追憶の旅人エンディングその2
それは戦艦だった。
宇宙を航海する戦艦。
表向きは物資を運ぶ輸送船。
だが、イザヤ艦長が本気を出すとき、イスタリアスは真の役割を果たすための無敵戦艦イスタリアスとなる。
「イザヤ艦長! メルテックスから緊急打電。艦長の力を貸してくれとのこと。いかがなさいますか?」
オペレーションのシシスが乙女な声を張り上げる。
「メルテックスからのコールサインを無下には出来ない! イスタリアス次元回廊オープン!
スティルアグレデシアインフィニティシステム開放!」
声はトイレから聞こえた。
「イザヤ艦長! お腹痛いんですか? だ、大丈夫なの?」
シシスの口調が心配そうなものに変わる。
「大丈夫さ。シシス、君のためにも頑張ってくるから」
「はい! インフィニティシステムエネルギーをイザヤ艦長にダイレクトに回します! 頑張ってきてくださいね」
「ああ」
ようやくトイレからイザヤが出てくる。
「スティルマティグアフルディノベノティック!」
イザヤの意識が存在が遥か彼方のメルテックス星系に繋がる。
「イザヤ大ワープ!」
「行ってらっしゃいませご主人様」
シシスがボタンを押す。
イザヤが消える。
イザヤはメルテックス星系の一つの瞳衛星に立っていた。
真空?
放射線?
そんなものはフルディノベノティック形態イザヤには関係ないのだ。
フルディノベノティック形態?
「スティルマティグア形態からさきの形態さ」
アルスの世界での死闘から色々あったのだ。
恋人シェハルとの古き盟約。
古き盟約後のシェハルが伶廊桜となり、アルスの世界の旅人となった。
アルステリウスの万華鏡たるアルスの世界を掌握する夜薙白姫。
アルスの世界を征服したアルス帝国。
その基盤たるアルスの一族でさえ、アルスの世界に転生させられたイザヤが力を得るために血脈を絶えさせるわけにはいかなかった。
全てはシェハルとイザヤのふたりから始めた戦い。
アルステリウスの万華鏡を打ち破る時、次元回廊の檻が粉砕され、イザヤとシェハルのふたりは現実世界で目覚める。
夜薙白姫が座する夜薙の天蓋で彼女と対峙する。
夜薙白姫?
見た目こそ幼い容姿だが、宇宙すら彼女の箱庭に過ぎない。
深遠たる存在の前では、生死など意味も持たない。
「むしろ、【今】が全てだろう」
ディノベノティック形態のイザヤに出来ない事はほとんど無い。
メルテックス星系の太陽が爆発しようとしている。
「呼んだかイザヤ」
イザヤの前に銀髪の少女が現れる。
「ああ、シェハル」
「あれを止めて、太陽を転生させるのか」
「難しい講義は省くぞ」
イザヤとシェハルが手をつなぐ。
目を閉じて開いたときには、太陽は転生していた。
「ありがとう、貴方がこの世界を作ってくれたんだね。ありがとう、私たちもう大丈夫です」
メルテックス星から声が聞こえる。
「お呼びのようだぞシェハル」
「そうみたいだね」
シェハルがさびしそうに目を伏せる。
桜でいる間はシェハルとしての記憶は無くなる。
このシェハルだけが全てを知っている。
いつかの桜にしたようにイザヤはシェハルの髪の毛をくしゃくしゃになるくらいに頭を撫でた。
「気持ちいい………」
「じゃあなシェハル。また会えるさ」
「そうだね」