(1)
僕は、ネコ。
チリンと鈴の音が響く。
僕は、お外に居る。
「お前は……、どうしたんだ?」
知らない人の影が掛かる。
僕は、鳴いてみた。
いっぱい、いっぱい、話したい事があったから。
「……そうか、うちに来るか?」
知らない人が、僕を持ち上げて見つめる。
「よし、いこうか。」
そう言って、僕をどこかへ連れていく。
その人の手は、とても、とても暖かかった。
これは、僕がまだネコだった頃の話。
ネコヒトになる前の話。
綴るのはネコヒトになった僕、ダイゴの物語。
当時の僕は、ヒトとお話が出来ない事が分からなかった。
だってこのオジサンは、僕の事を分かってくれていたから。
本当は『分かろうとしてくれていた』なんだけど。
オジサンと初めて会ったのは、夕暮れの町の路地の裏。
僕は親と離れ離れになったばかり。ついでに、捨て猫になったばかり。
飼い主の人も、元々はちゃんと全員の引き取り手を探してくれてたんだけど、
そのタイミングで不幸が続いたりして、僕らの面倒が見れなくなっちゃって。
後から色々調べてみたけれど、ちょっと意図的かと思うくらいの出来事があったみたい。
なので首輪付きで、僕らは捨てられる事になってしまった。
誰も恨んでないし、悪くない。母さんもそう言ってた。
飼い主さんもずっと謝ってたし、泣いてた気がする。
そうやって捨て猫になってからも、母さんとみんなと頑張ろうとしてたんだけど。
ちょっと余所見して、気づいたら僕だけになってた。
鳴いても誰も居ないし近くにいる感じもしない。
それでも声を出して待ってたんだ。
日が暮れそうな頃、ようやく気付いてくれたのが、そのオジサン。
最初は少し怖い気もしたんだけど、手の匂いを嗅いだら何か懐かしい匂いがして。
あとは今まで言った通りだね。そこから、僕はオジサンの所にお世話になり始めたんだ。
お世話になり始めたのは良いんだけど、オジサンが一人で悩んでいたから、
顔を見上げたり、鳴いたりしてみた。
そうしたらオジサンは、急に思い立ったようにこう言った。
「お前の名前は『ダイゴ』にしよう。よろしくな、ダイゴ。」
僕は返事代わりに一鳴きすると、優しく頭を撫でてくれた。
これが僕の名前、ダイゴ。母さんに貰った名前もあるけど、それはまたどこかで。
あ、勿論ネコヒトとしての名前もあるんだよ。でもダイゴってのが気に入ってるから。
だから、ココから始まるのは、ダイゴの物語。
一匹の猫と、オジサンのおはなし。
キミも気に入ってくれると、僕も嬉しいな。
じゃあ、また次の手紙でね。楽しみにしてて。ダイゴより。