俺の読みは外れねえ
「はー結局あいつの正体は分からず終いか」
放課後、俺はそんなことを言いながら教室の隅でじっとしていた。
何せ家に帰ってもやること無いからな、部活なんてかったるいのは以ての外だし。
「別に諦めちゃいねえけど、手がかりも何もねえんじゃ流石のタケちゃんでも取り付く島がないんだよ」と、人の少なくなった静かな教室で呟いていた。
ところで、今思い出したが編入生は部活体験とやらをしに行ったようだったな…
「ちょっくら見に行ってみるか」
今日の出来事を反芻しながら、編入生の今の居場所を推測し始めた俺は暫くして閃きその場を後にした。
向かった先はテニスコート、教室のある本校舎から離れた位置にあるグラウンドの端にある。
「ここに来ることは無いだろうと思ってたんだがな…遠いし面倒だし」一応この片離間高校の見取り図は頭に入ってる。無駄な知識にはならなくて良かった。
テニスコートに俺が来たってことは誰でも想像が付くだろうが、編入生は今日女子テニス部の体験をする。大方クラスの女子がごり押ししたんだろう…
「わーすごーい! 京都さんテニスやってたの?」
一つのコート内から編入生の名前と歓声が聞こえて来たから俺の推測は合っていたことになるな。ふー、合ってなかったらどうしようかと思ったぜ。
「おいそこ、推測じゃなくてただクラスの話題に聞き耳立ててただけだろとか言うな。傷付くだろ」
俺を気味悪がってる周りの奴はほっといて騒がしいそのコートに目をやると、見事なショットを打つ編入生が居た。勿論周りに外野も。
「ううん、さっきやり方を教えて貰ったから。それにそんなに上手じゃないと思うよ」
「そんなことないって、京都さんならすぐエースになれるよ」
「うんうん」
トーシロの俺から見ても上手いのは分かる。俺の読み通り運動神経も並じゃないようだ。因みに俺は運動はからっきし、まぁやろうと思えば出来るんだ、やらないだけでな。ほんとだぞ?
それにしてもここまで完璧だと益々気になるな…どうせ勉強も完璧なんだろ? 俺の読みは外れねえからな。
「別に俺は完全無欠なあいつが気に入らねえから穴を探すような小物じゃねえ、今朝感じたあの違和感の正体を知りてえんだ」と、言い聞かせて自分を落ち着かせた。
言い訳じみてるけど、実際今のところ俺の行為は全くもって意味を持たない。まさか俺の考え過ぎ? あり得ねえとは思うが勘違いか? 俺の勘が外れたことは無かったんだがな…
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「みんな今日はありがとう。良い体験が出来ました」
「そんな、また来てねー」
「ばいばい〜」
どうやら練習が終わって今日はお開きみてえだな。俺も帰るか、今日は駄目だったがまだ明日がある。
そう思い、踵を返した俺に
「ねえ竹、山くん」
と、後ろから美声が掛かった。聞き覚えのある声だった。
一瞬衝撃で挙動が変になりかけたが、なるべく自然に自然にと言い聞かせながら俺は後ろを向いた。そこに居たのは…
「竹山くん、これからちょっと…良いかな?」
思った通り編入生だった。だが、え?待てよ。今こいつ何て言ったんだ?
釈然としないまま、俺は少しの間呆然と目の前に舞い降りた天の使いを見つめていた。彼女の不思議な魅力に吸い込まれるように…
第8話・終
プロットとか考えずに始めたので大分もう暴走気味なんですが、なんとか収まりの付くような話にします。
自分の気合が持てばめっちゃ長くなる話ですがどうