第七章 にゃいにゃい・2031
最終章です。
ハカセの再婚と国籍放棄に踊らされる政府のおっちゃんたち、大活躍!
一方、玲子が実の母だと確認した未央の計画を止めるため、UFOはダイオウイカとの戦いに出陣します。
誇り高きおっちゃんたちが、てんやわんや、議論を油っぽく揚げている。悪気はないが面白くない、しょーもない、こんなべたつく揚げ物は、胸焼けがして食えたもんじゃない。コレステロールを下げましょう。すなわち、早送りにてお送りします。
…ギュンン…
愉快愉快、ハゲ散らかった頭ども、ちょろちょろシャキシャキ動き回って、少しは華が出るってもんだ。にゃいにゃいにゃいにゃい言う音声も、何言ってんだかわからなくってよろしかろうぞ。ほっほっほっ。
さて、かの政府のおっちゃんたち、退屈な本領発揮に、法改正のようである。それにしても、泡喰い過ぎではあるまいか。早送りであり、おっちゃんなりの激震なのだから仕方がないというものか。血管詰まってぶったおれるぞ、気を付けろ。
…世界の救世主・白井博士大先生のEU帰化および日本国籍離脱による諸影響についてのガクガク…
ハカセ的弁護士からある大臣の福耳に、こっそりこしょこしょ相談が寄せられた。顔色を失った大臣のおっちゃんは、バケツリレーにてソーリの寝耳に大津波を送った。ソーリはしばらく気を失った後、もつれた足で有識者をかき集め、夜な夜な高級料亭にて勉強会を開くに至った。
どうすりゃいいんだ、にゃいにゃいにゃい‼
国民の星が失われ、精神的経済的不利益はなはだしい大問題である。にゃ~‼回避のためには憲法改正も辞さない構えである。いいや、革命を起こすべきである。ええ、どうやって?にゃい~‼
かくして、今まで戦争だろうが天災だろうが人災だろうが何があろうと派閥とやらにこだわって自滅して来たおっちゃんたちが、一斉に滅私奉公を開始した。お叱りを受けるとゾクゾクしちゃうおっちゃんばっかな21世紀の政治界、ここぞとばかりに感じちゃおうって魂胆である。残念ながら、ハカセ的理由は政府のおっちゃんたちに想像できるはずもない。ハカセほどのお人なら、どこの国でもどんなとんでもない条件を献上しても国民の一人としてお迎えしたいはずだからと、それぐらいのものであった。大ハズレである。
多重国籍を条件付きで認めるか、国籍離脱を禁止し、事実上多重国籍を認めるか、しかしハカセ先生には将来的に政府の要職に就いてほしいものであるから、多重国籍は不可能であるかも、にゃいにゃいにゃい、などなどと、律義に国会は沸いていた。
審議中に泣いちゃうほど胸キュンで疲れてしまった大臣のおっちゃんは、これ以上片想いならもう死んじゃうと、命懸けで当たることを決めた。ハカセに直接、どんな条件でも飲むから離脱しないよう懇願するのだ。ソーリにしろとか天皇にしろとか国名を白井にしろとか、どっかの国のアブない指導者を暗殺しろとか、向かいの国を合併しろとか、不老不死にしろとか二十代の顔に戻せとかハーレムを作れとか、お前が今腹を切って地獄に落ちろとか何とかかんとか、とにかく何を言われても何でもして差し上げる旨、死に物狂いで求めるつもりで旅立った。予備知識として、一般に知られていないハカセの元妻の厄介な過去と現状、最終的には娘を人質に取ると有効であるかもしれないことを胸に秘め、すっかりハカセの人柄を失念しているおっちゃんであった。
