ランクアップ試験・3
No141
ランクアップ試験・3
出発当日。俺は早朝に冒険者ギルドへと向かい、ランクアップ試験の監視の為に同行するシンディさんと一緒に馬車に乗り込んで、ルインマスの街を出発した。
行きの一日半は馬車移動と魔物の警戒をしつつ、盗賊一味の捕縛の段取りをシンディさんと話しあった。
そして出発から二日後の夜の夕食時にマダラから思念が飛んできた。
『セイジロウ、少し話があるんじゃ』
「どうした? 何か異変か?」
『そうでは無い。この際だからセイジロウに伝えておこうとおもってのぅ。セイジロウは、【宝具】 についてどれ程知っておる?』
宝具?....って何だっけ? 大事なものなのはなんとなく分かるけど.....
「いや、名前ぐらいは聞いた事あるけど、実際は分からないな。その宝具がどうかしたのか?」
『ワレはセイジロウに喚び出された召喚獣じゃ。そして、ワレはセイジロウの守護者でもある。【陽の民】 の血族じゃからな。ワレのヌシ様が陽の国を作りその民がセイジロウなのは理解しておろう?』
「あぁ、マダラが召喚された時に説明してくれたからな」
『それでじゃ、ワレの主であるセイジロウはワレが管理する宝具を使用できる事ができるんじゃ。これは、ワレを召喚したセイジロウだから使えるんじゃよ』
「.....そんな事が可能なのか? 宝具ってのは大事なものなんだろう? それに、宝具ってのは陽の国を創ったマダラのヌシ様のものじゃないのか?」
俺はマダラを召喚獣として喚んだが、マダラを産み出したのは陽の国を創ったヌシ様だ。そのヌシ様の許可なく宝具を使ってもいいのか?
『そこは、問題ないぞ。ワレがヌシ様から授かった宝具をセイジロウが使うだけじゃからな。いわば、ワレの所有物を貸すだけじゃからな』
「まぁ、マダラが良いなら俺は助かるけど.....まずは、宝具ってのを説明してくれよ」
その後、マダラが宝具について説明してくれた。
マダラが言う【宝具】 とは、古来の陽の国に伝わる神器ではなくて、ヌシ様が生み出した従者や従獣に元々に備わっているものらしい。
実際は宝具とは言わず、【天装具】 と言うらしいがマダラはヌシ様から授かった物は宝物だから宝具と呼んでるそうだ。
『まぁ、セイジロウは天装具と呼べば良かろう。それで、その天装具を今から出すから契約をするんじゃ』
「契約? 天装具って契約が必要なのか?」
『そうじゃ、ワレと同じように血で契約をせねば使用できん。それに、血で契約をしておけばセイジロウの思うままに使用できる。まずはやってみるのが早かろう』
と、マダラが言うとマダラの影からその天装具が現れた。
「これは....鎖...か?」
マダラの影から出てきた天装具は、黒い鎖だった。前の世界で若者が身に付けてるウォレットチェーンのような鎖だった。
えっと....もっと凄い物を想像してたんだけどな。どうみてもウォレットチェーンにしか見えないんだけど....
『おい、なんじゃその顔は?』
「いや、もう少しなんか凄い感じを想像してたんだけど.....これがマダラの天装具?」
『そうじゃ、その天装具【透縛鎖靭】 と言うがセイジロウにはちょうど良いじゃろ。では、血を垂らして契約するんじゃ』
俺はマダラに言われるままに短剣で指の先に傷をつけて血を垂らした。すると、透縛鎖靭に血が染み込んでいき、鎖全体に赤色の幾何学的模様が現れた。
まるで、アニメや漫画に出てくるようは模様だ。
「おおっ! こんな風になるんだな」
『それで、その天装具はセイジロウの所有物になったわけじゃ。使用できるのはワレとセイジロウじゃ。ワレの存在が失われるか、セイジロウが死んだ場合は天装具が消滅する』
「なるほどね....所謂、契約者にしか使用できないわけだ。もし、他の人が使用した場合はどうなるんだ?」
『天装具は、ワレの所有物でもあるんじゃ。ワレが認めない限り例え血を垂らしたとしても使用できん。それか、天装具は契約者の意思一つで思いのままじゃ。試しに、離れた場所に天装具を置いてみるんじゃ』
俺は、三メートル程の場所に天装具を置いてみた。
『では、手のひらに天装具が戻るように念じるんじゃ』
手のひらを開いて、天装具が戻るように念じた。すると、次の瞬間には天装具が戻っていた。
「ほぅ、へぇ、なんほど。凄いな!」
『これは、天装具がどこにあろうと契約者が念じれば手元に戻ってくるんじゃ。例え、戦いの最中に手元を離れても盗まれても念じればすぐに戻ってくるわけじゃ。さらに、セイジロウの魔力を流し鎖が伸びるように念じてみよ』
俺は、軽く天装具に魔力を流すと赤色の幾何学的模様が淡く光を放った。そして、透縛鎖靭を振るってみた。すると、十メートル程先にある木の幹に振るった透縛鎖靭が絡み付いた。
「おおっ! 少ししか魔力を流していないのに鎖が伸びた!」
『そのまま、鎖を太くしたり細くしたりと念じてみるんじゃ』
マダラに言われるままに念じて見ると、元の太さの倍ほど太くなったり、元の太さの半分ほどの太さのなったりした。
『太さも細さも自在じゃ。さらに、重さも感じないじゃろ?』
言われて気づいた。この天装具【透縛鎖靭】 は、太さが変化しても長さが変化しても、最初に手にもった重量が変わっていない。まるで、小枝を持ってるぐらいの重さだった。
「これは....さすがに驚くな。一体どうなってるんだ?」
『それが、天装具じゃ。ついでに、そのまま姿を消すように念じてみよ』
マジか....今までその場に見えていた黒い鎖が消えたよ.....あれ? 手の感触はまだ残ってるな。
『天装具が視界に写らなくなっただけで、実体はそこにあるんじゃよ。ちなみに、どんな力を持ってしても天装具には傷がつかん。天装具を物理的に壊せるとしたらヌシ様だけじゃ』
「へぇ、なんて言うか凄い物なんだな天装具って」
『当たり前じゃ。では、最初の状態を念じてみよ。手元に戻るはずじゃ』
うん。最初のウォレットチェーンの状態に戻った。これ、腰のズボンに装備していい?
