空飛ぶ怪獣・3
No112
空飛ぶ怪獣・3
翌日は非常食の干し肉を朝食にしてから、夜営道具を手早く片付けてマダラの影の中に仕舞い込む。
「はぁ...朝から干し肉って....ルインマスに帰ったら何か食べよう」
『そうじゃな、干し肉なんぞ塩気が強すぎて上手くないわい』
「お前がっ....いや、よそう。余計に腹が減る。マダラ、昨日と同じで人に見つかりにくいルートで帰るぞ」
『うむ、邪魔な魔物は狩ってよいな?』
「別に良いけど、俺より遥かに強そうな魔物はよしてくれよな」
そうマダラに言ってからマダラな股がってルインマスの街にむかった。
ルインマスの街の帰り道でオークとゴブリンを数体狩り、フォレストウルフも五匹狩って無事に昼手前にルインマスの街に着いた。街門でギルドカードとマダラの確認をしてもらってから門をくぐり、冒険者ギルドを目指した。
途中の露店で串焼き肉と魚介類を大量に買い、半分はマダラの影の中に保管した。今度は、勝手に食べるなと命じておいた。
冒険者ギルドに着いてからマダラにはいつも通りに影の中に入ってもらった。マダラが冒険者ギルドに入ると余計な混乱を生むかも知れないからだ。
最近では、ルインマスの街中でマダラの認知度は上がっているがまだまだ知らない人達が多い。トラブルは出来る限り避けたい。
俺は受付嬢のシンディさんを確認すると、シンディさんの列に並んだ。少し並んだあとに順番が回ってきた。
「ただいま戻りました、シンディさん」
「セイジロウさん、無事に戻られたんですね。お帰りなさい」
「討伐依頼のグレイドレバファロの討伐は終わりました。まだ、解体をしていないので解体をお願いしたいのですが」
「解体をしてない?.....あぁ、マダラの能力ですね。それでは、解体所に案内します。こちらですね」
受付嬢のシンディさんはマダラの能力を知る数少ない人物だ。シンディさんの案内に従って解体所にやって来た。
建物はそれなりに大きく内部もかなり広い。解体所内では見たことある魔物から、知らない魔物の解体が行われていた。シンディさんは、近くの解体員に声をかけると、解体員は足早に誰かを呼びにいった。
シンディさんと少し話をして待っていると、強面の男性が俺達に声をかけてきた。
「わりぃな、待たせた。んで、シンディの用はなんだ?」
口振りからしてシンディさんと面識がありそうだ....しかし、元々の強面に顔に傷があるから迫力が凄いな....
「お呼び立てすいません、ディガンさん。実はグレイドレバファロの解体をお願いしたくて、数は十二頭です。受けてもらえますか?」
シンディさんが話をしてるディガンさん。見た目は四十代から五十代ぐらいで、強面の顔に左目の部分に古傷がある男性だ。服の上からでも分かる筋肉体型をしていて、並の冒険者よりも迫力がある。背も高く百九十センチぐらいはあるだろう。
「ほぅ、グレイドレバファロの群れを狩ったのか? 別にいいが手数料はかかるぞ? それと、ブツはどこだ?」
ブツって、俺は違法取引をしに来た訳じゃないからな...
「グレイドレバファロはセイジロウさんがお持ちです。手数料は正規でお願いしますね。わたしからの紹介なんですから」
「初めまして、セイジロウです。よろしくお願いします」
「おぅ、シンディが直接紹介するなんざ珍しいからな。おれは、ディガンだ。解体所の所長だな」
いきなり所長さんが出てきたよ....解体だけだから別に普通の人でも良かったんだけど....まぁ、シンディさんが紹介してくれた人だから悪い人ではない.....よな?
「はい。まだ駆け出しですがよろしくお願いします。それで、一つ聞きたいのですが良いですか?」
「あぁ、いいぞ。嫁との出会いはな--」
「--聞いてませんからっ! どうしていきなりお嫁さんの話になるんですか?」
てか、その顔で結婚してたのかよ!?.....マジかっ....ちょっとショックだ...
