虫の初戦 1
久しぶりの投稿になってしまいました。
「いくぞう、いくぞう‥」
紅ニンジャは恍惚とした表情で、サイコロを手の中で転がす。
それを見つめるパーティーメンバーは血走った目をしている。
本当に運命の分かれ道となるサイコロとなる様だ。
俺の心臓も破裂しそうなほど脈打っている。
「そらッ!」
紅ニンジャが中空にサイコロを投げる。
スローモーションで流れるサイコロ。
部屋の床は崩れたレンガが折り重なっていて、サイコロが狂った様に跳ねる。
9…で止まりそうな…。
「あーーーーーー!!!!!」
背の低い男が大声を出す。急になんだ?
と、思ったらサイコロが最後に一回りして0になった。
出た目は0と3だった。
なんでこれ10面ダイスなんだ?
「チッ‥3階か」
悔しそうな紅ニンジャ。
それに比べ、パーティーメンバーは心底ホッとした表情をしている。
さっき叫んだ背の低い男は水を被ったみたいな汗をかいていたが、表情は安堵の様子だ。
どうやら”3階”は運が良いらしい。
「んじゃ、続けてノルマな」
明らかにやる気が無くなった紅ニンジャ。
ポケットから取り出した別のサイコロをポイッっとを投げ捨てる。
今度は6面ダイス2個らしい。
出た目は5と6だった。
「ホー。ノルマは11回か、こいつらも運が良いのか悪いのか」
パーティーメンバーも複雑な顔をしている。
ハンッ、と鼻を鳴らした紅ニンジャがメンバーの顔をじっくりみてから指を差した。
「では早速出発だな。行って来い」
紅ニンジャが指差す方向には赤い扉がある。
「ハッ!では行って参ります!」
背が低い男は、さっきの蹴りで顔を腫らしながら、よたよたと小走りして
扉に向かって歩き出した。
ローブを頭から被った仲間が言う。
「ホラ、いくぞ新人」
その声は女のモノだった。
「ハイッ!」
俺は新人なので先輩には絶対服従である。
はっきり言って、此処で生意気な態度をとるメリットは全くない。
駆け足でパーティーについていく事にした。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
赤い扉を抜けると、ガチン!!と派手な音がする。
ここも片道らしい。どうやって帰るんだろう?
扉の向こうは1本道の通路になっていて、幅は10メートル程度だろうか?
かなり広い通路になっている。
他にも2つほどのパーティーが、距離を取りながら話こんでいる。
ギロッと一瞬だけ我々の方を見た他のパーティーはすぐに視線を外して会話の続きを始めた。
さっきよりも小声で話しているようだ。他のパーティーに聞かれるとマズい事でもあるんだろうか?
「あー、まあ新人がいるから、少しだけブリーフィングしとくか」
他のパーティーと距離を取りながら、背が低い男が言い出した。
少しだけ小声だ。
「まあ、そうね、生存率も上がるでしょうしね」
「良いぞ」
ローブの女と白目の男も同意する。
「よし、んじゃ名前と職業から。俺はゴトウ。職業はバーグラーだ。シーフの上位になる」
背の低い男が自己紹介をする。ボロボロの頭巾、ほつれまくった服の下に革鎧を着ている。腰には短刀をいくつもぶら下げていて、手にはグローブをはめている。
顔にたくさんのホクロや痣があって、右の頰に大きな傷がある。
分かりやすく盗賊の風態だな。
気さくに握手を求めてきたので、握り返した。
見た目は悪党っぽい雰囲気だが、中身はイイ奴なのかもしれない。
「んで、このイカついのがハイバーサーカーのアベ」
「ウッス」
白目のアベは首だけで挨拶をした。
白目にスキンヘッド、顔の幅と首の幅がほぼ同じ、身長は2メートル以上、背中に丸太を担いでいる。
棍棒だろうか?
見た目もそうだが職業名も怖すぎる。なんだよハイバーサーカーって。
いきなり混乱して襲ってこないだろうな?
いざとなったらゴトウを盾にするしかあるまい。
「最後にこのローブを頭から被っているのはカゴだ。職業はプリエステス。僧侶だな」
「よろしく」
カゴは非常に早口で挨拶を済ませる。
頭から全身を覆うローブをまとった女性。顔はわからない。
背はゴトウと同じくらいか、150センチ程度?
唯一見えている手には呪文のような文字がびっしり書き込まれている。
その手に持っているトゲトゲ付きの鉄球はモーニングスターというのだろうか。
勘弁してほしいほどの殺気を振りまいている。やっぱ怖い。
なんだこのパーティー、見た目怖すぎるだろ。
これがこの世界では普通なのだろうか。
周りのパーティーの風体をチラと見るが、棘だらけの甲冑を着ているものや、
全身に文字の刺青が入った奴もいる。ウチのパーティーと負けず劣らず怖すぎる。
やっぱり見た目で威嚇する事は基本らしいな。う、うん。納得しよう。
と、とりあえすは挨拶だ。社会人の基本だ。
「私の名前はヤスダです。職業はニンジャの様です。よろしくお願い致します」
深々と礼をする。
ゴトウはウンウンと頷きながら話を続ける。
「今の自己紹介でなんとなく分かったと思うが、人型モンスターの全員が転生者だ」
「あ」
そういえば、全員がニホンの名前だ。話方や仕草もなんとなく親近感がある。
そうか、そういう事か。
彼らも何かの理由でこの世界にひきこまれてしまった人達なんだ。
「そして、俺たちは狩られる側、洞窟のモンスターとして冒険者を邪魔する存在なワケだな」
うわあ。考えたくなかった事実だが、念押しされちゃったわ。
となると、この事も聞かなくちゃ。
「あ、あの、冒険者達も転生者なのでしょうか?」
「ふむ、確かに気になるだろうけど、此処ではその辺りはハッキリしていない。
ただ、我々の予想では違うらしい、という事になっている」
「それはどういう理由で?」
「なんと言ったら良いのか‥、彼ら冒険者は、あまり人間ぽくないんだよな。
具体的に言うと、予想外の事をして来る事が無いんだ」
「予想外?」
「んーと…。
例えば、洞窟を攻略する際にモンスターに罠を張ったりしても良いと思うんだ。
その方が安全に戦えるって考えてもおかしくないよな?
ただ、冒険者がその様な事をして来たという話を聞いた事が無い。待ち伏せもしない。
見た目や会話をする様は人間にしか見えないが、そう言った事で裏をかかれる事は無いんだ。
簡単にいうとなんかプログラムっぽいというか…。
それが我々が考える、冒険者が転生者で無い理由だ」
そういうものなのだろうか。
このあたりは対峙した者しかわからない肌感覚があるのかもしれない。
ハー、と大げさにゴトウがため息を吐きながら言った。
「んじゃ、さっきのサイコロの意味を説明するな」
その場にいた全員がハァーとため息を吐く。
ダンジョンにいるのに、みんなサラリマンみたいだ。
悲しいね。