タケミカヅチの誘い
「ミロクー」
父さんの俺を呼ぶ声が聞こえる。
だがそれを気にする余裕は今の俺には無い。
何故って?
目の前の男が俺を連れ去ると言い始めたからだ。
「連れ去るってどういう事?」
「お前を強くしてやるよ。まだ子供で弱いからな」
「でもなんで強くならなきゃ?」
「お前の存在が魔王にバレた、そしてお前の力を魔王は欲している。となれば襲われるのは必至、だからこそ強くしてやる」
「なんでバレた?」
「いや、あんな転移魔法使えばバレるだろ。
それにお前が生まれた時に世界中の魔力測定器に反応が出たからな」
「は?なにそれ?聞いてないんだけど、どういう事?」
{申し訳ありません、忘れてました}
「はぁ!?んな大事な事忘れるか!
いや、今言っても仕方ないのは分かるんだけどさ!忘れんなよ」
{申し訳ありません}
「もういいよ、謝られるとこっちが気まずいし、いろいろ助けられたから許すよ」
「話は終わったか?」
「はい。ん?なんで全知のことを?」
「ん?そいつ全知なのか!あははは、お前面白いやつに好かれるなぁ!」
「え?知ってんのか?」
「おう。そいつはな{黙りなさい、殺しますよ}……いい奴だから仲良くしとけよ」
「う、うん」
(今全知が何か言った気がするが俺には何も聞こえなかった。
だが前の男が震えてるし聞かないほうがいいだろう)
「ミロク!そいつが敵か!」
父さんがそう言いタケミカヅチに持っていた槍を向けた。
「ん?あんたがミロクの父親か?」
「ああ、そうだ」
「そうか。じゃあこいつ貰ってくから、また少ししたら返しにきてやる」
「は?」
「えっ、ちょっ」
そう言い俺の体を抱き抱えタケミカヅチはこの場を去った。
2秒後
「悪い、忘れ物してた」
「はっ!いきなりの事で驚いたぞ!ミロクを連れて行くとはどういう事だ!」
「本当に少しだったね。恥ずかしくない?」
「てめぇは黙ってろ」
「はい」
こいつ殺気飛ばして来やがった、チビるかと思った。
「おい!あんたの家は何処だ?」
「む?何故俺の家を?というか誰だ!?」
「俺の名はタケミカヅチ、あの有名なタケミカヅチ様だ」
「しらん!」
「え?知らないの?マジで?」
「日本の神なんだから知られてないでしょ」
「あっ!そりゃそうか。じゃあお前の運命の人を連れてこい」
「え?ミーファ先生とサラを?」
「ああ、取り敢えずその2人を連れて来い」
「えーと、じゃあ取り敢えず下ろしてくれない」
「あーそうだな。じゃあ連れて来い」
「一緒に来てよ」
「なんでだ?」
「いや、俺連れてくる理由知らないし」
「そういや言ってなかったな。じゃあその辺の話もお前の家でしてやるよ」
「お前は敵じゃないのか?」
「ああ、敵ではねぇよ」
「敵ではないよ、多分」
「多分か、まぁいいとりあえず家に行こう私について来い」
「分かったよ父さん」
「んじゃ、行きますか」
場所は変わり俺の家
周りの家族や家臣からの視線で内心穏やかではない。
そして隣にいる金髪の男がニヤニヤしながらこっちを見てくるのも腹立つ。
「お前こんな美人に将来有望な子にセリナに、世界中の女と運命とかどんだけ勝ち組だよ」
「いや、まぁ、その分大変なこともあると思うから」
「じゃなきゃ割に合わねぇよ」
「で?お前は誰なんだ?」
「おっと、名乗るのを忘れてたな俺はタケミカヅチだ」
「それはさっき聞いた!何者だと聞いているんだ!」
「あー、俺は、まぁ、神?」
『は?』
俺以外みんなの頭に疑問符が浮かんでいた。
「まぁ、そうなるだろうな。神なんて名乗る奴がいたらどう見てもイタイやつだからな」
「えーと、本当か?」
「まぁ一応は、これでも有名なんだぞ」
「証拠はあるか?」
「証拠?」
「ああ、正直俺はその話を信じていない、そしてここへ連れて来たのはお前が敵だった場合に速やかに拘束する為だ」
「なるほどな。うーん、証拠か、どうしたものか」
「持ってないの?神の身分証明書みたいなの」
「んなの、あるわけねぇだろ。強いて言えば俺の存在が証拠だ」
「じゃあ神力は?」
「おっ、確かに!あれは神にしか使えねぇな」
そう言いタケミカヅチは体に青い光を放つオーラを纏った
「ふぅ、神力はあんまり使わねぇからキチィなぁ」
「これは!創造神様の神殿で感じた物と同種の力!?まさか本当に神なのか?!」
「そう言ってんだろ、そしてこいつはその創造神様に愛されている所謂神童ってやつだ」
「なんと…」
「こいつが魔力を持ってるのは知っているだろう?
