気づけば海辺だった
目を覚ませば、海が一面と広がっていた。赤いオープンカーに揺られて海辺まで乗せてこられていた。うとうとする余裕もなく、ハンドルを握る見知った顔をきっと私は驚いた顔で見ていたと思う。
「おや、お気づきになりましたか。」
男はひょうひょうと、他人事のように言う。
「ここはどこだ」
「そう慌てなくてもいいじゃないですか。優雅な気分でいてもらっても構わないですよ。」
「優雅な?目を覚ませば急に海に連れてこられていたなんて、だれが優越感に浸れるというのだ。」
「まあまあ、怒ってもいいことなんてありはしないですよ。」
どこからともなくでかいバームクーヘンを取り出し、器用に混乱する私の口に突っ込んだ。これでも食って黙れというのか。
「バームクーヘンも然りですが、和円通りのカステラ屋を知っていますか?」
「いやだから、ん?カステラ・・・あぁ、萬光堂だろ」
「そうです、そこですよ」
「そこ?そこってお前、萬光さん行くわけじゃなかろう。」
「そりゃ、そうですよ。頭の中までスポンジになっちまいましたか」
「あほ言うな。お前が切り出したんだろ。じゃあ、どこに行くんだ?」
「そりゃあ、あなた答えを知ってしまえば面白味もくそもないですよ。」
とぼけることもなく、ただ言わないという真正面で、だからこそ卑怯な小汚い手段だ。そこから面白さなぞそれこそそこいらの犬にでも食わせておけと言ってしまえばよかったのだが、これ以上聞いてもこいつが面白がるだけだったので、そのままふて寝をしてしまったのだが、後悔先に立たず、愚かなことほど有頂天外となるこの男に身を任せてしまったことに、今では悔いきれない。