プロローグ2
「私の淹れたお茶は美味しい?」
「うん、美味しいよセリナ」
俺は今セリナとセリナの家の庭でお茶を飲んでいた。
魔王の事で忙しいセリナだが少し休憩している短い時間で会っているのだ。
「もうすぐ下界に行くのよね?」
「うん、【美徳スキル】の事を伝えないといけないからね」
「ごめんね、私が信託を今使えないから」
「気にしないでよ。これは俺が好きでやるんだ。それに好きな人の為には動きたいから」
「あ、ありがとう///」
「じゃあそろそろ帰るよ、明日は下界に行く為に力を制限する作業があるから来れないから」
「下界に行く時は見送りに来るから」
「ああ、分かって。じゃあね」
「ええ、またね」
場面は変わり、
「気をつけてね。今の邪神は力を制限していて人と同じ力しかないんだからね」
「分かってるよ、じゃあ行ってくる」
邪神は光に包まれて下界へと降りていった。
「なんだか嫌な予感がするけど気のせいよね」
邪神は今光に包まれ【教国】というセリナを最高神として崇めている教会が最高権力を持つ国の教会に現れた。
「ここが下界か、始めてきたけど綺麗な所だな」
「ようこそおいで下さいました神よ」
年老いた神父が話しかけてきた。
「ああ、今日はある事を伝えに来たんだ」
「はい、存じております」
「あれ?言ってたっけ?」
「いえ、ですが貴方様が邪神であるという事は分かっております」
「へ?」
その瞬間俺の体は周りから現れた多くの騎士の槍で串刺しにされた。
「ぐふ、な、なんで?」
「予言があったのです。邪神が現れる、魔王を生み出したのは邪神だと」
「そ、そんな事はしていない。かはっ、俺はセリナに頼まれて…」
「我らが最高神様をそのような呼び方をするなどなんたる愚行!殺しなさい!」
「ま、待ってくれ!俺は!ぐはっ!」
「はっ!はぁはぁ、またこの夢か…。なんなんだよ!」
俺の名前は工藤 零。
近所の高校に通うごく普通の高校生だ。
最近の悩みは毎晩同じ夢を見る事だ。
もう何年も前の事、夢の中で俺はセリナというこの世の物とは思えない様な美貌を持った女性と親しそうに話している夢を見るようになった。
それからしばらくして今度は自分が教会のような所で殺される夢を見るようになった。
この夢はやけにリアルで、一度体の痛みで起きた事もあったが傷もなく、体が痛みを感じる程のリアルな夢なのだ。
「セリナって子を見れるのは嬉しいけど死ぬところなんて見たくないっての」
「はぁ、まだ五時だけど目が覚めたから準備するか」
今日は学校がある日だ。
こんな日に限って自分が死ぬ夢で夜中に起こされる。
そのせいで授業中に寝て、何回先生に怒られたことか。
「おはよう」
「あら?あんた最近早起きね」
俺に返して来たこの人は俺の母親の工藤 恵子。
最近白髪が生えて来た事を気にしているがまだ二十代でもギリギリ通じるような見た目をしている。
「最近毎日あの夢を見るんだよ」
「まだ言ってるのか?気にしないのが一番だぞ」
そう言うのは俺の父親の工藤 蓮二。
結構良い企業の重役で稼ぎは良い。
「俺もそのつもりだけど…。流石に毎日殺される夢はきついって」
「それはそうかもな。でも人に殺される夢は意味が逆転する「逆夢」であり吉夢って聞いたことあるぞ」
「それでも毎日は不吉だろ」
「たしかに。まぁ気にすんな」
「やっぱり、それが良いよな」
「はいはい、その話は終わり。朝ごはんよ」
「うん、あれ?薫は?」
「まだ寝てるわよ」
薫とは俺の妹の工藤 薫だ。
現在中学生の2年だ。
「そういえば今日は振替休日で休みって言ってたな」
「そうだ。学生はいいよな」
「学生の俺に同意を求めないでくれ」
「それもそうか。じゃあ俺は行ってくる」
「いってらっしゃいあなた」
「いってらっしゃい」
「いってきます」
「あんたもそろそろ行かなくていいの?」
「やば!早起きしたのに!」
「こら!パン咥えたまま部屋に戻らない!」
「時間がない!」
「もう!」
通学中
「それにしてもやっぱりあの子を見ていると胸が締め付けられそうになるな。可愛かったなー」
「何ニヤニヤしてるのよ」
「ん?なんだ恵か」
「恵かって何よ!その恵さんで悪かったわね」
こいつは椎名 恵。
家が近くて、所謂幼馴染という奴だ。
それに高校、いやこの街一の美人といってもいい。
そんな奴と話していると苦労が多いが、俺もこいつの事は好きなのでそんな事は気にしない。
「別にそんなつもりで言ったわけじゃないって、またあの夢を見たんだよ」
「また?最近毎日言ってない?」
そう、こいつは俺の夢について知っている数少ない人間の1人だ。
「マジで毎日殺されるのは勘弁して欲しいよ。今日もそのせいで五時に目が覚めたし」
「いい事じゃない」
「良くないわ!まだ寝たかったのに。また授業中寝ちゃうよー」
「我慢するって選択肢は無いわけ?」
「そんなのきついじゃ無いか」
「あんたに聞いた私が馬鹿だった」
「まぁ、出来るだけ起きてるよ」
「眠くなったら?」
「ん?寝るよ」
「寝るな」
そんなやり取りをしていると学校に着いてしまった。
「私は職員室に用があるから先に行ってて」
「おけ」
そう俺たちは同じクラスなのだ。
だからよく一緒に教室に入るがその時の周りの視線がマジで怖い。
視線だけで殺されるんじゃないかってぐらい。
比喩じゃなくマジで、殺意って向けられ続けると感じ取れるようになるもんなんだな。
ガラガラ
「やぁ、零くん。今日は1人で来たのかい?」
教室に入るなり声を掛けてきたのは新道 煜。
学校一のモテ男だ。
イケメンで文武両道、女子への人当たりが良い良いから凄くモテる、が男子への当たりが強く俺は苦手だ。
「いや、恵と来たけど」
「あはは、そうか。君ごときが恵を呼び捨てにするなよ」
そう、こいつは恵が好きなのだ。
それなのに俺と一緒に居るのが気に食わないのかすっげぇ絡んでくる。
「いや、俺は恵にこう呼んでくれって言われてんだよ、一々言われる筋合いはない。お前にはどう呼ぼうが関係ないだろ」
「関係あるさ、彼女は僕の物だからね」
「恵を物扱いすんなよ。あとその言い方キモいぞ」
「チッ、調子に乗ってんじゃねえぞ」
ガラガラ
「みんなおはよう」
「おはよう恵」
「うん、おはよう。零こんなとこで何してんの?」
「いや、別に何も。それより用は終わったのか?」
「終わったから教室に来たのよ」
「それもそうか」
「早く席つこう」
「そうだな。じゃあな煜」
「チッ」
「朝から喧嘩するのかと思ったぞ」
そう言って来たのは隣の席に座る天崎 天哉。
俺の一番仲のいい友人だ。
煜程じゃないがそれでもかなりのイケメンである。
「俺はしても良かったが」
「お前って本当椎名さんの事になると怖いよな」
「そうか?」
「そうだって、お前からの圧が凄くて助けに行けなかったからな」
「そんなにか?」
「ああ、お陰で頭を机に押し付けられたよ」
「おい、それ寝てただけだろ」
「いや〜、こわかったなー」
「せめてもうちょっと演技しろよ、棒読みすんな」
「あはは、悪い。てか、そんなに大事なら告れよ」
「それが出来たら苦労しないって」
「もう何年の付き合いだよ。言えばきっとOK貰えるって」
「付き合いが長いからこそ言いにくいんだよ」
「そういうもんかね」
「そういうもんなんだよ。リア充には分からないでしょうね」
「俺でもいけたんだからいけるって」
「お前はイケメンなんだからそりゃあいけるだろ」
「そういうお前もイケメンな方だろ」
「そんな事お前に言われても虚しくなるよ」
そんな事を話しているとホームルームが始まり、授業が始まり、また寝て怒られて学校が終わった。
俺は今恵と帰っている。
俺と恵、それから天哉も部活には入っていない。
いつもは天哉も入れた3人で帰っているが天哉は今日は彼女とデートだそうだ。
帰りにまた煜が絡んできそうだったがすぐに逃げた。
「あー、やっと終わったー」
「零、流石に寝すぎよ。そんなに眠いなら早起きしたんだから二度寝はしたら?」
「それも考えたよ、でもあの夢見た後に寝ろっていうのはきついわー」
「そうなんだ。それでもしっかり休んで学校で寝ないようにしなさいよ」
「はいはい」
「本当にきつい時は保健室に行きなさいよ。零がキツそうなのは私も嫌だから」
「ん?心配してくれるのか?」
「心配ぐらいするわよ」
好きなんだから当たり前でしょ。ボソッ
「ん?何か言ったか?」
「なんでもない!早く帰るわよ!」
口に出した恥ずかしさからだろうか、私は私の前にある横断歩道の信号が青だったから左右確認もせずに飛び出してしまった。
「危ない!」
「え?」
その声が聞こえて来て振り返ったときには私は零に突き飛ばされていた。
「へ?」
声を出す間も無く目の前を大型トラックが通り過ぎた。
零を吹き飛ばしながら。
「っ!きゃあああ!零!零!」
止まったトラックの運転手が降りて来て顔を青ざめさせながら何処かへ電話している中、私は零を必死に呼んだ。
返事は返ってこず、トラックの前に行くとそこには血が付いていて地面にも血が付いていた。
私はそこで意識を失ってしまった。
「今日、高校近くの横断歩道で信号無視のトラックに男子高校生が女子高校生を庇って轢かれるという事故がありました。
現場には血が大量に残されていましたが被害者を発見する事は出来ませんでした」