『あとはセイジロウの訓練次第で熟練度をあげるんじゃ。では、次の天装具じゃ』
って、まだあるの? これだけでもチート級の装備なんだけど!
「まだ、あるのか? 一体いくつあるんだよ?」
『今回は二つだけじゃ。それに、セイジロウの器では二つの使用が限界じゃ』
「んっ? 限界って何か制限があるの?」
『制限と言うわけではない。力を持ち過ぎるとその力に溺れるのが人じゃ。今回、セイジロウは盗賊一味の殲滅ではなく、捕縛が目的なんじゃろ? セイジロウの気持ちや話は聞いておる。ワレからすれば甘い判断だと思うがそれはセイジロウが決めた事じゃ』
たしかに、この世界での盗賊の話はシンディさんから聞いてるし、ハルジオンの遺跡調査でも一人の女性を助けた時にも体験はしてる。盗賊行為は嫌悪するべき事だし憎らしい感情も俺にはあるけど、それでも、ちゃんと裁かれるべきだと俺は思ってる。
「そうだ、今回は殺しは無しだ。だから、マダラが出してくれこの天装具【透縛鎖靭】 は、とてもありがたい物だ」
『じゃから、ワレはセイジロウに天装具を与えたのじゃ。もし、間違った使い方や欲望のままに使用した時にはワレが止めよう。それも、守護者としての務めじゃからな。さて、ではもう一つの天装具じゃ』
マダラの影から黒い衣、コートが出てきた。
「これが天装具? 普通のコートに見えるけど?」
俺は、その黒いコートを手にとり広げてみるけど普通のフード付コートだった。ポケットも何もついてないコートだ。コートの触り心地は良いけどポケット付いてないの? 天装具なのに? しかも、火水季にコート.....暑いよね?
『おい、なんじゃその顔は?』
「いや、別に。ただ、マダラから出てくる天装具って見た目がショボくない? 短い鎖に、ポケットの付いてない黒のコートだよ?」
『お主はワレの天装具を馬鹿にするのか? せっかくワレがセイジロウを想って手を貸してやろうと思っておるのに、気に入らんと言うのか? なら、天装具は貸さんぞ?』
「そっ、そこまで言ってないだろ! ただ、壮大な名前だからそれなりの想像をしちゃうのはしょうがないだろ? それに、能力は凄いの認めてるから! なっ?」
『ふん、まぁ良かろう。説明を始めるぞ。その天装具【黒衣透翼】 じゃ。透縛鎖靭と同じように血で契約をした後に来てみるじゃ。すぐに変化に気づくじゃろ』
俺はさっきと同じように黒いコートに血を垂らした。すると、黒いコートに血が染み込んでいき襟元と袖口、裾に幾何学的模様が現れた。
これはちょっと.....恥ずかしいな。厨二病全開のコートになっちゃったよ。前の世界でこんなコートを着てるのは映画の主人公ぐらい......主人公も着ないか.....とりあえず、ここが異世界で良かった!
「おっ?.....見た目はともかく何か涼しいぞ? これがマダラの言ってる変化か?」
『そうじゃ、周囲の環境に応じて契約者に最適な気温に保つ能力じゃ。着ている時は自然と契約者の魔力を糧とするわけじゃ。さらに、黒衣に魔力を流して姿を隠すように念じてみよ。』
こうか?....何か変わったのか?
「マダラ、魔力を流して見たけど何か変わった......おえっ? 腕が....いや、コートが透明になってるのか? 光学迷彩の能力か」
『そうじゃ、周囲の環境に適応した迷彩能力じゃな。今は、頭部をあらわにしてるが、頭部を覆えば姿が隠せるわけじゃ。さらに、人としての気配も消せるわけじゃ』
へぇ、透明人間か! これは浪漫がある天装具だな! この世界に銭湯が無いのが残念だが、まぁ追々ね!
「これは、凄いコートだな! 素晴らしいよ、マダラっ!」
『ほぅ、やっとワレの天装具の凄さが分かったようじゃな。その黒衣は耐刃の能力も備わっておるから下手な防具を装備するよりその黒衣があれば十分じゃ。他にも能力があるんじゃが今はそれだけで十分じゃろ』
「あぁ、十分だ。これなら、盗賊に気づかれずに捕縛が出来る」
『天装具があれば問題ないじゃろ。じゃが、先も話した通り力に溺れてはならんぞ。使い方次第では簡単に闇に堕ちる。肝に命じるのじゃぞ』
「あぁ、分かってる。それと、ありがとうマダラ。俺は弱い人間だからさ、なるべく出来る事は自分でやるけど無理な時は力を貸してくれよ?」
『当たり前じゃ、ワレはセイジロウの守護者じゃ。今回はワレ自身の力は貸せぬが天装具なら平気じゃろ。夜明け前にはまだ時間があるんじゃ。今の内に天装具に慣れておくんじゃ』
と、盗賊一味の警戒が弛む夜明け前まで天装具の【透縛鎖靭】と【黒衣透翼】 の仕様を確認していった。