「ディガンさん、真面目にやってくださいよ。もう、結婚から半年は経ってるんですから....皆、聞き飽きてますしミーシャさんも恥ずかしがってましたよ」
「ハハ、悪かったよ。ついな、つい。んで、解体だな。セイジロウは何が聞きたいんだ?」
「えっと....グレイドレバファロの肉は食用に適してますか? もしそうなら肉は引き取ろうかと思って」
「グレイドレバファロの肉は旨いぞ。街中でもたまに扱ってる店があるからな。だが、仕入れが難しくてな....基本、グレイドレバファロは荒野が生息地だからルインマスからだと距離があるんだ。冷却系の魔法が使えるヤツか保存用の魔導具を持っていないと肉が腐る」
そりゃ、確かに。でも、保存用の魔導具があるんだ。まぁ、俺にはマダラがいるから問題ないけど、あとでアンリエッタさんにでも聞いてみよう。
「そうなんですね、じゃあ半分の六体分の肉はこっちに下さい。あとは、全部ギルドが買い取ってくれたら良いですよ」
「おぉ! そりゃありがたいな。話は分かったが肝心なグレイドレバファロはどこだ? 表の荷馬車にでも積んであるのか?」
「いえ、違いますよ。私の従魔が保管してますよ。.....危害は無いですから安心してください。マダラ、姿を現せ」
俺の言葉を聞いたマダラが影を広げて姿を現した。マダラの姿は、黒と白の毛が斑模様で体高はニメートルオーバーに体長は五メートルオーバーだ。さらに、脚が六本もあり通常の獣姿とは異なる。
「マダラ、お座り。....従魔のマダラです」
俺は、行儀よくお座りしてるマダラをディガンさんに紹介した。ディガンさんはマダラの姿を鋭い目つきで見てる。周りに視線を配ると他の解体員達も動きを止めてマダラを見ていた。
「......こりゃ、驚いたな。まぁ、噂には聞いていたが、実物は初めてだ」
「やはり、噂があるんですね。ちなみに、どんな噂か聞いても?」
「んっ? あぁ、知らないのか.....厳つい魔獣のくせにやたら魚が好きだとか、尻尾で殴っただけで数十メートルも吹き飛ばす狂暴な魔獣とか、メイン通りの露店に店主を脅して商品を根こそぎ食い散らかす魔獣とか、黒白狼が食べた露店は売り上げが伸びたなんて話も聞いたな」
微妙にあってるから否定出来ないし....あまり良い噂じゃないんだな....
「....そうですか、別にマダラは悪くないですから。あとは、マダラは獅子犬ですよ。狼より上位ですから、黒白狼なんて呼ばないで下さいっ!」
俺はなんかマダラが貶された感じがしてイラつい。別にマダラは普通にしてるだけだ。脅しもしてないし、食い散らかしてもいない。金は俺が払ってるし、尻尾で吹き飛ばされた人は、マダラが魚を食べて喜んでるときに不用意に近づいたのがいけないんだ。
「せっ、セイジロウさん。気を静かに、大丈夫ですよ。誰もマダラをバカにしてません。ディガンさんは噂を話しただけですから」
あっ....ちょっと感情が表に出ちゃったな....
「すいません、取り乱しました」
「いや、気にすんな。自分の従魔の噂が良くなきゃ気も荒れるさ。俺も訂正出来るとこは話を回してやるから....さて、話を戻そうや。マダラがグレイドレバファロを持ってるんだな?」
「はい、マダラの能力で影に保管出来るんです。状態は、保管した時から劣化はしません。ですが、影の保管には制限もありますから何でもかんでもとはいきません」
「まぁ、それだけの能力だからな。リスクはあるだろうな....じゃあ早速みせてもらうか。場所は....あっちが空いてるからそこで出してくれ」
俺はディガンさんに言われた場所で、グレイドレバファロを十二頭をマダラの影から出した。
それを見ていたディガンさんは、目を見開き驚きの顔をしていたが、すぐにグレイドレバファロの状態を素早く確認していった。
「......とりあえず、状態は確認した。良い状態だな。すぐに処理を初めて解体を始める。明日の朝に受け渡せるようにしておく。.........おいっ! グレイドレバファロの解体だっ! 状態保存の処理をしちまえっ!」
と、大きな声で解体員に指示を出して歩いて行こうとしたのを俺は声をかけて足止めした。
「ちょっと待ってください! まだ、あるんです、魔物が!」
「なんだ? まだ解体してもらいたい魔物あるのか?」
「はい、実はグレイドレバファロの討伐中に乱入してきた魔物がいたので一緒に討伐したんです。魔物の知識が浅くて名前を知らないんですが........マダラ、ヤツを出してくれ」
マダラは、空飛ぶ怪獣を影の中から出した。