Bランク冒険者
No143
Bランク冒険者
盗賊の一味を捕縛して引き連れて帰ってきた翌日、俺はいつも通りに起きて身支度を整えて宿の食堂へと向かう。
「おはようございます、ロゼッタさん」
「おはようさんだねっ! ずいぶんと久しぶりな感じがするけどギルドの依頼は上手く行ったのかい?」
ロゼッタさんは俺の情報を探ろうとして聞いてきたわけじゃない。ただ、純粋に心配して聞いてきただけだ。
これで実は、情報を探っていたなんて事だったらそれはそれでしょうがないが.....心配してくれてるんですよね?
「はい、上手くいきました。これでまた少しはゆっくりした日常が過ごせますよ」
「そうかい、それは良かったねっ! 体を休めるのも冒険者の勤めさね! 朝食を用意するからテーブルで待っていなっ!」
と、ロゼッタさんは笑顔を見せながら調理場の方へと向かった。
俺は程々に混んでいる食堂の空きテーブルに座り、朝食が用意されるまで今日の予定を考える。
今日は、冒険者ギルドに行って盗賊一味の報酬をもらったら水着の方の確認でもしてこようかな? 上手く行ってると良いけど.....あとは鉄板焼きの方をアンリエッタさんとこで聞いて、終わったらのんびりと街中でも見て回ろうかな。
そんな事を考えてるとロゼッタさんが朝食をテーブルに用意してくれた。
「はいよ、お待ちどうさんだよっ! 久しぶりなんだからしっかりと味わって食べていきな!」
「はい、ありがとうございます。それと、冷たいラームエールをもらえますか?」
「あいよっ! すぐに持ってくるから待ってな!」
朝から冷たいラームエールをグビッとな! ランクアップ試験も終わった祝いにね! ご褒美、ご褒美っ! へへへ!
ロゼッタさんがすぐに冷たいラームエールを持ってきてくれた。
こうやって冷たいラームエールを飲めるのもアンリエッタさんや錬金術ギルドのみんなが頑張って開発してくれたおかげだなっ! いただきまーすっ!
グビッ....グビッ....グビッ.....プハァァ!
くぅーー!! 朝からラームエール最高っ!
俺は久しぶりの"餌付け亭" の朝食をラームエールと一緒に堪能した後は、身支度を整えて冒険者ギルドに向かった。
ちなみに、マダラから受け取った天装具【透縛鎖靭】と【黒衣透翼】を装備した。透縛鎖靭はウォレットチェーンに似た鎖で、黒衣透翼は環境適温能力が付いてるから気温に関係なく最適な温度に保たれるから、火水季の暑い時期でも問題なく着れる。端から見たら暑苦しそうに見えるが、見た目より自身の快適性を選んだ。
△▽▽△△▽▽
冒険者ギルドに着くとすでにギルド内には人がほとんど居なく朝の混雑時間は終わっていた。
俺は受付嬢のシンディさんに声をかけた。
「シンディさん、おはようございます。試験時はありがとうございました」
「おはようございます、セイジロウさん。無事に試験が終わって良かったです。すでに、ギルドマスターには合格通知を頂いてますから新しいギルドカードを発行しますね」
俺は手持ちのギルドカードをシンディさんに渡し、新しいギルドカードを受け取る。
「こちらが、新しいギルドカードですね。それと、セイジロウさんの希望通り盗賊一味は重労働行きの奴隷落ちになりました。こちらが、報酬です」
と、新しいギルドカードにはBランクの記載がされている事を確認して、盗賊一味の身柄報酬と所有していた物質の売却金を受け取った。
「確かに、確認しました。ランクアップはともかく、盗賊の処遇はありがとうございます。私としては盗賊の命までは取る必要は無いと思いましたので。もちろん、被害にあった人達は思うところがあると思いますけど.....」
「それは仕方ない、といったら冷たいかも知れませんが実状ではしょうがありません。それに、今回の件で一つの盗賊が無くなったのは事実です。多少は、被害も少なくなると思います。セイジロウさんが気にする程ではないですよ」
「そうですか.....分かりました。ありがとうございます」
「はい。もし街の外で盗賊に出会った場合はセイジロウさんの判断で対処して下さい。セイジロウさんはすでに高ランク冒険者です。力に溺れる事無くこれまで通り、セイジロウさんの信念に従って行動してくれる事をわたしは期待してますよ!」
と、笑顔で言われたら無下には出来かった。
「私の出来る範囲であれば善処しますよ」
「それで、構いません。ランクアップおめでとうございます!.......では、ギルドマスターが待ってますから案内しますね!」
はい? なぜギルドマスターが?
「あれ? もうランクアップの手続きは終わったんですよね? 何でギルドマスターが?」
「今からは別件になります。セイジロウさんがギルドに来たら案内するようにギルドマスターから言われてますから。ちなみに、詳細は聞いてませんよ」
えぇ、まだ何かあるの.....今日はゆっくりしたいのにぃ.....
俺は内心で愚痴を言いながらシンディさんの後に付いていきながら、ギルドマスターの執務室に案内された。
執務室内のソファで対面越しにサーシャさんと向き合っている。シンディさんが用意してくれた紅茶と焼き菓子をいただきながら。ちなみに、シンディさんはお茶を用意したら退室してしまった。
最初に口を開いたのはサーシャさんからだ。
「まずは、ランクアップ試験合格おめでとうと言っておきましょう。今日からセイジロウはBランク冒険者ね。どう? 高ランク冒険者の仲間入りよ」
「どうと言われましても、実感は少ないですね。これと言って功績らしい功績は無いですし、あの空飛ぶ怪獣を倒してしまった事が今回のランクアップに繋がったので、運が良いのか悪いのか」
そう、ただのDランクの討伐依頼を受けて行った場所に運悪く空飛ぶ怪獣、フェレイバーンを倒した事がきっかけだったのだから。
「良いか悪いかで言えば、良かったのではないの? あのフェレイバーンに出会って生きていたのだから。しかも討伐までしちゃうんだから。さすがにあれを単独で討伐する冒険者をDランクのままにしておく事は出来ないわよ。面倒が嫌なら少し自重する事ね」
「十分に自重してますよ。ギルドの依頼は最低限に受けてますし、マダラの事だって大人しく行動してます」
「そうかしら? あなたが街の外に幾度に黒い獣が森の中を走っていたとか、街中の露天料理を根こそぎ食べ尽くしていくとか、色々と耳に聞こえて来るけど?」
そうなの? いや、それはしょうがなくない? 森の中ぐらいは走り回るし、露天料理はちゃんと買って食べてるよ。買う量はちょっと多いかもしれない.....かな?
「十分に配慮した結果です。被害は出ていないですよね?」
「もちろん、被害は出ていないわよ。ただ、あなたが思ってる以上にあなたはルインマスの街では有名よ。自分から面倒事を避けていても、面倒事はやってくるものよ。その一つがこれね」
と、サーシャさんが自分の執務机の上から数枚の資料をテーブルに置いた。
「えっ、何ですかこれ?」
「まず、一つ目は冒険者ギルド、錬金術ギルド、商業ギルドの鉄板焼き店に関する契約書よ」
それって、もう決まった話じゃなかったっけ?