ステータスを授かる前に魔力が貰えるなど有り得ない、何故ならステータスを授かって初めて神に認知され、一人前の人として認識される。だがこいつは生まれた時から神に目をつけられ愛された存在だ」
「そんなこと聞いた事が…」
「当たり前だ、こんな事これまで起こってねぇ。余程こいつがカッコ良かったんだろうよ」
「あの〜」
「ん?どうしたエルフのねぇちゃん」
「私が呼ばれた理由はなんですか?」
「呼んだ理由はお前達を強くする為だ」
「強くする?」
「ああ、運命の相手に選ばれた時点から何かしらの大きな波に呑まれるのは分かっていると思う。そして今回は俺たち神ですら予想外の運命糸の結果がでた。
だからこそ俺らもこれまでと同様ではダメだという結果に至った。
そのことからお前たち全員を強くしてどんな困難にも打ち勝てるようにしようとしている。
それとこれはまだ言ってなかったが、ミロク、お前の相手には神も含まれていたし、神格を持った存在に、別世界の人間もいた。
お前は認識できていなかったがまず間違いない。この意味が分かるか?」
「えーと?どういうこと?」
「つまりはお前達は他世界すら巻き込んだ巨大な運命の中に身を置いているということだ。
全11次元ある世界の全てがお前達にかかっているということだ」
『なっ?!』
「まぁ脅すような事言ったがまだ確実ではないからな、ただ他世界を巻き込んだ何かが起こるのは間違いない。
それが良いことか悪いことかは神が言うのもなんだが、それこそ神のみぞ知るというものさ」
「えーと、マジで?」
「マジもマジ、大マジだ」
「そんな大役をウチの子が」
「そうだ。そういえばお前、姉がいるだろ」
「いますけど」
「良かったな、リアル姉系ヒロインだぞ」
「はぁ?!」
「いや〜、まさか家族まで運命の相手だなんてお前は強欲だなぁ」
「いや、そんなことねぇよ!ん?でも姉さんは連れて行かないの?」
「ああ、お前の姉はまだだ」
「まだ?」
「ああ、まだその時じゃない。今はその2人だけついてくれば良い。それ以降の奴らはお前が育てろ」
「理由は?」
「それはそこにいる2人以外の人間の能力を俺が育てられないからだ。そして他の神も魔王の事でそんな余裕がねぇからだ。それに他の奴を探す時間も勿体ねぇからな」
「なるほど、それでいつ行くの?」
「行くつもりなのかミロク」
「えっ、うん」
(確かにいきなり現れた奴の話にこんなに乗り気なのは不思議だよな)
「そうか、分かった。だが2年だ」
「え?」
「2年経ったら帰って来い。5歳になるとステータスの授与や王城でのお披露目会、学園など貴族としてやるべき事が多くあるからな」
「えーと、帰れる?」
「お前が頑張ればな、ただ俺的には厳しいと思う。せめて3年4年欲しかったところだな。
まぁ間に合わなければ無理やり終わらせてやる」
「ならば、ミロクをよろしくお願いします」
「おう、任せとけ。それとそこの2人は?」
「えーと、私は…」
「私は行きます、ミロク様のメイドですから」
「わ、私も行きます」
「いいのミーファ?」
「いいのよ、私には家族も居ないし何をするにも自由だからね」
「そう…、無事に帰ってこれるのよね?」
「ああ、そこの2人は確実に帰ってくる、だがミロクに関しては少し危険な訓練もするから片腕ぐらいは覚悟していたがいい。まぁ、そんなのは少し修行すれば治せるようになるから無事に帰ってこられるだろう」
「息子を、この子達をよろしくお願いします」
「どんな困難にも立ち向かえるようにして下さい」
「任せておけ、それと一応言っておくと今あんた妊娠してるぞ」
『へ?』
「その子も未来に影響するかもしれないから自分の体は大切にしろよ。最後にそれだけ伝えておく、よし行くぞ」
「えーと、外真っ暗なんだけど」
「あ?一瞬でいけるんだから明るいも暗いもねぇよ」
「あの、妻が妊娠していると言うのは?」
「あぁ、丁度二ヶ月ってところだな。元気な子を産めよ。姉がそうだったんだ、もしかすれば妹も…」
「まっさかー、そんなわけないでしょ」
「…………」
「ねぇ、なんとか言ってよ。黙るのはずるいって」
「まぁ、成り行きに任せろ。男ならドンと構えとけ」
「はぁ、仕方ないそうなったら考えるか」
(へぇ、相当この世界に馴染んでるな。近親相姦に対しての嫌悪感や倫理観が前世とかなり違うな)
「え?なんだって?」
「いんや、なんでもねぇよ。ただ姉妹と結婚して子供作っても障害とかは持たねぇから安心しとけ、この世界の人間の遺伝子は障害を持つことはほとんど無い。
魔力がそこを補うからな。
ごく稀に魔力を持たない者が障害を持つことがあるぐらいだ。
そんなのは何億年に一つの確率だ。
それにお前の子ならまず無い。
(神が障害を持つことはないからな。神の子はもちろん神だ)」
「へぇ、そうなのか。魔力って便利だな」
「じゃなきゃ肉体を再生させる事なんて出来ないからな。魔力は万能であり、無限の可能性を秘めている。まぁ神力には及ばねぇがな」
「神力ってえげつないな」
「まぁ、それについてもこれから教えてやるよ。長居しすぎたなもう行くぞ。嬢ちゃん達は
準備できたか?」
「「はい」」
「んじゃ、行きますか」
そう言うと俺たちの体が雷に包まれた。
不思議と痛みや痺れは感じなかった。
「気をつけるのよ」
「必ず無事に帰ってこい」
「うん。
必ず帰ってくるよ。
シリカ姉さんとオリバー兄さんによろしく言ってて」
「ああ」
「じゃあ行くぞ」
『行ってきます』
「行ってらっしゃい」
その言葉を耳にしたのを最後に俺たちの体はその場から消えた。
「行ったか」
「ええ、そうね」
「寂しくなるな。だが男が自分の意思で決めたのだ認めてやらねばな」
「そうね。これからのあの子の幸せを願っておきましょう」
ミロク視点
「これからどうするの?」
「お前には仙術と神術、魔術に神術、などのあらゆる法術を学んでもらう。
もちろん武術もな。
武術は俺が残りはセリナが教える。
そっちのエルフの嬢ちゃんは弓をそっちのウサギちゃんは体術を俺が教える。
分かったか」
『はい』




