ひとびと
「すいません」
「はい?」
「冒険者登録したいんですけど」
そういうと、窓口のお姉さんが苦笑を浮かべた。
「登録なんていうものは無いわよ、どこで聞いてきたのよ」
なんて言われてしまう。
「ここで冒険者の仕事を請けれると前に村に来た冒険者のお兄さんに聞いたんです」
「あぁ、そういうこと。ここで 仕事は 請けれるわよ」
「ホントですか!でも、先程は……」
「えぇ、仕事は受けれるわ。でもね、イチイチ新人の子に登録なんてしてないのよ、無駄だから」
「無駄?」
「そうよ、無駄なのよ。実績もなく、何処へ行くかもわからない、まして新人の子よ?依頼を受けて森に入ってそのまま帰ってこないなんてざらよ?
そんな子達を毎回登録する必要なんてある?」
「それは……」
「ね?
そこの掲示板にある常設依頼をこなしてたら、もしかしたら登録をお願いするかもしれないわよ。それまで頑張ってね。」
そういって手をひらひらと振られる。
とぼとぼと、掲示板へと向かう。
後ろから、間違っても依頼書持ってったりしないでね、と声がかかる。
依頼書を眺める。
"下水道のネズミ退治""溝さらい""ゴブリンの間引き""治験体募集""薬草採取(種類毎に金額変動)"などなど
よし、ゴブリンの間引きにしよう。
「坊主、間違ってもゴブリン狩りとかすんなよ」
後ろから声を掛けられる。
「なんで?ゴブリンなんて敵じゃないよ?」
「村に出てきたやつだろ?出てくんのなんて若いはぐれゴブリンぐらいだろ」
目線が頭2つほど上にある人だ。体躯もいい。
「ゴブリンは基本群れで行動してるからな、それも大体3体以上でだ。1人で倒せると思わない方がいい。」
そんなもんなのだろうか、村では確かに1体づつしか見なかった。
「まずは、溝さらいなりなんなりして地盤を固めるんだな。それかどうしても外に出たいなら薬草採取でもしてきな。」
そう言ってきた青年に後ろから、おい、ガルド!お節介やいてねぇで行くぞ!と声がかかる。
「ガルドさん?はどこへ?」
「俺達はゴブリン狩りだよ」
いくっつってんだろ!放っていくぞ!今行く!
じゃあな、と声をかけて歩いていくガルドさん。
じゃあ、言われた通りまずは薬草採取にしてみよう、と思う。
幸いなことに麻袋は持っている。
おい何してんだてめぇ!
そういって背中を蹴飛ばされる。
同じように採取している人がいたため、少し離れたところで採取しているとその近くにいた人に蹴飛ばされた。
同じ人ということもあって油断していた。
「てめえ!ここの株潰す気か!何根こそぎ持ってってんだよ!」
受け身も録に取れなくて痛くて声が出なかった。それよりも訳が分からない。
「おい、答えろよ!」
そういって再び蹴られる。
返事を出来ないでいると舌打ちをしつつ、麻袋を持ってごそごそと何かをして立ち去っていった。
「ちくしょう」
蹴り飛ばされた時に擦った顔の傷が痛い、何故こんな目に。
麻袋は持っていかれたが、幸いなことにもう一袋ある。
ここに生えてる薬草を取っていこうかと思ったが、バレたら怖い。もう少し森の奥に行って採取しよう。
まだ、日は高い。
周りを深い緑に包まれ出す、足元には腐葉土の柔らかい土と木の根。
人の手が入っていないが、獣道であろう道を行く。
多少歩きづらいが、このぐらいなら村の近くの山にいるときに味わってきた。
先程から近くの繁みががさがさと揺れる。数羽の兎の姿を見掛けたから近くに巣があるのかもしれない。
がさがさと。
やがて、水の音がするな、と思っていると川に突き当たった。
どうやらこの後の獣道は川沿いに続いているようだ。
川縁に近付く。
そこまで大きい川ではなく、横幅三メートル程の大きさの川になっている。
皮袋へ水を組み、さてまた獣道に戻ろうかと思い振り替えると川沿いに薬草の群早地になっていた。
「あぁ、この繁みで見えなかったんだ 」
案外道中にあったのも見逃していたのかも知れない。
簡単だな、そう思い薬草へ近付く。
そして、腰を屈めた時に違和感に気付く。
この薬草、何に生えてる?
確かに若い内に取る薬草だ、けど、ここまで群生するのか?
まだ なにか を埋めてそこまで経ってない?
黒い土をどける。どける。どける。
指が出てきた。手が出てくる。
「ひッ!?」
人だ。これは人の手だ。
思う、感じた瞬間、茂みから真っ直ぐ何かが突き出されてきた。
耳に鈍い痛みを感じる。これは、槍か?
「ぎぃ」
茂みから顔が出る。人に近いが、何処と無く醜悪な顔。緑の肌、ゴブリンだ。
後退る。そして気付く、緑の肌で紛れているが茂みに何体かがいることに。
「うぁ」
声にならない声が出る。
直後、ぐじゅるとお腹に激痛が走る。
みる。お腹から生えた槍を。
振り替える。川向こうから忍び寄っていたであろうゴブリンを。
あぁ、囲まれていたのか。そう思うと同時に喉に突き刺さる痛み。
あぁ、森に入るんじゃなかった