ハカセ的理由を解明するには、再び2025年に戻らねばなりません。あっちもちょっと油っこいかもしれませんけど頑張りましょう。は、おっちゃんはもう沢山ですって?お気持ちは分かりますが、ここまで来て何言ってるんですかね、いやですよ、短絡的な皆さんたら。
ここだけのお話ですが、最後までお付き合いくださった方は、お帰りの際、ご希望の時代で途中下車をしていただいても結構ですよ。その後何があってもこちらでは責任持てませんけど。ほっほっほっ。
…ヒューンン…
どこかの山から切られて来たのか、遺跡からはっぺがされたのかどうでもいいが、ダダッ広い大理石の冷たい床が、まるっきり他人事の顔を見せている。その上でハカセは、にゃいにゃいと考えていた。ハカセの場合、落ち込むとかはほとんどないと言うよりは不可能である。死刑囚とは言え軟禁であって、手を振り回しても立ち上がっても早歩きしてもモノにも人にもぶっつかる心配はないのだから、ハカセ的にはちょっと楽しんでもいいんじゃないかと思える状状況である、普通ならば。
普通とは、ここでしばらくおとなしくしてれば、世界はメデタシメデタシとなる場合である。今ちょっと違ったのは、床のモザイク柄がハカセにもはっきり見えることだと言える。
…は、皆さん怒り心頭でいらっしゃる…ハカセ的世界を探るには仕方のないことなんですよ。慣れて下さいな。ほっほっほっ。
さて、ハカセがいかにド近眼のヌケ作であったかは第四章でお話し済みだが、第五章を詳細に読んで下さった少数の方には更にピンと来ちゃったかもしれないトコロがソレである。んん…失礼。
…エネルギー革命が一段落した頃、かねてから勧められていた手術をしたハカセは、びっくらこいてしまったのである。なんとまぁ、モノもコトも何でもよっく見えること、ちっさなぴよこになった気分であった。視力矯正に生まれ変わって、はじめて見た動くモノを親と慕ってついて行くぴよこちゃん(もちろんジャイアントな容姿のままだが)、それが50半ばのハカセである。そして動くモノとは、アリー青年その人である。
情けないことにハカセは、初めてアリーの顔を見た。かいがいしく世話をしてくれる働きぶりをよっっく見た。何もかもが、アリーの目のキラキラに呼応するのがよっっく分かった。
…アリーって、キレイだなぁ…
…何してもカッコイイし…
…何でもできるし…
…スゴイや…
…なんでいろいろしてくれるんだろ…
…いつもそばにいてくれて…
…ボクって幸せ者だったんだな…
ハカセが世界の多様なキラキラに目移りする内、現実の数年はポケッと自然に流れて行った。口にすべきことを忘れ、ハカセはやはりあくまでもヌケ作ハカセとして、いつの間にか死刑囚にまでなっていた。別れに際し、アリーの目が涙でキラキラしているのを見た。小さな顔を寄せてハカセの唇に迫ったアリー。ハカセがびっくらこいたのは、その感触のここちよさについてである。
…これって、これって…
…この感覚って……スゴく…
…もう一回…
…でもでも…
…えっ、このままホントに殺されちゃったら…?
