火水祭・3
No130
火水祭・3
【火水祭】二日目の今日は祭りを楽しもうと考えた。
昨日は結局、アンリエッタ邸で夕方まで話をしてしまい夕食までご馳走になってしまったのだ。
俺とマダラにとっては旨い食事がお腹一杯食えたから特に問題ないけど、せっかくの祭りの一日を、アンリエッタさんは中年の俺と過ごしてしまったのだ。
マダラと半日程ずっと入れたから機嫌は良かったけど、アンリエッタさんにだって予定はあったはずなのだから.....
祭りが終わったらお詫びに何かしてあげよう。
そして、祭り二日目の今日は街中の散策に力を入れようと思う。まずは腹ごしらえからだ。
「ロゼッタさん、おはようございます!」
「おや、今日は朝から元気だね! 良いことでもあったのかい?」
「いえ、特に何も無いですけど....昨日は友人の家にいたので、今日は祭りをしっかり楽しもうと思いまして朝から気合いを入れただけですよ」
「なんだい....せっかくの祭りがもったいないよ! なら、ギルドに行きな! 場所はどこでも良いけど、祭りの期間中にギルドが指定した露店や店舗を回り一定以上の印をもらうと景品が貰えるそうだよ!」
何それっ?! ちょっと面白そうなんですけどっ! ポイントラリーやスタンプラリーみたいなやつかな?
「へぇ、ちょっと興味ありますね! 分かりました、それに参加してみます!」
「そうかい、なら朝食を食べたら行ってきなっ! 今用意するから待ってなっ!」
俺は相変わらず混んでる中から空いてるテーブル席を探して座る。
少ししてからロゼッタさんが朝食をテーブルに並べてくれて、冷たい果実水を別で頼み朝食に舌鼓を打ちながら食べた。
朝食後は身支度を整えて冒険者ギルドに向かう。
「んじゃ、まずは冒険者ギルドに行くか!」
マダラには悪いが影の中に入ってもらう。たくさんの人混みじゃ動きづらいからな。
冒険者ギルドに着き中に入ると人で溢れていた。冒険者達は当然として、街の住人や旅人、商人なんかも見かける。依頼提示板を見てる人もいるが今日は依頼を受けにきたわけじゃない。
俺は、一番並びが少ない受付に並ぶがそれでも一時間程は並んでいただろう。そして、ようやく順番が回ってきた。
「おはようございます、実は宿で話を聞いて来たのですが、ギルド主催の催し物があるとか」
「おはようございます。はい、こちらの【観光ラリー】ですね」
「その観光ラリーとは何でしょうか? 忙しいとは思いますが説明をお願いできますか?」
「大丈夫ですよ。では、ご説明しますね--」
要約すると、ギルドが推奨する店を回り何かしらの商品を買い店のサインをもらう。
そして、一定数毎に商品が用意されていて、一定数貯めて交換するか最大数貯めて豪華景品を交換する。
ちなみに、最大数の景品はエールサーバーの魔導具だった。
「--なるほど、説明ありがとうございます。助かりました」
「いえ、豪華景品を狙って頑張ってくださいね!」
と、受付嬢の応援をもらったし行ってみますか!
冒険者ギルドを出てメイン通りを進んでいくと、ギルド推奨と書かれた木板が目に入った。
そこは、いつも買い食いをする串焼き肉の露店だった。
「どうもー」
「へいっ、らっしゃ.....なんだい、にぃちゃんかいっ! どうしたい、いつもの買い食いかい?」
露店主に軽く答えるとすぐに常連のような会話が始まった。まぁ、常連なんだけどね。
「はい。買い食いなんですけど、ギルドの観光ラリーに参加してるんですよ」
「おっ! にぃちゃんも参加してるんかいっ! 串焼き肉一本でも買えばサインをすぜ! 観光ラリーの紙は持ってるかい?」
俺はギルドの受付嬢から渡された紙を店主に見せる。
「それだな。観光ラリーに参加してる店には必ずこの木板を提示してるから、この店で買えばサインを貰えるぜ」
「なるほど....ちなみに偽の店とかあったりします?」
「無くはないが、ギルドで巡回パトロールしてるからあればすぐに摘発されるぞ。それに、冒険者ギルドじゃなく他のギルドも参加してるから偽造で店を出すのは難しいはずだ」
「そうなんですね。では、串焼き肉を十本とサイン下さい」
「おぅ! いつも通りだが相棒はどうした?」
「今は休んでますよ。人混みだと歩きにくいですからね」
「そうか....そうだな! あいよ、お待ちだ! また頼むなぁ!」
と、軽い挨拶をして串焼き肉を頬張りながら次の店を探す。
買った串焼き肉のあまりは影の中に入れて、半分だけ食べる許可を与えた。
俺はマダラと思念して気になった店があるかどうか聞いてみた。
『マダラ、気になる店はあるか?』
『そうじゃの、あのカニを焼いてる店が良さそうじゃ』
俺はマダラが気になった露店へと並んだ。それなりに露店には客が並んでいて、十数分並ぶと順番が回ってきた。
「いらっしゃい! お客さんはどれにする? 赤、青、黄、黒だね。どれも身がぎっしり詰まってて味も違うから好きに選びなよ!」
こうして色とりどりのカニを並べて見ても、もう驚かなくなった俺はずいぶんとこの世界、この街に慣れたんだなと改めて思うな。
「どれも食べた事がありますが、黒色のカニは初めてですね。とりあえず、全色を三つずつ下さい。それと、観光ラリーのサインを下さい」
「お客さんは豪快だねっ! 焼くのにちょっと時間くれるかい? 先にサインはしとくよ!」
と、店の端に移動して注文のカニが焼き上がるのを待つ。少しして焼き上がったカニを受け取り、黒いカニの脚を一本だけ残して影の中に保管した。さっそく、カニ脚を食べてみる。
すると、その黒いカニ脚からは想像とはまるで違う味がした。見た目はプリっとした白い身をしているが一口頬張ると、黒胡椒が効いたソーセージのような味がした。
カニなのに味がソーセージってっ! しかも、旨いし! 歯応えは柔らかく前の世界のカニと同じような食感なのに味はスパイスの効いたソーセージの味だ。しかも、ただスパイスが効いてるだけじゃなく、フルーツのような甘さと酸味も口の中に拡がっていく。
俺はすぐにエールサーバーの魔導具を使って冷たいエールを売っている露店を探し、列に並んで冷たいエールを買った。
そして、さっき買った黒いカニを影の中から取り出し殻を剥がしてカニを食べる。スパイスが効いたソーセージのようなカニ身と冷たいエールを交互に口の中へと放り込んでいった。
俺、幸せです。この瞬間が幸せなんです。多分、端から見た俺のエール片手にカニ身を頬張る絵図はヒドイと思うがそんなのは関係ない。焼きたてのカニとエールは最強だと声を大にして言いたい!
今の俺は最強だとっ!!
(ママー! あのおじちゃん泣きながら食べてるよー! いけませんよ、見ちゃいけません。さっ、あっちにいましょう)
などと、言われても全く気にしないからなっ!
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