ギフト
凄惨な光景が目の前に広がっている。
頭に鉄球を生やした死体、首が飛んでしまった死体。
洞窟の天井までべったりと飛び散った血が、ボタボタと床に落ちている。
タイルの隙間に血が吸い込まれる様に入って行っては、ゴポッと音を立てた。
目の前のゴトウを見ると、肩で息をしながら周りを見ていた。警戒を解いていないのだろう。
やっぱり俺はこんな時に何をしていいかわからないし、何を考えるべきかも分からない。
遠くの方で「ギャー」という声が聞こえたような気がした。もう無関係ではない。
けど俺が関わった凄惨な殺し合いなんて、このダンジョンでは常に起きていることなのだ。
そう考えたら気が楽に………ならないな。
ふと見ると、俺の後ろでカゴが意識を集中している。
鉄球が赤く光る。
「サクリファイス!」
カッ!と閃光が広がったかと思ったら、
敵の戦士と騎士の死体が装備ごと消え去り、
アベの手が光る。
「おおー、キクぅぅぅー」
ウォッ!アベの手が元どおりになっている!
「あー、戦士が装備ごと丸ごと消えちまったか。まあ、指3本だとそんなもんかな」
戻った手をニギニギしながらアベが呟いている。
「カゴの得意技のサクリファイスだ。レベル5の僧侶魔法で体の部位欠損を含めた怪我を回復するが、欠損した部位に応じて敵の死体と装備を捧げないといけない。
あとカゴの場合、一回の冒険で使えるレベル5魔法は5回だ。
…できれば温存しておきたかったのだが」
切り札の1つだったのだろう。
確かに部位欠損を回復出来るのはアドバンテージだ。
「ただ、こちらの被害がコレで済んだだけでも大成功の部類に入る」
ふー、とゴトウがため息を吐いた。
「そうそう!お前のギフト!あれすげえな!」
アベが興奮しながら近づいて来た。だからお前は顔が怖えんだよ!!急に近づくな!
「ギフト?」
興奮した口調のアベに申し訳ないないが、俺はまだ何が何だかかわかっていない。
「ギフト、って俺たちは呼んでいる。固有の特殊能力さ」
教えたがりのゴトウ先生がちゃんと教えてくれた。でも周りを警戒したままだけど。
「俺のギフトは『四天王』…。カゴのサクリファイスと同様の効果を発揮するが、使うのは味方の肉体だ。俺が受けた怪我の大きさに比例して、味方の肉体の一部が消え去ってしまう。乱発はできないが、緊急時に非常に役に立つ」
ゴトウのギフト…ああ(俺は四天王の中でも最弱!)とか急に言っていたな。
「ギフトの発動にはなぜか台詞が伴うんだ。俺のあの芝居掛かった台詞もギフトの特徴ってやつだ。ま、呪文みたいなもんかな?」
じゃあ俺はなんで(イヤン)何だよ!オカシイだろ(怒)
「ぐふふ、戦闘中に(イヤン)とか言い出すからなんだと思ったぜ。
何をキッカケかは分からんが、キマると無条件で首が飛ぶみたいだな! マジチート!ヤバすぎワロエナイ!」
ウザい事この上ないな。はしゃぐアベに俺のギフトをぶちかまそうとした時。ゴトウがボソッと呟いた。
「チートってもっと便利で無茶に強いもんだろ?
なんかコイツのギフトって強さへの作為がないっていうか、何というか、なんか間違って設定されたっぽい感じじゃないか?
こういうのってチートというか……
なんかもうバグじゃないか?」
そう、この言葉から俺が虫と呼ばれる様になったんだ。