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推しが押してくる

推しが押してくるー番外編7ーDATE ON THE ICE

作者: 神尾瀬 紫
掲載日:2016/12/08

はじめましてさんも二度目以上ましてさんもこんにちは。

神尾瀬 紫です。


またもや短編です。

叶多と紫づ花のスケートデートはどうなるんでしょうか(笑)


楽しんでいただけると幸いです。

 

「ぅあっあっ、わっ、ひぁっ」

 叶多の情けない声が、楽しそうにはしゃぐ歓声に紛れる。

 紫づ花はその両手をしっかりと掴みながら、満面の笑みを浮かべていた。

 普段なら、その笑顔に見惚れデレデレと目尻を下げて、ある意味情けない顔になる叶多だが、今は足元を凝視して顔を上げる余裕もない。


 ここは、都内のアイスリンク。

 冬の間だけ設営される期間限定の屋外スケート場だ。

 子供も大人も楽しそうに滑っている中に、何人かへっぴり腰で恐る恐る手を引かれている人がいる。

「大丈夫。そのまま重心をキープして。」

 紫づ花のアドバイスにふと目線を上げた時、ちょうど横を綺麗に髭を整えた白髪頭のおじいさんが、スィーっと華麗に滑っていった。

(こんなはずじゃなかった。)

 さっきから叶多は心中で泣きながらつぶやき続けている。


 こんなはずじゃなかった。

 それはいつもの下心から始まった。

 仕事が終わり、時間があるという5人だけ集まってカフェに入った。

 名前は忘れたけど、新人の若い女の子がスケートデートがしてみたいと熱心に語っていた。

「スケートってやったことありますか?」

 彼女がやけに前のめりで聞いてくる。それを少し引いた姿勢で「やったことないけど。」と返す。

 そして脳内には手を繋いで滑る自分と紫づ花の映像が再生された。

 スポーツには自信がある。運動神経は悪くない。

 逆に紫づ花は運動音痴だ。歌いながら踊るのも苦手で、簡単な振りも四苦八苦している。運動会は雨になれと呪いをかける方だったと言っていた。

 だったら。

 ちょっと慣れれば多分自分なら滑れるようになる。でも紫づ花は時間がかかるだろう。だったら支えてあげるというのは自然と触れられる口実だ。

 普段から手を繋いだりしていても、シチュエーションが変われば気分も変わる。

 さっそく家に帰った叶多は紫づ花に提案した。

「スケート?小学校ではやってたけど、もう20年以上滑ってないし、出来るかなぁ。」

 そう言いながら、紫づ花は嬉しそうな顔をした。

 それだけでテンションは上がる。

「学校でやってたのはスピードスケートなんだけど、でも、スケート場で貸してくれる靴はフィギュアスケートなんだよね。フィギュアのスケート靴は一度しか履いたことないんだぁ。」

「俺はスケートしたことないけど、教えてくれる?」

 そう言いつつ、滑ってみたら意外と出来ちゃったから俺が支えてあげるねという計画を立てる。


 叶多は自分の甘さを脳内で罵った。

 紫づ花は誇張をしない。そして謙遜する。

 出来ないことは出来ないと言い、出来ることでもどうかな?と首を傾げる。

 よく考えたら紫づ花は寒いところ出身だ。雪や氷には馴染んでいる。

 それに比べて自分の出身は南だ。めったに雪なんか降らない。

 道が凍ったとしてもすぐ溶ける。

 東京に来てもずっと氷には関わってこなかったので、こんなに滑るものだと忘れていた。

 いや、滑ることはわかっていたけど、もう少しなんとかなると思っていた。

 凍った道で転んでる人の映像を見て、滑ると思ってないから転ぶんだと、勝手に解釈していた。

 滑るつもりで立てば転ばないと。


 ・・・甘かった・・・

 ツルツルに磨き上げられた氷の上は、スケート靴という専門の道具をもってしても心許ない。

 前後左右にジリジリと進むブレードを制御しようと、少し重心をずらしただけでズルっといく。

 しかし紫づ花の足元はびくともしなかった。

「な、なんでそんなに安定してるの?」

 やっと立てるようになった子鹿のように足をプルプルさせて紫づ花の手を握る。

 後ろ向きにスーッと滑る紫づ花は余裕で笑った。

「フィギュアスケートは、重心を後ろめに。でも、後ろすぎると今の私みたいに後ろ向きに進むので前に漕ぐ。」

 言いながら、手を離した紫づ花が後ろ向きで滑って離れると、そのまま今度は走るようにカツカツと氷を鳴らして戻って来る。

「とか言っても、私はスピードスケートしか出来ないので、前に体重をかけて進むことしか知らないの。でもフィギュアスケートの靴は前にブレーキが付いてるから、それが氷に当たって前には滑れないんだ。だから走るみたいになるんだけど。」

 ヒョイと右足を上げてそのブレードのギザギザの部分を見せる。

 氷の上で片足立ちとか、叶多には信じられない。

 正面に戻ってきた紫づ花が手袋に覆われた両手を差し出す。

 支えてもらっているのが悔しくて、しかし自分一人では滑れない叶多は、面白くないように口を尖らせながらその手を取った。

 妙に嬉しそうな紫づ花は、叶多の手を引いてまた後ろ向きに滑り出す。

「なんか、紫づ花嬉しそうだな。」

 デートそのものは楽しいけど支えられてるのは面白くないという複雑な気持ちで、ついそんなことが口をつく。

 紫づ花は眩しげに目を細めた。

「え?楽しいよ?スケート久しぶりだし。それに、何でも出来る叶多さんをリードできるなんて、めったにないし。」

 繋いだ手をブンブンと振るのでバランスが崩れて慌てて紫づ花にしがみつく。

「ちょ、危ないからそういうことしないでよ。」

 思わず文句を言うと、紫づ花の腕が自然と腰に回ってきた。

 あれ?

 叶多は驚いて見下ろす。

「こうやって抱きついてても、自然だし。」

 恥ずかしがりのカノジョが顔を赤らめながら目を泳がせる。

 ふいに肩の力が抜けた。

 どっちが支えるとかリードするとか。

 紫づ花が楽しそうなのだからどうでもいいのか。

 ずっと手を繋いでいることが当たり前の状況はなかなかない。それを楽しんでいる。

 叶多は紫づ花の肩を抱くように腕を回す。

「もう少し上手く滑れるように教えてくれる?」

 紫づ花がはにかみながら頭を叶多の肩にこすりつけてきた。

 その素直な行動に動揺した叶多がバランスを崩し、それを支えきれなかった紫づ花もバランスを崩す。

 二人の悲鳴が周囲の歓声に紛れた。



 ――― END



いかがでしたでしょうか。

書きながらスケートやりたいなと思ってるんですが、なかなかチャンスがありません。静紅(仮)付き合ってくれるかなぁ(笑)

紫づ花の出身地は県名こそ出しませんが、何となくこの辺だろうかと見当がついている方もいらっしゃるでしょうか。そのうち叶多も方言とか使うかもしれませんので、推理してみてはいかがでしょうか。


それではまた。

今度こそ本編でお会いできますように。

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