家庭教師
今日は家庭教師が来る日だ。
昼過ぎに来ると言っていたが俺は10時ぐらいから既に客間で待っている。
そうだよ、楽しみなんだ。
因みにこの世界の時間は地球と同じだ、理由はよく分からない。
すると母さんが客間に入って来た。
「ミロク、彼女もうすぐ着くそうよ。久しぶりにこっちに来るから距離感を忘れて家を出るのが早すぎたって言ってたわ。でもそんなに遠くないから2時間も早く着くなんて、まぁ彼女が来たら色々教えてもらうのよ」
「はい、母さん」
(彼女って事は女性か、エルフならやっぱり美人なのかなぁ。それにちょっとドジっ子なのかな?母さんも少し呆れてたし。そして今の話からこの世界に電話に似た何かが有るかもしれないという事も分かったな)
トントン
「あら?もう来たのかしら、本当に早いわね。ミロク、貴方はここで待っててね」
「はい」
数分後
トントン、ガチャ
「失礼す、します。初めまして私はエルフのミーファだ、んっ、と言います。冒険者で、アリ、カザドール夫人の友人です。これからミロク様の家庭教師をさせて戴きますのでよろしくお願いします」
入って来たのは緑色の髪をした、耳の長い、とても美しい女性だった。
「よろしくお願いします。それともし敬語が苦手なら普通に話してもらっても良いですよ、先生から敬語で話されるのも少し違和感がありますし」
「そうですか?ではいつも通りに話させてもらう。今日から君の家庭教師として一般常識や歴史、計算などを教えるミーファだ。教師というのは初めてだが期待に答えられるように頑張るつもりだ。呼び方は好きに呼んでくれ」
「ではミーファ先生と呼ばせてもらいます」
「ふむ、ミーファ先生か、悪くないな。じゃあ今度は君の事を教えてくれ」
「はい、では改めて、僕の名前はミロク・フォン・カザドールです。勉強はあまり自信はないですがよろしくお願いします」
「それだけ流暢に敬語で話せるなら頭もいいだろう。まぁいい、さて早速だが今日は君のお母さんに言われた通り君に魔力の使い方を教える」
「魔力の使い方?」
「そうだ。本来は5歳になってステータスを貰ってから教えるんだが、君の魔力の量はハッキリ言って異常な量だから早めに教えておきたいそうだ。だから少し早いが今日から魔力について教えていく」
「はい!お願いします」
(全知で聞けば分かる気もするがあれから話しかけてこない。もしかしてこっちから話しかけるべきなのか?でも最初はあっちからだったし、切る時も勝手に切られたから都合が悪いのかな?)
そんな事を考えているとミーファ先生は早速授業の準備をしてくれていた。
ミーファ先生はペンとホワイトボードを用意した。
(ん?この世界に油性や水性などのペンのインクがあるのか?)
そう思い聞いてみると、彼女が用意しているのは自らの魔力に色をつけ書くことのできるペン、そしてその魔力をその場にとどめるホワイトボードのようなものだ。
つまり色のついた魔力でホワイトボードに文字を書けるという便利なものだ。
しかし難点もある。それは魔力ということで近くにいなければならない。魔力の操作に長けているものは少し離れても問題無いがそれでも宮廷魔法師ですら100m以上離れられないそうだ。
そして消す場合は魔力の供給を切ればいい。
(めっちゃ便利、消す手間が少なくて良いな。でも魔力だから長時間は疲れそうだな)
そう思ったが使う魔力の量は微量で回復の方が早いらしい。
「さて、まずは魔力を感じるところからやってもらう」
「はい!えっとどうすればいいんですか?」
「体の内に意識を向けてみるんだ。そして自身の体の中から一際暖かな流れを感じとる事が出来るはずだ。それが魔力、感じとるまでにかかる時間は個人差があるから焦らなくても良い」
「や、やってみます」
(体の中に意識を……。体の中を何かが巡っている。これが魔力か?でも、なんだこれ?なんだか色んなものを感じる、暖かさの中に冷たさを、冷たさの裏にまた別の暖かさを感じる、魔力ってこんなものなのか?)
{それは違います}
「うわっ!」
「む?どうした?」
「え?い、いえ、なんでもありません!」
「そうか、なら良いが。集中して取り組むんだぞ」
「はい」
(おい!いきなり話しかけるなよ!)
{申し訳ありません}
(まぁいい、それよりさっきの違うっていうのはどういう事だ?)
{マスターが感じているものは魔力と霊力、妖力、そして神力などです}
(?つまり?)
{マスターの体の中は海と同じです}
(海?)
{あらゆる力が世界中から、水が川から海へ流れるようにマスターの元へと集まっているのです}
(なるほど、つまり俺の体には色んな力があるって事だな)
{……。説明はしなくても良かったかもしれませんね}
(いやぁ、ちょっと意味が分からなくて、何で俺の体に?どんな理屈で集まってくるの?とか疑問が絶えないよ)
{それを説明するとなると『世界システム』その物に干渉しなければなりません}
(『世界システム』?)
{世界の法則を司っているシステムで神ですら破る事は出来ません}
(へぇ、そんなものがあるのか)
{はい、という訳で説明はまたの機会にして下さい。それとマスターはそのすべての力を扱う事が出来るので魔力の事だけを考えると魔力がどれなのかを感じ取れるはずです。そして一度感じると後は感覚で使えるはずです、マスターはそれほどの力を持っています。では質問には答えたので失礼します}
(ああ)
そして全知は静かになった。
いなくなったのだろう。
(またさらっと新事実を言って来たな。あっ!名前、まぁまた今度でいいか。それより魔力、魔力)
やっと本来の目的に戻れた。
そして周りに一度意識を向け、初めて気づいた。
ミーファ先生はこちらを見て固まっていた。
「何故もう身体強化が使える!?」
なんだか勝手に魔法を使ってたみたいです。




