虫の過去 2
加筆修正 2016.10.30
マスターニンジャが語り出した。
「貴様は偉大なる魔術師様のお力により、異世界から転生した」
え?
「貴様は偉大なる魔術師様のお力により、異世界から転生した」
あ、二回言ってくれた。ヤサシイ。
「生きたければ殺し、殺したければ生きろ」
いや、生きたいけど、殺したくないし。
「百を殺しハイとし、万を殺しマスターとす」
ハイ。
「まずはハイニンジャを目指すが良い」
うむ、と頷き 納得するマスターニンジャ。
いや、うむ、じゃ無くてさ。
考えを整理するぞ、
やはりこれは異世界転生らしい。
すごい魔法使いの力で生まれ変わらさせられたのか。
クソッ!いい迷惑だ。
自分の体を見ると、今までのメタボな体では無い。引き締まった身体つきだ。生まれ変わっている。
妙な感じだ。自分の体だと思えない。
手を動かしてみる。グー、パー、グー、パー。
筋張った腕の筋肉がヌルヌル動く。
何だこの細マッチョは。モテてしまうじゃ無いか!
でも…なんか…妙…だなぁ…
周囲にウーマンのスメルがゼロなのだ…。
こんな薄暗い部屋の中で、オッさん3人で何やってんだ。
んーーーーー。俺が知っている異世界転生と違う。
こう、最初期はまずロリから始まり、巨乳が加わり、エルフが顔を赤らめた後、王女が一目惚れ、好かれまくっても気付かない!んーー!このニブチン!チューしちゃうぞ!別に好きじゃないんだからね!!
以上がごくごく一般的な異世界転生のはず。
そのはすだ。
何このスパルタンな始まり。
聞いてない。
「貴様ッ!!マスターのお言葉を聞いておるのかあ!」
聞いてないので、紅ニンジャの掌底が水月に捻り込まれる。
体が5度程 回転し、数秒後、この世の終わりの様な衝撃に襲われる。
「ゲェェェ!」
吐瀉物を惜しげもなく吐き出しながら、うずくまる。
チガウ、チガウ。コレボクノホシイノジャナイ。
こんな!まさか!
でも、本当に異世界に放り込まれたらこうなってもおかしく無いのかもな…
マキ‥‥お父さんはもう帰れないかもしれない。ごめんよ‥‥
目の前がゆっくりと白くなっていった。
フンッと鼻を鳴らす紅ニンジャ。
自分の立場の恐ろしさも手伝って、吐瀉物が止まらない。死ぬのは嫌だ。家族に会いたい。涙が出て来た。
‥‥クソッ!クソッ!クソッ!
まだ俺は死んでない!諦めてはいけない!しっかりしろ!
死んだら家族はどうなる!ダメだ!諦めるな!
あの時のプロジェクトに比べたらまだまだこんなもの!50連勤の後、最後は1週間泊まり込みだったじゃないか!
娘に顔を忘れられてたあの時の辛さに比べたら!まだまだぁぁぁ!!
脳内でテンションの調整を行なっている俺を尻目に紅ニンジャが動き出した。
ガサッ
無機質に俺を見ながら、背中から匕首を出す紅ニンジャ。
「これは支給品だ。このヤッパで侵入者どもを殺ってこい」
これ、ニンジャじゃ無くてヤクザ!コワイ!
震える手でヤッパを受け取ると、スラリと抜いてみる。
刃渡りは50センチくらいか。長くはない。
しかし初期装備がヤッパとは。
これは良いモノのかどうなのか。
柄が木製でヤクザ映画のドスのまんまだ。
なんか設定とか無茶苦茶だな、この世界は。
ジッとヤッパを見つめる俺を見て紅ニンジャが話し出す。
「貴様は運が良いぞう。何せ生還率はニンジャが1番高いからな。3回くらいならまあ、生き残れるんじゃないか?良かったなぁ」
ニィィィッ、と笑う紅ニンジャ。
やっと表情を出したと思ったら、何が嬉しいのか。
3回とは何の回数なのか知らんが、こいつは殺そう。
アヘ顔にしてからケツにこのヤッパをくれてやる。
必ずだ。
「後が詰まっている。そこの扉から出るぞ」
紅ニンジャはマスターニンジャに一礼し、扉に向かう。
俺も一応、一礼してから後を追う。
「ウム」
と言ったのはマスターニンジャ。
だから何が「ウム」なんだよ!!
男塾 塾長かよコイツ!マジで何の情報も得られねえし!
扉の向こう側は何やら騒ついていたが、
光は全く見えなかった。