処女の神聖性と血液の代償についてとついでにスライム
古来より乙女の処女や血液は神聖なものとされ、それを得た神や悪魔はとても喜んだという。また未経験の男女から出る体液を混ぜて和合水とすることで高僧の骸骨に金箔を塗り、加持祈祷を行い神の宿るご神体へと変化させる術が古代にはあったらしい。
「なーなーエルフのお姉さん。最近体が光ってて夜眠れないんだけど」
「そもそもスライムって夜寝るのかしら?その体になってから寝たことある?」
神や災害への人身御供には特に処女や精通前の男児が喜ばれ、時には生贄に複数の年上の伴侶をあてがい一定期間は王のような生活をさせてから神へと捧げていたという。
「眠気はないけど今まで意識がなくなることはよくあったよ。夜限定だけどね」
「ふーむ。そういえばこの一年でスライムの精神活動については全く触れてなかったわね」
神の眷属は特に処女が尊ばれ、神殿の僧侶は必ず処女である。年若い男児が去勢することで宦官となり、性徴により得られなくなってしまう神の寵愛を受け続けることもある。
「寝なかったらどうってことはないんだけどさー、突然こうなったら自分の体に何か異変でも起きてるんじゃないかと思うよね」
「スライム全般にいえるかわからないけど、あなたは痛覚ないみたいだものね。核をいじったときはものすごく嫌がったけど」
処女と同衾することで治癒魔法の最高の触媒として用いられることもあり、処女であることは非常に価値がある。
「核はなんかこう・・・すごい嫌だ。触られてるのを感じてるわけじゃないけどすんごい気持ち悪いんだ」
「そもそも五感があるかどうかすらわからない生き物よねスライムって。目がないからどうやって光を見てるかわかんないし、聴覚も音の波をどうやって拾ってるのかさっぱり。やっぱり核に全て秘密があるのかしらね」
処女や童貞でなくなることで魔力が少なくなるため、一部の求道者は生涯処女や童貞であり続けることを選択する者も少なくない。逆に処女や童貞を奪うことで魔力が増すため、そういった犯罪行為に手を染める外道もいなくはない。
「原因がわかんないんじゃあエルフのお姉さんでもどうにもできないかぁ・・・」
「私がいつ、わからないって言ったかしら?」
「え?」
「あなた、この前の巨大化でこのあたり一帯を飲み込んだでしょう?そのとき国民の処女も童貞も後ろの処女も全部もっていったからとんでもない莫大な量の魔力を吸収してるのよ」
「えっ処女?男の処女も?童貞も?」
「少なくとも4桁の人間の処女と童貞を奪ったのよ?エルフの古漬け処女童貞含め、それだけ奪ったのなら下手な規模の国で信仰されてる神格に劣らないくらいの魔力量になっているはず。光っているのは流れ込んでる魔力が制御を離れて放出されているせいね。多分、このまま放置したら風船に空気を入れ続けた状態になって」
「パーンじゃないか!どうにかならないの?!」
薄く輝くスライムは定位置のビーカーの中でぽよよんしながら抗議する。
「魔力の扱い方を知れば身の内に抱え込んでる魔力を使うことができる。神格っていうものは肉体が存在しないから、肉体の限界以上に魔力をため込むことができる。国土の3割も飲み込むほどの大きさなら、それなりにため込める魔力も大きくなるでしょうけど、限界が来てるのね」
「魔力の扱い方ったってどうしたらいいのぉ・・・」
くたびれた様子の耳長女性は、雑に整頓された鈍色の棚から一抱えほどもある奇妙な曲線で構成された物体を取り出し机の上に乗せた。スライムにもっと学があれば、それはクラインの壷と呼ばれる三次元上では作れないはずの構造を持っていることに気づけただろう。
「スライムが魔法を使うことは確認されていないけれど、亜種として魔法的性質をまとったスライムは確認されているわ。魔力を保有していることは確認されていて、微量の魔力が放出される際になんらかの方向性が与えられることでそういったスライムが存在するという仮説はあるわ」
「難しい話はわかんないんだけど、つまり俺はどうしたらいいの?」
耳長女性はいつの間にか光っている指先で曲線で構成された物体をつつく。すると物体は幾何学的な模様を描きながら形を変えていく。最終的に中が透けて様々な色が渦を巻きながら浮かぶ球体となる。
「これ、起動に必要な魔力が大きすぎていまいち研究の優先順位が低い魔道具なの。形態変化まではなんとか私の保有魔力でもできるんだけど、あなたはこれに触れるだけでいいわ。それでこれが勝手に魔力を吸って起動してくれる。」
スライムは「効果のわからない魔道具なんて触らないほうがいいんじゃないか」と一瞬思い浮かべたが、自分の体が破裂するかもしれない恐怖が勝り、体を伸ばして、球体に、触れた。
その日、王立研究所を中心として半径500メートルほどの距離にわたり、魔力量によって傷ついた心を癒し幸福な気分を導く空間が作られた。しかし、注入された魔力量が多すぎて癒し幸せにするを通り越し周囲の人々を天上の快楽へいざない一時的に自我をも消失させるほどの強度を持っていた。
数分の後、通報により駆けつけ効果の消失した結界内に踏み込んだ王都警備隊が目の当たりにしたものは、倒れ伏しこのうえなく幸せそうなアヘ顔ダブルピースを晒した民たちであった。
「やっぱりなとは思った」
「最初から危険性はないってわかってた代物だけど魔力が多すぎるとああなるのね」
王立研究所内で発見された初代弟王の姉と、その服の隙間から這い出たスライムは微妙に上気した頬とピンク色の空気を漂わせながらこう語った。