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神隠しという名の異世界転移  作者: 紫煙の作家
172/226

他者の視線とシームール貝

No172

他者の視線とシームール貝



 マダラの嗅覚で見つけた魚貝焼きを昼食で食べた後は、昨日のハスラさんの装備屋に向かった。

 メイン通りを歩いて向かってるとたまに道行く人たちから視線を感じる。その視線は俺ではなく隣を一緒に歩いてるリリアーナに向けられていた。


 やっぱりリリアーナが見られてるのか....まぁ、これだけ可愛くなれば視線は向けられるか。


 シャリーナさんの店で新しい服を着たリリアーナはずいぶんと様変わりした。今は、ふんわりとした柔らかい生地で作られた可愛らしい服を着ている。袖口とスカートの裾がヒラヒラとしているショートドレス風でスカートの裾から見えるスラッとした脚が魅力的だ。


 顔も可愛らしく、目鼻立ちも整っていて某アイドル並みの美少女と言っても過言ではない。ルインマスの街が海上貿易で発展している街だから一通りも多くそれなりの人口密度で人に溢れていてもやはり、可愛い女の子は目立つのだろう。


 リリアーナもシャリーナさんの店を出てからの自分を見る視線には気がついてる様子だが、あまり動じた感じはしない。

「リリアーナ、もう少ししたらメイン通りから外れるから我慢してね。ハスラさんの店で羽織れるローブがあれば買うから」

「ありがとう、セイジロウ。でも、わたしは平気! こういう視線は慣れてるから」


 と、自分が奇異な視線で見られる事にリリアーナは慣れてるから平気だと言ってきた。まだ、十代半ばの女の子が奇異な視線に慣れてるなんて......

 自分の配慮の無さに俺は反省した。ちょっと可愛い服を買い与え着飾らせて悦に入っていた自分が恥ずかしくなった。


 衆人の視線に晒すようなの目立つ格好をさせて仲間面して、俺はなんてバカなんだ! 俺は、自分の着ている黒衣透翼を脱ぎリリアーナに羽織らせた。

「リリアーナ、ハスラさんの店に着くまでこれを羽織っていて。少しは人目を避ける事ができるはずだから」


 俺はリリアーナの手をとり握りしめると足早にハスラさんの装備屋を目指した。

 メイン通りから一つ奥への路地へと入るとすぐにハスラさんの店にたどり着いた。


 ハスラさんの店の扉を開けて中に入る。

「こんにちわ」

「おぅ、らっしゃい! 待ってたぜ」

 と、スキンヘッドで強面なハスラさんが出迎えてくれた。俺はリリアーナに羽織らせていた黒衣透翼を外し自分に羽織なおした。


「ほぅ、リリアーナかっ? まるで昨日とは別人じゃねぇか! 今日はずいぶんと着飾ってるなぁ」

 ハスラさんはリリアーナの姿を見て驚きの声を上げた。


「セイジロウに買ってもらったの! 凄く似合ってるって言ってくれた!」

 と、リリアーナはハスラさんに向かって自慢気に話をした。


「あぁ、確かに似合ってるぞっ! まるで、どっかのお嬢様だな! そんなお嬢様が俺の装備屋に来るなんてな! ガハハハっ!」

「なんか、誉められてない気がする! ハスラはわたしを馬鹿にした!」

 リリアーナはハスラさんの言葉を聞いてハスラさんを睨んだ。


「はい、そこまでにしましょうよ? ハスラさん、今日は昨日注文した装備を取りに来ました。出来てますか?」

 俺はハスラさんとリリアーナの間に体を割り込ませて話を本題へと戻した。


「おうっ! 約束通り出来るぜ!」

 ハスラさんは店の奥へと入りリリアーナの装備が入った箱を持って戻ってきた。それをカウンターに置くと中身を取り出して見せてくれた。


「魔鉱虫の糸で作られた服は、その服の下に着ても平気だろう。靴は今服に合うか分からんが試して見るといいさっ! ベルトは....分からんが合うだろう。自分で合わせてみなっ! そっちに簡易な試着室があるからそこで着替えてみろ! 不具合があればすぐに調整するからよ!」