…無事に出られたら、言わなきゃ…確かめなきゃ…
…きゅるる…(戻りますよ皆さん。目の毒ですからね、ぷぷ)
①いえそんな、日本がダメとかじゃありません…とんでもない…
②え…個人的なことでして…んん…お恥ずかしい…
③いやちょっと、こっちで結婚しようかと…
④その、相手はこっちの人間でして、…男なもので、んん…
⑤ソレがただ、日本では認められていないだけでして…
⑥年の差がありまして…後の保障なんかも必要でしょうし…
⑦さんざん待たせたんで、帰化が認められればすぐにでもと…
長ったらしいハカセ的弁明・2031を要約させていただきました。
一時的に聴覚を失った大臣のおっちゃんは、頭真っ白になって股関節も外れちゃって、ええじゃないか、ええじゃないか、ヨイヨイヨイヨイ…と踊りながら秘書に連れられ帰国した。ハカセと来たら、地中海リゾートでダーリン(若く美しい男)といい感じにやっている…う、うらやましい…とヨダレじゅるじゅるのおっちゃんだが、世論の反発でふっ飛ばされそうだったことを思い出し、再起動を果たした。ヨダレの垂れる感覚が、おっちゃんを救ったのだ。
こうなったら、こうなったら、にゃ~‼ぷるぷると震えながら、ソーリは、今世紀最大の決断を下した。母のシワ取りクリームにかけて、妻の脱毛クリームにかけて、息子の尻の毛にかけて、私の頭のてっぺんの薄毛にかけて、必ずや同性婚を合法化して見せる‼
七転八倒、泥を食い、おハゲはギトギト、ヒザ擦りむいて鼻水を飲むおっちゃんたち。あらゆるおっちゃんたちが(特に高級ホテルのおっちゃんたちなんかが市民レベルで大活躍で)、革命的に盛り上がって早送りにがんばって、正義とやらはようやく動いた。国難の一年という日々に、ハカセは帰化し結婚、引き延ばし大作戦に日本国籍離脱届けは受理されず、晴れて二重国籍も国際同性婚も正式に認められたのである。天文学的経済効果に、両国はトコロ構わず相手を選ばず情熱的に抱き合った。種々様々なカタチの愛やら絆やらが、一般家庭の床の間やら寝室やらを浸食して飾られた。
そして、内閣支持率95%を誇ったソーリは、ハカセの愛の日制定を機に惜しまれつつ政界を引退、めでたく増毛に成功した。大臣のおっちゃんは揚々と後釜を背負い、これであんたも結婚できるじゃないと、おっちゃんのおっかさんはうれし泣きってお話だとさ。メデタシ、メデタシ。
さあ今度こそおっちゃんとはお別れですよ、よかったですね。電気ウナギ的ダイオウイカ的暗雲垂れこめる、おっちゃんの力が及ばぬ新世界へお連れしましょう。
にいちゃんはラーメンが食べたかった。昔ながらの三、四分かかるヤツで十分だ。いや失礼した、ヤツらこそ腹ペコから世界を救った英雄だ。ああ、ヤツらを気管に吸い込んでむせっ返りたい。ふーふー言って酸欠に苦しみたい。ズルッとイッちゃってこの白衣をスープびたしに汚したい。
ラーメンだ。生きてるってそういうことだ。大体、あの麺のチリった感じったら何だ。DNAに勝る芸術ったらああいうことだ。腹に入れば皆同じってモンではない、にぎりメシではなく、ラーメンでなければならない。なぜ今ラーメンか、それはDNAに刻まれた大いなる謎の一つだ。
他人のDNAはにいちゃんの前に山積みだが、生きたラーメンは一体どこだ。仕事ったら生き地獄か。手っ取り早くヤツらを飲み込み、んぐっとノドを鳴らすには、コイツらととっとと縁を切っちまうってこった。込み合っておりますのでまた明日ってことにすりゃ、10分以内に舌をヤケドすることも可能だ。ここが「24時間以内速攻鑑定科学株式会社」でなければ一時間前にありつけたはずが、超マジメなオレって超スバラシイ。会社の星だ、国の宝だ、世界の希望だ、ウルトラマンだ!わっはっはっ!
