プロローグ1
この世界には無数の神が存在している。
多くの善の神がこの世界を回している。
しかし世界は善で溢れているわけではない。
創造神、破壊神、全知神、その他の一部の神以外は人々の願いによって生み出される。
人々の願いで生み出されない神の中には邪神という悪や欲を司る神も存在している。
なぜ邪神が生み出されるのか疑問に思う者も多いと思うが邪神がいなければ善と悪のバランスが崩れ世界が崩壊してしまう。
しかし邪神が存在していると世界には犯罪などが急増する。
その事から人々は邪神は悪、殺さなければいけないと考えている。
ここにも一柱の邪神がいる。
創造神により生み出されたが名を与えられず、邪神として神々からは畏怖と嫌悪の目で見られ、全ての神に避けられていた。
「はぁ、また誰とも話せなかった。もうここ500年ぐらい誰とも話してないよ。流石の邪神でもそろそろ寂しいよ。どうすればみんな仲良くしてくれるかな?」
これが最近の悩み。
声に出しても誰も答えてくれない。
「ならみんなの為に行動を起こしてみたら?」
「へ?」
しかしこの日はこの声に応えてくれる者が居た。
「そ、創造神様!」
そう彼女はこの世界の生みの親でこの世界に存在する全ての神に名を与えた神。
そして俺という邪神を生み出した神でもある。
「な、なんでここに?」
「私が自分の神界に居たら悪い?」
「い、いえ」
「ふふ、冗談よ。今日は暇だったから下位神界遊びに来たら君の声が聞こえてきたからこうして話に来たのよ」
神界とは神々が住む世界。
罪を犯す事は許されず争いは禁じられ神格を持たぬ者は入れない世界。
そんな神界には3種類ある。
1つは神王や神姫といった全ての世界の神の上に立つ者たちの住む皇位神界。
2つ目は創造神や破壊神などの上位神が住む高位神界。
俺もここに住んでいる。
3つ目はその他の神や神格を手にした者が住む下位神界だ。
ここに住む事ができるのは例えば獣神や神格を手にした竜神とかだ。
「それでさっきの質問の答えだけどみんなの為に行動を起こせばいいのよ」
「行動を?」
「そう。困ってる人を助けたり、傷ついている者を救ったり、そうするだけで自然と人はやってくるものよ」
「でも前にそれをしたら偽善者と言われました」
「いいじゃない偽善者。それを続けていけば誰もが認める善者になれるのよ」
「確かにそうですけど…。俺は自分に自信が持てないし」
「何言ってるのよ、あなたが居なければ世界は存在出来ないのよ。自信を持ちなさい!分かった?」
「はい…。分かりました。なんだか創造神様と話していると元気が出てきました!」
「ふふ、そう。なら良かったわ。私のことはセリナと呼んで」
「え?セリナ?」
「そう、それが私の名前。特別よ」
「わ、分かりました」
「ふふ、じゃあまたね」
「はい。さようなら」
この日の会話から俺は困ってる神がいたら助け、助け、助け続けてみんなから認められるようになった。
頼られることも多くなり、友人も出来た。
だが1番の変化はこれだろう。
「じゃあ行きましょうか邪神」
「うん、セリナ」
俺とセリナは付き合い出したのだ。
あの日からの俺の行動を見て惚れたのだと聞いた。
デートをしていると周りからの視線が凄い。
でもそれは決して悪い感情のこもった視線ではなく、セリナに対する視線だ。
セリナはこの世界を生み出してからの何千年もの間1人で世界を見守り人々を見守り時には神託を下ろし助けるといった生活を続けていた。
たまに見かけると顔には疲労がたまり神々からはいつも心配されていた。
しかし俺と付き合い出してセリナは顔色を良くなり疲労がたまっている様子もなく時折見せる幸せそうな顔を見ては神々は安心していた。
そんな生活が何年も続いたある日。
世界にはこれまでにない程の危険が迫っていた。
それは【魔王】という生物が突如地上に現れたのだ。
下界の人々はこの存在に恐怖し、神界はその正体を掴むのに躍起になった
後に分かった正体は魔物の王。
俺、邪神が持っている【大罪スキル】の1つを持っているという事も分かった。
それと同時に俺が魔王を生み出したとまで言われてしまっている。
そこで俺はある助言をした。
それは【大罪スキル】にはそれぞれに対する【美徳スキル】がある。
そのスキルを持つ者を下界に現れさせようと言った。
そしてそのスキルを持つ者を生み出した。
その事を下界に伝える為に俺が力を制限して下界に降りるという事に決まった。
信託でも良いという話も出たがセリナが多忙の為、暇でセリナの恋人である俺が行く事になった。
多忙な理由はセリナが他の世界では産まれてはいない【魔王】という存在が何故この世界にいるか分からない、他の世界にも魔物はいるが、【魔王】という記録は存在していない、その事を神王と共に調査しているからだ。
下界に降りる日俺はセリナを始めとする神々が見送りに来た。
「気をつけてね。今の邪神は力を制限していて人と同じ力しかないんだからね」
「分かってるよ、じゃあ行ってくる」
この日、一柱の神が消えた。
人間に殺された。
この事に神々は怒り、人々は歓喜した。
同じ時期に【美徳スキル】を持った人間とその仲間が魔王を倒した。
神々の怒りはとても大きな物だったが、人への愛を無くすには至らなかった。
この時以来、神は下界への必要以上の干渉をしなくなり、人々は【美徳スキル】をくれた神々をより一層信じ、頼るようになった。
邪神が居なくなった世界は崩壊へと向かうと思われていたが世界に大きな変化は訪れなかった。
それが何故かは誰にも分からない。
ある日
「ハッハッハ、これで後は俺が…」
誰もいない家の中で1人の男が笑っていた。