 俺はリリアーナに注文した装備を渡し試着室で着替えるように言った。リリアーナはすぐに試着室へと向かった。

「それと、ハスラさん。リリアーナはどうやら街中では目を惹く感じらしいんですよ。なので、羽織れるローブとかありませんか?」


「それで、店に入ってきた時にセイジロウのローブを羽織っていたのか.....なら、ドネスバードの羽飾りが付いたローブだな」

 そのローブは濃緑色をしたローブだった。胸元に羽飾りが付いていてどこか地味な感じがするローブだ。


「これは簡易な認識阻害が付いてるローブだ。これなら多少は人目を避けれるだろう。さっきの服装じゃリリアーナは目立つからな!」

「ありがとうございます。これも買いますから調整出来ますか?」

「おぅ! なら、リリアーナの着替えが終わったら調整してやるよ!」

 と、少しの間ハスラさんと世間話をしてるとリリアーナの着替えが終わり試着室から出てきた。


 リリアーナの見た目は腰にベルトを巻き付け新しい靴に変わっていた。特に違和感がなかったのでリリアーナには似合ってると言葉をかけた。

「ありがとう、セイジロウ。それと、ハスラにも感謝する。特に不具合はない」

「なかなか似合ってるじゃねぇか! さすがは俺だなっ! なら、新しいローブを調整してくるから少し待ってろ」

 ハスラさんはカウンター奥の部屋へと向かっていった。


「新しいローブ?」

 リリアーナは首を傾げながら聞いてきた。

「リリアーナはその服装だと街中で目立つから新しいローブをさっき選んで買ったんだよ。これから、氷雪季にもなるし、旅にローブは必須だからね。無駄にはならないさ」

「そう、セイジロウありがとう」

 リリアーナは頭を下げて感謝を示した。


「気にしなくて良いよ。リリアーナには必要なものだから。この後は、漁業方面に行って友人にリリアーナを紹介するよ。その友人は人種じゃなくてマーマン種だから」

 と、この後の予定を確認して話してるとハスラさんがローブを持って戻ってきた。


「出来たぞっ! ほらっ、羽織ってみろ!」

リリアーナはハスラさんからドネスバードのローブを受け取ると羽織った。


「まぁ、悪くねぇな。ちと、見た目は地味になっちまうが目立つよりはマシだろう!」

「そうですね。なら、代金を払いますよ」

 俺は歯すらさんにリリアーナの装備代を払い挨拶を済ませると漁業方面に向かった。


 マダラを影の中から出して俺とリリアーナは歩いていく。時折、マダラの催促で露店の料理や食材を買いながら進んでいった。

 そして、マーマン種のスレイブさんの貸し家へとついた。扉をノックしてスレイブさんを呼んだ。

「スレイブさん、セイジロウです! いますかっ?!」

 少しして扉が開き中からスレイブさんが現れた。

「セイジロウか。久しぶりだな。今日はどうした?」

「久しぶりです、スレイブさん。今日はマレアナレアの糸の状況と新しい仲間の紹介にやって来ました」


「そうか.....なら、いつもの酒場に行くか? それとも鉄板焼き店に行くか?」

「そうですねー.....なら、鉄板焼き店に行きますか。それと、新しい仲間のリリアーナです」


「わたしはリリアーナ。よろしく」

 と、いつも通りに端的な挨拶をリリアーナはした。

「俺はスレイブだ。よろしく....」

 スレイブさんは挨拶をした後にリリアーナを少しの間ジッと見ていた。


「リリアーナは、バードン種と人種の混血種です。見た目は人種ですが、バードン種特有の風魔法の使い手ですよ」

「そうか.....セイジロウなら悪いようにはしないだろう。それで、鉄板焼き店だったな。なら、少し食材を獲りに行ってくるから陽暮れの待ち合わせでいいか?」


「はい、構いませんよ。私たちは漁業市場で時間を潰してから行きますよ」

「わかった。では、陽暮れにな」

 と、スレイブさんとの約束をしてから俺たちは市場へと向かった。


「リリアーナ、これから行く市場は魚や貝、その他に海で捕れる食材がたくさんある場所だよ。食べてみたいものや気になるものがあったら言って」

『セイジロウ、ワレもじゃぞ! 久しぶりの魚介市場じゃ! カニや貝類が欲しいぞ!』


 さっそくマダラからの思念が飛んできた。

「はいはい、マダラも欲しいものがあったら言ってくれ。キャンプではずいぶんと食材を使ったからな。ある程度は確保したいし、ハルジオンでのお土産にもしたいからな」

『ふむ、さすがはセイジロウじゃな! 分かっておるではないかっ! では、リリ! ワレが市場を案内してやろう! 付いてくるんじゃ!』

 と、まだ市場が遠目に見えてる段階からマダラは足早に駆けていった。その後を走りながらついていくリリアーナ。それを、ぼんやりと見ながらゆっくり歩く俺。


