第一話 邂逅
「……おかしい。絶対におかしい。世界はこんなに理不尽だったのか?それともピンポイントで俺はいじめられているのか?」
普段は引き籠もってゲームばかりしているため、運動があまり得意ではない身体に、今日だけは特別に鞭を打つ。いや打たなければならない状況といえば、語弊はあるまい。
現地点のスーパーマーケットから十分程離れた、閑静な住宅街へ全力疾走をしていた少年は路肩に付き、やっとの想いで呼吸を整えると、辺りを見回した。脳内酸素が低下したおぼつかない思考だったが、ここには時計があったはずだと、記憶を蘇らせている。走行性の虫が群生している街頭の電灯の近くには、大きな電波時計があったのだが、視界が霞んでいて鮮明では無かった。
よく考えてみれば、時刻はスマートフォンでも確認出来るではないか、と今更その存在を思い出す。手にした画面上の時刻は既に十二時に前を指していた。
よりにもよって、アイツに出会すなんて思いもよらなかった。
冷静さを装いつつも、いざアイツに声を掛けられれば、心臓が飛び出るくらいの驚愕が全身を隠せずにいた。冷や汗が滲み出て、我ながらに無様だと落胆しならが乱れた息を整える。
今思えば、事態は収拾出来ないほど悪化しているため、今は穏便になるべく目の前の相手を刺激しないように言葉で解決でするのが、得策だった。だが、それよりも先に危険回避するには逃亡も手であると考えた少年は、今こうして追跡者から逃れている。今となってはどうしようも無い話であるが。
そもそも夜更けすぎに、半ば強制で外出しているが何ぶんお人好しの性格が、今は惨めで仕方がないと嘆息しする。親切心とは時に、時間と場所を考えるべきだと今更ながら思うが、まさにこれこそ『後悔あとに立たず』である。
「馬鹿っていつまでも馬鹿なのよね。特に貴方のように」
刹那、|規則正しくカツカツと革靴の音が鳴り、事の現況である少女は、ゆっくりと少年の側まで寄り添った。声の主にビクッと身体が反射的に反応した。収縮した身体をゆっくりと半回転をし、もう来たのかよ流石に早いぞ、と心の奥は訴えたくなっているのを懸命に我慢する。
振り返ると、女の子が一人、佇んでいた。
宵闇に煌めく長い金髪を垂らした整った顔立ち。猫を彷彿させる大きな赤銅色の瞳は、強い意志を秘めていた。桜色の鮮やかな唇が華やかな彩りがあり、西洋人らしからぬ少し高い通った形の良い鼻。スラリとした華奢でしなやかな身体つきを深紺色のジャケットと赤いリボンの制服に包み、見る者を魅了してしまう。
右腕に巻かれた真紅の腕章は、この都市の治安維持と規律を護る役職、慈善風紀委員証。
学生を主体とした、確か『奉仕と善行な心で』の活動方針をモットーに、十数から男女問わず構成されている役職だ。主席や秀才を集めた優等生集団で、目を付けられたら最後という噂さえあるらしい。
平たく言えば、少年は出会ってはいけない者に遭遇した。
「で?お咎めにお気づきなようだけれど、何か言いたい事はあるのかしらね?ってか、なんですぐ逃げんのよ!」
後ずさりをした少年だったが、逆に少女を怒らせてしまったようだった。
鈴の音のように透き通りる可憐な少女の声とは裏腹に、開いたきちからはチクチク刺さる嫌味。言葉に言い表し難いが、何か期待を裏切るような感じがして、残念であった。
「いや、いきなり攻撃されて真っ向に飛び交う人間は、早々いないと思いますけど!?殺してやるって宣言してる犯人に対して、殺して下さいって自ら投げ出す奴がいるか!」
「随分な言いようよね?私はまっとうに、規律を乱した人間を粛清しているだけなのに、ねぇ?」
少女はというと解せないとばかりに訝しげな顔をして更に一歩近づく。
慇懃な少年の態度には一瞥もくれず、少女はため息を付きながら、尊厳な振る舞いで細い腰に手を当てて、
「貴方は風紀委員って言葉知ってるのかしらね?外出禁止はとっくに過ぎてるのに、まだこんな所でフラフラしているワケ?」
「まぁ、人にはそれぞれ事情ってモンがあるんですよ。ぶっちゃけると、唐突に母親に頼まれたんです!カレーを作るから買って欲しいと言われたんです!ほら、人参、じゃがいも、タマネギ!これが王道のカレーセットだ!」
と、明日の夕飯用食材を取り出し、少女に証拠として提示する。少女は「ああ、そう」と適当に呟くと、
「」