はいよ、コイツとコイツは間ッ違いなく親子でっす。って、おめでとう?残念でした?どうでもいいわい!どうも、ありがとうございましたー。
…小麦粉と麺は親子でさ、塩と胡椒は理想の夫婦、七味ときたら紅生姜に首ったけ、味噌と醤油は兄弟で、鶏ガラ・とんこつ夫婦別姓、牛骨・魚介の不倫スープ、チャーシュー・メンマの師弟愛、ナルトとノリはイトコでさ、ネギとモヤシはハトコでさ、コーンとバターが見合い結婚、オレは1人で口をぱくぱく、骨の髄までスッカスカ…
妙な呪文を唱えるにいちゃん、ラーメンをモノにするまでマダマダじくじく耐え忍び、鼻から麺が出ちゃうくらい速攻鑑定科学業務をチマチマちくちくこなしたそうな。
…うは、お湯を注ぐ三分の喜び、かぁ、チリった麺を混ぜる恍惚、ぷは、平凡ながら格別な味を堪能し、この瞬間に、にいちゃんは生きるのだ。そうかい、そりゃよかったな。人生を楽しめよ。
こうして、坂下玲子と白井未央は親子であることが証明された。依頼をしたのはもちろん未央である。
残念ながら、一か月はどうしても一か月である。何日も、ウソみたいと思いながら起き上がって淡々と日常を歩いた。にいちゃんの働きにより、進むべき道が決まった。やがて吐き気も感じなくなった。鉄の冷静さを取り戻した未央は、父とは違い、自らの力で生まれ変わろうとしていた。あの母がどうしても母ならば、再起動のため、計画を実行するのだ。
希望がすぐそばで、アハアハ言ってなければ、ぱそぱそと音を立てている。この瞬間に未央は生きる。指先から機械へ、神経が伸びて行く。だが、一旦このアハから離れなければならない。すなわち、ダイオウイカの威を借るのである。
「ビルの42階を占める機械制御株式会社」は「激震・液状化何のそのビルヂング壱番館」内の53階を占めず、58階にもちょっと足を延ばしている。その足は、ダイオウイカにつながっている。ダイオウイカとは、機械制御の要の機械生命体だ。にょろりにょろりピーピーひゃらひゃら、いろんなところにつながっていて、見えない所で飛び出したり引っ込んだりする面倒な怪物だが、扱いを知る未央には従順だ。
ダイオウイカは、足を一本引っ張られて目を覚ました。ちょっとムッとしながら、深海の冷たい闇から這い上がる。ナマイキな、これみよがしに泳ぎ回りよる。「激震・液状化何のそのビルヂング壱番館」の壁を伝って縦横無尽だ。「激震・液状化何のそのビルヂング弐番館」まで行って戻って一秒以内ってのが自慢のようだ。
クダらない、ノータリン、ヘンペーソク、ド・ブサイク、フニャチンのトウヘンボク、トンチキのスットコドッコイ、アホンダラのアンポンタンめ。
…いよいよ決戦の時が来たようだ。
未央の鉄分たっぷりの指は、濃ゆいイカ墨を作り出す。侵入の痕跡を消すクサイ汁をペッペ、ペッペと吐き散らし、イカ野郎は核心へと突入する。…この腐れ外道めが。
…坂下玲子、全記録。出生、学歴、婚姻、入院、離婚、送検、司法取引、隔離、投薬、末期治療、2025年より極秘事項…
母の病歴を研究した未央は、ぱそぱそぱそぱそ遠隔操作、病院まででイカ足伸ばし、吸盤でぺったぺた、投薬データをちゃんちゃんばらばら潰しにかかる。一時的でも投薬を止めることができれば、母はもがき苦しむはずである。システムダウンが起こるも何も、想定内だ。余命が一気に縮まるも歓迎するよし…。もちろんこれは、全く非合法な精神状態である。あソレ、ヨイヨイヨイヨイ…
…ポーン…
UFOからお知らせです。皆様におかれましては、常々ストーリー展開をご心配下さいまして、誠にありがとうございます。さてただ今より、私ことUFOは、出撃させていただきます。これまで辛抱強くお付き合い下さいまして、重ね重ねありがとうございました。
