を言いたかったのよ。なんだかんだ言って、セイジロウが提案してくれた事でルインマスの街はさらに活気になったし、セイジロウにはランクアップ試験を受けてくれたしね。ギルドマスターとして、一人のルインマス住民として感謝するわ。ありがとう」

 と、サーシャが素直に頭を下げた事に驚いてしまった。シンディさんの方を見るとシンディさんも腰をおって頭を下げていた。


「ちょっ、ちょっと頭を上げて下さいよ! そんないきなり感謝とかされても困りますからっ!」

「素直な気持ちを現しただけよ。それで、ハルジオンの街で何をするのよ? 何かするの?」

 と、アンリエッタさんと同じ事をサーシャさんは聞いてきたので、特に何もしないと答えておいた。


「そうなの? まぁ、何かしてもこっちに飛び火しなきゃいいわよ。話は以上よ。出発前に引き留めて悪かったわね。シンディ、セイジロウを送ってあげて」

「分かりました、マスター。では、街門まで見送りしますね」

 と、部屋を出ようとしたら、

「セイジロウっ! ギルドとしては何も用意出来ないけど、何か困ったらわたしを頼りなさいっ! 個人的なら力を貸してあげるわっ!」

 と、早口でサーシャさんは声をかけてきた。


「分かりました。心遣いありがとうございます、サーシャさん。では、体には気をつけて。また、会いましょう」

 と、挨拶をして執務室を出た。


 それからマレルさんの料理を受け取って挨拶をしてからシンディさんを連れて街門までやってきた。


「シンディさん、色々とお世話になりました。体調には気を下さいね」

「セイジロウさんこそ、あまり無茶をなさらないで下さいね。今度はリリアーナちゃんがいるんですから」


「えぇ、分かってます。また、来年には街に来ますか。リリアーナ、シンディさんに挨拶をして」

「シンディ、色々とありがとう。セイジロウはわたしがしっかりと見てるから大丈夫!」


「ふふ、ありがとうリリアーナちゃん。しっかりと見ていてね!」

「はは.....心配しすぎですよ。では、また来--」

 シンディさんは突然、俺の唇にキスをしてきた。


「セイジロウさんっ! また会える事を楽しみにしてますから!」

 と、シンディさんはキスをしてからそう言って足早に街の中へと行ってしまった。


「セイジロウ、モテモテ?」

「....はっ?! まさか、シンディさんまで.....ついにモテ期到来かなのか?」

『なにをワケの分からんことを。さっさとワレに乗らんか。出発するぞ』


 と、マダラの催促で俺とリリアーナはマダラに跨がるとハルジオンの街へと向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