 本当なら俺も駆けていくべきなんだけど、中年のおっさんに駆け足はちょっとツラい。黒衣透翼で浮きながら移動するほどでもないし.....若いっていいな。


 俺たちは市場を練り歩きながらマダラやリリアーナが欲しがる食材を次々に買っていく。俺も自分が食べたい食材や調理の味付けに使える食材も買っていく。


『リリよっ! こっちにくるんじゃ! ワレでも初めて見る貝じゃぞっ! セイジロウっ、こっち来るじゃ!』

 と、マダラの思念が頭に響き呼ばれた場所までいくとそこには一抱えほどの大きな貝が一つ鎮座していた。


「これは....でっかい貝だな。確かに初めて見るな」

「セイジロウ、凄くおっきいっ! こんなの口に入らないよ」


『ふむ、かなりの食べ応えがありそうじゃな。どうじゃ、セイジロウ? これを食してみたいと思わんか?』

「これを? まぁ、確かに食べ応えはありそうだけど.....旨いのか? 大味なんじゃないか?」

 と、俺たちが話をしてると店主が話に入ってきた。


「にいちゃんたちはたまに市場で見かける人達だな! どうだい、少しは融通してやるから買っていかない貝?」

 って、おっさんギャグが混ざってるぞっ!

 なにちょっと上手い事言ったぞ的な顔は?


「私たちを知ってるんですか?」

「あぁ、知ってるぜ! そんな従魔を連れてるのはこの界隈じゃにいちゃんぐらいだから。それに、水着の発案者だろ? 船乗りの間でもちょっとした話題になってるぜ!」


 へぇ、それはそれは.....知らぬまに有名になっていたとは。それに、水着は船乗りの間でも話題になるほどには広まってるのか....まぁ、男の水着には興味ないから別にいいけどね。


「そうなんですか。それより、この大きな貝はどんな貝なんですか?」

「おぅ、この貝はシームール貝と言ってな通常は手のひらサイズの貝なんだが、年月を重ねた貝は成長すると大きくなるんだよ。これは二年ほどだな。たまたまずっと獲られていなかったんだろうな」


「へぇ、シームール貝ですか? なら味は通常のシームール貝と変わらないんですか?」

「いや、そうじゃねぇな! 年月を重ねる度に貝は味が凝縮されて旨さが増していくから通常とは比べものにならねぇよ! まだ、二年物だからビックリするぐらいの旨さしかねぇが、五年や十年さらに二十年や三十年物になると涙を流しながら天にも昇る旨さらしいぞ!」


 なんだよ、その涙を流す旨さって....話を聞くとワインの熟成期間に聞こえるけど。本当に旨いのか?


「その顔を見ると疑ってるようだが、漁師は食材に関して嘘は言わねぇよ! それに、こいつは狙っても獲れねぇからな。次にいつ獲れるかも分からねぇぞ?」


『セイジロウ、買うのじゃ! せっかく珍しい食材を見つけたのじゃぞ! ここで買わねばいつ買うじゃ!』

「セイジロウ、わたしもおっきいの欲しいの! お願いセイジロウっ!」

 マダラが思念を飛ばして催促し、リリアーナは俺の袖を引っ張りながら上目遣いで懇願してくる。


 マダラはともかくリリアーナはそんな技、いつ覚えた? それに、言ってる言葉がちょっとエロくないか? そう思うのは俺だけ?


「んー.....おっちゃん、ちなみにそのシームール貝はいくらするの?」

「そうだな....今の値段は小金貨四枚だが....にいちゃんは市場を良く利用してくれるからな....小金貨三枚と銀貨四枚でどうだ? 正直、下げてもここまでだな。こっちも商売だからな多少は利益を出さなきゃならねぇ!」


 ふむ。おっちゃんがそれなりに頑張って利益を削ってくれたんだ。銀貨六枚の値引きか.....まぁ、仕方ないか。それなりに珍しい食材だしな。


「わかった、それでいいでしょう! 買います!」

「さすがはにいちゃんだなっ! なら、こいつの調理法を紙に書いて渡すからちょっと待ってろ!」

 と、おっちゃんは紙を取り出してサラサラと調理法を書いてシームール貝と一緒に渡してきた。俺はそれをマダラの影の中に保管した。


「にいちゃん、次回も頼むぞー! 毎度ー!」

 と、俺たちが売り場を離れるとおっちゃんが大きな声で言ってきた。俺とリリアーナは手を振り返して応え、マダラは尻尾をフリフリとして応えた。


「セイジロウ、ありがとう! セイジロウ、大好き!」

『ふむ、なかなかな英断じゃったぞ! 食べるのが楽しみじゃな!』

「そうだな、さすがにあの大きな貝を食べるとなると少しワクワクするな! それじゃ、他にも旨そうな食材が無いか見て回るかっ!」


 俺たちさらに漁業市場を陽が暮れる前まで見て回りそれなりの金額と引き換えに大量の魚介類を手に入れた。


 マーマン種のスレイブさんとの時間も近づき約束の鉄板焼き店に向かった。

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