…は、イカ野郎をどついてやるんですよ。邪魔な足はバッサバッサと生け作りにいたしまして、脳天はちゅるっとイカソーメンにて喰い散らかしてはちょっぴりな脳ミソをワサビ醤油で吸い尽くしてやるんですってば。刺身が余りましたら濃厚イカ墨ソースで煮込みましょうかね。ええ、確かに大味でしょうけど、新鮮なんでそれなりにイケるんじゃないでしょうか。よござんす、お味見いただいてどうもこれはって時には焼きイカなりにいたしましょう。
…ハイ、ご心配ごもっとも、イカ料理云々より、早く行かんかっておっしゃりたいんでしょ。いやはや、一秒で済みますから、そう焦らずにお楽しみ下さいな。あ、それから、新たな解説者をご用意いたしましたので、どうかご唱和お願いいたしますよ。さ、そろそろ参りましょうかね。皆さんとの歓談のひととき、誠に楽しゅうごさいました。大変に名残惜しく、理論的には不可能なものの、涙ちょちょぎれんばかりでございます。…は、そんな、臆病風吹かしてわけではございませんて。ええぇぇ参りますよ。こういう場面にふさわしい音楽は何でしょうね。そうですねぇ、昔懐かしい感じで、
…ぐぎぎぎ…ぎゅるるる…んががががががが…
…ポーン…
大変失礼いたしました。これまでのUFOの非をお詫びいたします。これからはすっきりとした展開および解説を心掛けますので、何卒、もう少々お付き合いをお願いいたします。
ご紹介遅れまして、私、UFOと申します。あ、いえ、先ほどのUFOとは違いまして、私は未来から来たUFOでございます。あれは過去から来たモノですので…全く別モノなんですよ。ウフフ。信じていただけなくても事実は事実なんです。フフ。
…ええ、実はそこそこ深刻な状況でして、ご覧のとおり、皆様と一緒に過去から来たおなじみのUFOはダイオウイカのうざったい足にがんじがらめにされていましてね。脳タリンとか何とかって罵ったって足強いから気をつけてって言ったんですよ。あ、あ、あ、あー。うわ、あ、あーあ。
引き分けってところでしょうか。イカ料理はご提供できませんけど、足引っこ抜くのは成功ですかね。まあ、皆様と一緒に過去から来たおなじみのUFOが身を挺して、ようやくダイオウイカの横暴を阻止できたのですから、仕方がないでしょう。
あ、あー。皆様と一緒に過去から来たおなじみのUFOが、ダイオウイカもろとも爆発炎上しております。そうなるとですね、もうけっこう危険なんです。核分裂的ですね。いえ、避難の必要はありませんよ、機械にしか危険は及びませんから。
あ、あー。皆様と一緒に過去から来たおなじみのUFOが、ダイオウイカもろとも超絶ウイルスへ変貌いたしました。あー。
…ピーッ…
ただ今より、システムメンテナンスを行います。有機生命体の皆様は、そのまましばくお待ち下さい。
…しばらくお待ち下さい…
…しばらくお待ち下さい…
…しばらくお待ち下さい…
…しばらくお待ち下さい…
…しばらくお待ち下さい…
…しばらくお待ち下さい…
…しばらくお待ち下さい…
…ピッ ピッ ピッ…ピッ…
大変お待たせいたしました。解説を再開いたします。
…ばあ…
うぶうぶしたお肌にちゅっ。健康そのもの、善玉菌のかたまりに、うんち爆弾を備えた王子がおぎゃっと生まれましたとさ。私は王子の手首に外科的に埋め込まれ、身分証としてデータバンクとして追跡装置として誤作動なく、過保護に「いないいないばぁ」につとめます。ウフフ。んちゅっ。
あ、失礼、ちょっとお話が早すぎましたかね…。未来まで避難していたものですから。ウフフ。微調整いたします。
…ブウウウ…
機械制御史上に残る世界恐慌が巻き起こった(世界機械制御危機と命名される。別名ダイオウイカ危機)。過去からのサイバーテロに対する防御システムは、2031年にはまだどこにも存在しなかった。過去からだと気が付ける人間もいないはずだった。実際いなかったのだが、対処できてしまった人間はいた。過去から来たおなじみのUFOがダイオウイカもろとも超絶ウイルスへ変貌した戦いを結果として引き起こした、白井未央である。
