プロローグ3
俺は今変な感覚を味わっている。
何も無い空間に「何か」が現れ、「何か」がその場から動くとそこには一本の全貌の見えないような巨大な木が生え、その木の枝の一本一本から小さな宇宙、世界が生まれる光景をまるで目の前で見ているような感覚だった。
(こんなものを見た事は無ければ記憶にも無い、聞いた事すら無いものを何故俺は見ているのだろう。)
「……さい」
(へ?)
「起きなさい」
(ん?なんだろう?聞いた事があるような?とても落ち着く声だ)
「起きなさい!」
「わ!」
「やっと起きた」
目を開けるとそこは一面真っ白な部屋だった。
空からの光で照らされているだけで他には何も無い部屋。
いや、人が1人いる以外は何も無い部屋だ。
「ここはどこだ?」
俺は目の前にいる顔は見えないが恐らく女性だろう人に声をかけた。
「ここは天界、死んだ人間が暮らす場所。あなたにもわかりやすく言うと天国ね」
「天国…、はっ!恵は!」
「あの子なら生きてるわ」
「良かった〜。あれ?俺がここにいるって事は俺は死んだのか」
「そう、あなたは死んだ。その恵という子を助けてね」
「なるほど、俺は死んだのか…」
「…」
「でも恵を助けられたなら良いか…。それで俺は天国で何をすれば良いんだ?」
「貴方は天国にはいけないの」
「え?でもここは…」
「確かに天国よ、でもここは入り口。天国にはまだ入ってないの」
「な、何で天国に行けないんだ?あれか?よくある「あなたが代わりに死んだからこっちは大変」みたいな」
「そんな事はないわ。神をナメないで」
「神?え?神なの?」
「あれ?言ってなかったかしら」
「聞いてないよ!」
そこで彼女はようやく顔を見せた。
純白の髪を腰のあたりまで伸ばしていて、黄金色の瞳をしたとても整った美しい顔をしていた
その姿は俺が実際に見た事は無いがよく知っている姿だった。
「私の名前はセレスティーナ。地球とは違うアガリスという世界の創造神よ」
「セ、セリナ!?」
「っ!どこでその名を!?」
「ゆ、夢で」
「夢?まさかそんな訳…。でもそれだと今回の事も説明が…。あ、あなたは夢でなんて呼ばれていたの?」
「え?た、確か、邪神?だったかな」
「邪神!う、うそ、そんな訳。だ、だってあの人は…」
「な、なぁ、知ってるのか?その【邪神】っての」
「知ってるわ。私が唯一愛した人だもの」
「もしかして殺されたのか、人間に」
「何で、知っているの?」
「夢で見るんだ。神達の為に働いていた光景、君と話していた光景、君とデートしていた光景、そして下界で人に殺される光景」
「うそでしょ、まさかそんな」
「っ!これが本当なら魔王はどうなった!」
「倒されたわ、人間達に」
「そっか、俺が死んだせいで滅んだりしてなくて良かった」
「あなたは変わらないのね」
「え?んっ!」
俺は気がつくとセリナにキスされていた。
「ん、な、何で?」
「私がしたかったから」
「え?」
「さっきまでの態度と言葉、性格、やっぱりあなたはあの人と同じ邪神」
「え?いや、俺は人間…」
「いいえ、あなたは邪神よ、間違いなく」
「でも記憶も無いし」
「あなたの記憶や力の一部は人間が封印しているからね」
「え?そうなの?」
「そう、でも魂はどこを探しても見つからなかった。世界が崩壊していないのを見て何処かにいるのかと思っていたら転生していたなんて」
「転生?」
「そう転生、生まれ変わる事よ。これであの事も説明がつく」
「あの事?ちょっと色々ありすぎてわからないんだけど」
「簡潔に言うわね。生物は普通死ぬと一定時間天国か地獄で過ごし、その後輪廻の輪に入り記憶を消されて転生する。
でも今回あなたは死んだけれど天国にも地獄にも行く事が許されなかった」
「な、何で?」
「そこで出てくるのが神よ。神は死んでも記憶をなくす事なく同じ神へと転生する。
その際に天国にも地獄にも行く事は出来ない」
「じゃ、じゃあ俺は」
「ええ、あなたは間違いなく神よ。力が無くなり神格が弱くなって神界への転生が出来なかったんでしょう。だから人として転生したのよ」
「そうなのか。あれ?そういえば何で俺はここに呼ばれたんだ?」
「それはあなたが輪廻の輪に入る事が出来ないから私の世界に転生して欲しいの」
「地球じゃなくて?」
「同じ世界に転生する為には輪廻の輪に入る必要があるの。だから邪神であるあなたもアガリスでは無く地球に転生したの」
「なるほど、わかった転生するよ」
「え?まだ説明もしてないのに決めていいの?」
「今まで話ていて君が夢で見ていたセリナだって事は分かったし、それなら信用しているから」
「でも夢なんかで」
「俺はその夢を10年以上見ているんだから今の君がどんな人なのかも分かるよ。神達の為に働いて、人間達の為に行動して、世界中生物達の為に身を粉にしていたのを見たからね。そしてそんなセリナだからこそ俺も好きになったんだと思うよ」
「それは記憶が無い頃の、邪神の頃でしょ。信用されるのは嬉しいけど…。私はそんなに素晴らしい神じゃない」
「違うよ、今の俺も君が好きなんだ。夢で見ていた頃から、そして今話していてやっぱり好きなんだと思った。君が素晴らしくない?そんな事は無いよ、俺から見たら君は全部が素晴らしいと思っているよ」
「そんな事言われたら何も言えないじゃない。分かったわ、じゃあ転生の事について説明するわ」
「うん」
(俺にとって君は初恋だった。夢で見たその時から。でも叶わないと思ってその想いは捨てた。でもそれが叶うならそんなに嬉しい事は無い。君の為なら俺はどんな話でもお願いでも聞こう)




