新しい装備と髪飾り
No170
新しい装備と髪飾り
アンリエッタ邸の執事シバスさんに知る人ぞ知る隠れた装備屋を紹介してもらい、俺とマダラ、リリアーナはメイン通りで買い食いをしながら向かっている。
すでに時刻は昼近くになり小腹が空き始めたのだ。朝食をたくさん食べたのに腹が減るとは.......マダラはアンリエッタ邸で食事をしたのに露店の料理を欲しがるし、リリアーナは串焼き肉を三本をペロリっと食べてしまった。まぁ、リリアーナは食べ盛りだから分かるけど、マダラは別に食べなくても良いんじゃないか?
このペースで毎日買い食いや買い溜めをしていたら金がもたない。冒険者ギルドや商業ギルドでの権利契約で一定額の報酬がギルドの口座に振り込まれてるとは言え、近いうちには依頼を受けて金を稼がねば.....
シバスさんに書いてもらった装備屋の場所にたどり着いた。外見はあまり繁盛してなさそうな建物で少し不安に思ったが意を決して扉を開いて店内に入った。
ちなみに、マダラには俺の影の中に入ってもらった。
「こんにちはー!」
「おぅ、いらっしゃいっ!」
俺は挨拶をしながら店内に入り、リリアーナは俺の後ろに衝いて入ってきた。俺の挨拶に返事を返してきたのは、スキンヘッドの強面で長身の男性だった。
「実は、アンリエッタ邸のシバスさんから紹介を受けてきました。知る人ぞ知る隠れた装備屋と伺いまして」
と、スキンヘッドの男性に声をかけた。
「ほぅ、あの方の紹介か....なら、無下には出来ねぇな! 好きに見ていってくれよ! 分からなきゃ俺に聞きなっ! 俺はハスラってんだ!」
「初めまして、ハスラさん。私は冒険者でセイジロウと言います。こっちは、仲間のリリアーナです」
「リリアーナ。よろしく」
「あんたがセイジロウか.....なら、黒白狼使いはあんたか。噂は聞いてるぜっ! そっちのちっこいのは初めてだなっ!」
「ちっこくないっ! 失礼な男は女にモテないって父様が言ってた!」
リリアーナが身長の事を言われて言い返した。確かに、リリアーナの身長は見た目からして少し小さいが......気にしていたんだな。
「おぅおぅ! 俺を見てもビビらずに言い返すとは! 悪かったな、リリアーナだったな。先の発言は謝罪しよう、口が悪いのは生まれつきでしょうがねぇんだ。悪気は無いから許してくれ」
と、見た目に似合わずハスラさんはリリアーナに謝罪した。
「女性に謝罪できる男は器がデカいと父様が言ってた。謝罪を受けとる。ハスラは器がデカい」
「はっはっ! リリアーナの父は良い男なようだなっ! 器がでけぇっなんて言われたのは初めてだぜっ! リリアーナは将来良い女になるだろうぜっ!」
「当然っ! セイジロウの役に立つ。母様のように父様を手の上で転がすような凄い女性になる」
いやいや、なんか色々とツッコミ満載な会話してますがっ!?
しかもリリアーナの母様ってどんな女性だよっ! 手に上で転がすってっ! 完全に父様が尻に敷かれてるじゃん!
「まったく、面白いぜっ! セイジロウって事はお前さんの事だな? 将来が楽しみだな、おいっ!」
「ははは、そっそうですね......それで、今日はこのリリアーナに合う装備を探しに来たんですよ。よければ見繕ってくれませんか?」
俺は苦笑いをしつつ、話題を速攻で変えた。これ以上ハスラさんとリリアーナの会話は危険だと直感が警報を鳴らしていたからだ。
「あんっ? セイジロウじゃなくてリリアーナの装備なのか? リリアーナは戦闘をするのか?」
「リリアーナは冒険者になった。それに、一人でも魔物と戦った事がある」
ハスラさんは、驚きつつリリアーナの顔を見ながら話すとリリアーナが答えた。
「.....そうなのか? こりゃ、さらに驚きだな。なら、リリアーナはどんな戦いをするんだ? それと、どんな装備を求めてるんだ?」
ハスラさんは、リリアーナに質問をしてリリアーナが答える。自分の戦闘方法と欲しい装備と要望を。
「--なるほどな。なら、魔鋼虫の糸で編み込んだ服にグリーンバードの羽付きの革靴、それと、風魔石のベルトだな」
ハスラさんは手際よく店内に飾られている装備品を手に取り選ぶとカウンターに並べていく。
そして、装備品の説明を丁寧にしてくれた。その説明を俺とリリアーナは真剣に聞く。説明をしてくれた装備品はどれもハスラさんが個人的に作った物で一点物だった。どれも時間と金がかかっているだけあって性能的には問題なかった。
ただ、リリアーナのサイズにはデカ過ぎる為に手直しが必要らしく即日渡しは出来なかった。翌日の昼くらいには出来上がると言っていたので、受け渡しは翌日の昼になった。
「では、それでお願いします。代金はその時に払います」
「おぅ! それで構わねぇよ! 仕上げは完璧にしてやるから期待して待ってろ!」
と、強面の顔に似合わず笑顔が無駄に良かった。
俺とリリアーナはハスラさんの装備屋を出るとメイン通りに向かってマダラと一緒に歩いていった。
「さて、リリアーナの装備は手に入ったからどうしようか? リリアーナはどうしたい?」
「.....昨日、見れなかった店を見てみたい」
「そっか、ならまたメイン通りを見て回ろうか! マダラもそれでいいか?」
『ワレは別に構わんぞ。露店の料理を買ってくれるならな』
リリアーナとマダラの要望を聞いて、メイン通りを歩く。たまに、気になる店があるとリリアーナと一緒に店内へと入っては商品を見ていく。
いくつかの装飾店を見てみるがなかなか気にいるものがなく、俺は細工師レイラさんの店に向かった。
細工師レイラさんの店は丁寧な作りの装飾品が売りで俺も何回か足を運んだ。リリアーナの紹介も兼ねて行ってみた。
「こんにちはー!」
「いらっしゃいませって、セイジロウさんじゃないですか。お久しぶりです。最近は全然店に来てくれないから心配しましたよ」
と、挨拶と同時に言われてしまった。
「はは、お久しぶりです。実は街の外で訓練をしてまして。今日は新しい仲間の装飾品を探しに来たんですよ。この子が新しい仲間でリリアーナです」
「セイジロウの仲間でリリアーナ。よろしく」
と、端的な挨拶だがちゃんて頭を下げて挨拶をしていた。
「あらっ! 可愛い子ですね.....(久しぶりに来たと思ったら少女を仲間になんて....もしかしてセイジロウさんは...)セイジロウさん--」
「はい!待ってくださいね! レイラさんが思ってるような事はありませんからっ! 訓練中にたまたま出会って成り行きで仲間になったんです! 決して手を出したりそういう趣向ではないですからっ!」
俺は速攻で説明をした。もう、このやりが疲れたよ.....なんで、少女を連れてるだけでこうも誤解されるんだ? そんなに、俺は少女趣味に見えるのか?
「....分かりました。今はその説明に納得しましょう。それで、リリアーナちゃんに似合う装飾品でしたか?」
レイラさんは渋々といった顔をしながら納得したように見える。たぶん、実際には納得してないんだろうけどリリアーナがいるから掘り下げて会話をするのを躊躇った感じだ。
「えぇ、そうなんです。メイン通りから店を見てきたんですがなかなか良いのがなくてレイラさんの店に来たんですよ」
「わたしの店を選んでくれたのは嬉しいですが、一番に来てほしかったですね」
あれぇ? なんかトゲがあるように感じるの俺だけかな? レイラさんはもっと優しい感じの女性立った気がするんだけど....
「セイジロウは悪くない。わたしが見たいと言ったから付き合ってくれたの」
「そうなの? なら、しょうがないですね。リリアーナちゃんが似合う装飾品をわたしが選んであげるから一緒に見ましょう」
と、レイラさんとリリアーナは一緒に店内を見て回った。
俺はなぜか置いてけぼりをくらい同じ店内にいるのにボッチとなっていた。
おれ、なにも悪い事してないよね? なんでボッチになってるの? ねぇ、なんで....
しばらく俺は店内のオブジェ化として存在していたが、ようやくリリアーナが俺に声をかけてくれた。
「セイジロウ、決まった。見て!」
と、リリアーナの側頭部に緑を基調とした髪飾りが付けられていた。
「へぇ、綺麗だな。良く似合ってるよ、リリアーナ。これは、リリアーナが選んだの?」
「レイラと一緒に選んだの。わたしが風魔法を得意としてるって話したらレイラが探してくれた。わたしもこの髪飾りが気に入った!」
リリアーナはそう説明するとニコッと笑い笑顔を見せてくれた。その笑顔を年相応に見えて可愛らしく同年代の男子がいたら惚れてしまうような笑顔だった。
「そうなんだ!....レイラさん、これはどんな髪飾りなんですか?」
「それは、新緑の結晶を銀細工に嵌め込んで作った物ですよ。新緑の結晶は緑豊かな森で採れてる鉱石です。風魔法を微力ながら増幅させる効果といざとなった時の魔力補充にも使えます」
「そうなんですね! リリアーナにとっては良いものがあって良かったな。なら、これを買います」
俺は代金をレイラさんに払い、リリアーナは髪飾りを付けたままお礼を言ってきた。
「セイジロウ、ありがとう! 大切にするよ!」
「どういたしまして! レイラさんは一緒に選んでくれてありがとうございます。おかげでリリアーナに似合うものが買えました!」
「それなら、良かったわ! また買いに来てね、リリアーナちゃん!」
「ありがとう、レイラ! 今度は、自分のお金で買いに来る」
と、レイラさんに挨拶をしてからメイン通りに出た。空を見上げると陽が暮れ始めてきたので今日の買い物はここまでにして"餌付け亭" へと俺とマダラ、リリアーナは向かった。
今日のそれなりの金を使ったがそれ以上に良い物が手に入った。
装備や装飾品もそうだけど、アンリエッタさんやシバスさん、メイリーンさんにハスラさん、レイラさんにリリアーナを紹介出来た。人脈はお金よりも大事でリリアーナがいざとなったら頼れる人脈が出来たのが何よりの収穫だ。
明日は、マーマン種のスレイブさんにリリアーナを紹介しよう。
こんにちは、紫煙です。ここまで読んで下さりありがとうございます。ブクマ、評価、感想お待ちしてます。