公平に言って、未央がすべての原因ではない。過去から来たおなじみのUFOとダイオウイカとの軋轢は、太古の昔から、悠久の未来から確かに存在していた。起こるべくして起こった、避けられない戦いであった。それを目の前で目撃することになった未央は、まばたきを要しない集中力で、過去から来たおなじみのUFOがダイオウイカもろとも変貌した超絶ウイルスのワクチンを開発した。これも公平に言って、偶然に出来上がったものだ。未央が何しでかしたかと状況を探っている内、パニくったクモ野郎が押しかけて来て未央を見て先を越されたと驚いて、白井!と叫んだ瞬間に、未央は確信犯的にぎっくり驚いて指が滑って思っていた所と違うポッチをつんつくはじいたために生じた制御法であった。
結果として、クモ野郎と共同開発ってことになったのである。もっとも、それが本当に一発であれってなもんでさっぱりできてしまうワクチンだと確認できるまで、丸四日間を要した。国内の全機械復旧には13日間、世界中の機械正常化までは更に27日間を要したのである。
世界の混乱は、歴史上において特に珍しいものではなかった。世界はちょっとだけ原始に帰り、それなりのゴタゴタで何とかなった。もちろん全く気付かなかったお幸せな人間もいた。特にオタオタしたのは、元々機械制御に携わっていた人間である。奇しくも冬であり、雪が降った。PTCKは沈黙、雪は積もった。あれっとばかりにコンコン積もった。道は真っ白に閉ざされた。これによりハカセは、積もった雪にキラッとすれば発電できる懐中電灯的機械を発明することとなる。ガッポリである。
未央はホッとした。これだけのこととなると、自分の鉄の指だけでは起こせないことが確信できたからだ。また問題の母が、戦いから四日目にしてようやくひっそり死亡していたからだ(実際にはそれなりに壮絶だった。ウキキッ)。母云々をすっかり忘れていた自分に、ゾッともした。何しろ病院から知らせが届くまで、13日以上かかっていたのだ。そして、ドサクサな犠牲者は決して母だけではなかったのである。
白井未央が泣いている。これはちょっと信じられない。人違いではないか。ソックリな誰かとか。それとも迫真の演技か。唯一の親友、森田璃々と抱き合い、泣いているのは間違いない、白井未央その人だ。やはり未央も人間だったということか。ただ、主な理由として上げられるのは、璃々が流産をしたことである。更に業務上の疲れが拍車を掛けている。まあ、人間ったらそんなもんである。それからまだ未央は知るよしもないが、璃々ではなく自分が妊娠数日であり、生物学上勝ち誇っているからである。
計算高いクモ野郎の糸に絡め取られ、コトはなされた。野郎はハカセに猛アピールし白井を名乗り、この夫婦と一族の名声は、歴史にギラギラと刻まれた。未央がどうやら夫に一生片想いであるとか、にいちゃん的鑑定でハカセが未央の実の父親であることが証明されたとか、クモ野郎がアリーを見てうまそうと思ったこととか、細かいことはまあ置いといていいでしょう。ウフフ。ねー王子。んまー、んばあー。
あ、ご心配なく。自分で作っておいて人間には機械制御なんてできねんじゃねーかって思ってらっしゃいますね、いえいえ、そのへんのところはこっちでやってますんで、大丈夫ですよ。第一、元々人間が作ったものでもないんですから。ウフフ。まあ皆さんは、アハッと笑いながらキラキラを楽しんで下さいな。もしUFOをお見かけしても、石投げたりしないで下さいませね。
では業務に戻りますので、また未来にて。あ、お帰りはあちらです、お気をつけて。ウフフ、んちゅっ。
キとラの間は、一旦終了です。ありがとうございました。
来月はUFOのその後譚を投稿しようと思います。
楽しんでいただければ幸いです。
では、また未来にて…