空飛ぶ怪獣・幕
No114
空飛ぶ怪獣・幕
俺は冒険者ギルドのギルドマスターのサーシャさんが言う、面倒な話を聞いていた。
サーシャさんの話を聞くと、危険指定されてる魔物の殆どが、高ランク冒険者パーティーを推奨とした魔物だそうだ。
そんな魔物をDランク冒険者が、単独討伐したとなれば目立たないわけがない。まぁ、討伐に関してだけ言えば拍手喝采なのだが、ここで問題になるのがDランクと言うランクが、サーシャさんにとっての面倒だという。
Dランクとは、駆け出しまたは初心者を脱却した位置付けになる。通常なら同じランクか一つ上のCランクの冒険者とパーティーを組み、経験と実力を積んでいき上位ランクを目指すわけだ。
そんな位置付けの冒険者が単独で、高ランクパーティー推奨の魔物を討伐すれば冒険者ギルドの評価に疑いがもたれる。稀に実力はあるが依頼を受けずにランクアップに満たない冒険者もいたりすのだが....
だが、俺の場合はコツコツとそれなりにギルドの依頼を受けていて、ギルドの査定は評価されている。あと少し依頼を受ければCランクアップ出来る所までは来ていたそうだ。
しかし、空飛ぶ怪獣ことフェレイバーンを討伐した事によってランクに釣り合ってない実力が見られたわけだ。と、すれば冒険者ギルドは実力に見合ったランク付けを行わなければならない。
今の俺の適正ランクはBランクが妥当だとサーシャさんは言う。
「セイジロウはBランク相当の実力があるのは間違いない。これは、フェレイバーンが高ランクパーティー推奨の魔物を単独で討伐した事で証明できたのよ。まぁ、従魔の力もあるでしょうけど、それも実力と見なされるからそこは納得しなさい」
確かに、パーティー推奨の魔物を単独討伐すれば確かにそうなるよな.....
「て、ここからがギルドの面倒なところで、高ランクすなわちB、A、Sランクの冒険者になるにはランクアップ試験を行わなきゃいけないのよ。ランクアップが決まった冒険者ギルドでランクアップ試験を受ける事になってるわけ」
「とすると、私はルインマスの街でランクアップ試験を受ければ良いんですね?」
「そうよ、セイジロウにとってはランクアップ試験を受けなきゃいけないだけだから、特に面倒な事はないわ。ただ、試験内容を決めるのがわたしの仕事で面倒なのよ。わかる? 今は三ギルド合同の計画が進行中で結構忙しいのよ!」
「そうでしたね。いつ冒険者ギルドの食事処の改装が終わるんです? 見た感じまだ着手してないみたいですけど?」
「今やってるわよっ! 職人との改装案を話してると・こ・ろ・にっ!! あんたのランクアップ試験の内容を考える仕事が入ってきたのよ!」
あー、それは申し訳ない事をしたと思いま....いや、思わないな。だって、別に俺が望んだわけじゃないし、あの空飛ぶ怪獣が来なければこんな事にはならなかったわけだから。不可抗力でしょ?
「セイジロウさん。ギルドマスターは、三ギルド合同計画の面倒な仕事の発起人であるセイジロウがさらに、ランクアップ試験考案の面倒な仕事を突然持ってきた事に苛立っているんですよ。しかも、そのどちらも冒険者ギルドにとって有益なのが、また拍車をかけてるわけです」
「そうなのよー、シンディ! あなたなら分かるわよね! 面倒なんだけど目に見えて利益が分かるから、逃すと痛手だし冒険者ギルドにとって高ランク冒険者は居るだけ助かるわけだから、実力がある冒険者をランクアップしない訳にはいかないじゃない? 別に、普通の時なら良いのよ? でも、タイミングってあるじゃない? なんで今なの? しかも何でいつもセイジロウなの? あたし、セイジロウが嫌いよっ!」
わぁー、ハッキリ嫌いって言われたよ。別に好きで面倒を押しつけてるわけも無くはないけど....今回は偶々ですよ? 偶然が二度三度重なる時はあるでしょ? とは、自己中過ぎだからここはヨイショ作戦で凌ぎましょうか。
「私は別にギルドマスターは嫌いじゃないですよ? むしろ一介の冒険者である私の意見を聞いてくれるサーシャさんには感謝してます。美人で器量があるギルドマスターはそう居ませんからね」
とりあえず、誉めてみる。
「えっ? そっ、そう? まぁ、仕事が忙しくても身嗜みは大事だし、女性としては当然よ。ギルドマスターとしては貴重な意見を進言する冒険者は大切にするわよ。それが、冒険者ギルドをあずかるギルドマスターの役目だからね!」
ふむ、満更じゃないみたいだな。さらに、誉めて押せ押せで押しきる。
「さすが、ギルドマスターのサーシャさんです。女性として美しくまたギルドマスターとしての器量も底が見えない。私はそんなギルドマスターがいる冒険者ギルドに来れて嬉しく思ってます。なのでランクアップ試験の考案という、難しいお仕事を増やして申し訳なく思いますが、どうかその美人ギルドマスターに頑張ってはいただけないでしょうか?」
これでどうだ? ここまでやればいけるだろ?
「そっ、そうね! セイジロウがそこまで言うならしょうがないわね。この、美人で魅力溢れるギルドマスターのサーシャが一肌脱ぐわっ! でも、あれよっ! 脱ぐと言っても服は脱がないわよ! 仕事をやってみせるって意味だからね! まっ、まぁセイジロウがどうしてもって言うなら、食事ぐらいなら--」
「はいっ! ギルドマスターはお仕事に戻りましょう。話は決まりましたからテキパキと仕事を片付けてしまいましょういか。セイジロウさんは、依頼完了の手続きとフェレイバーンの討伐の手続きに、ランクアップ試験の申請書を書いてもらいますから、付いて来て下さい」
ここでシンディさんからのストップが入った。なぜ、ヨイショ作戦中にシンディさんが止めに入ったのかは分からないがとりあえずは話が進んだので問題ない。
よし、とりあえず作戦成功だな。あとは、手続きして終了だ。
▽△△▽▽△△
「セイジロウさんは、女性をのせるのが上手なんですね」
「そんな事ないですよ? 客観的な意見を言ったまでですよ」
今は諸々の手続きの為、別室でシンディさんに教わっている。
「ギルドマスターがあんな風に言われたら、勘違いしちゃいますよ? 最後の方は何か言ってましたし」
「ハハ、ギルドマスターが私なんかを相手にする分けないですよ。面と向かって嫌いって言ってましたし」
「でも、ギルドマスターは顔を赤くしてモジモジしてましたよ?」
「あれは、怒りすぎて興奮してただけですよ。それに、モジモジしてたのは多分お花摘みを我慢してたんでしょ? 少し長い話でしたからね.....はい、書けました。では、ランクアップ試験の日取りが決まったら教えて下さい。あと、報酬は明日取りにきますから。では」
俺はこれ以上面倒に巻き込まれないように、足早にギルドをあとにした。
(セイジロウさんはワザとやってるのかしら?)と、シンディの心の声は当然セイジロウには聞こえる事はなかった。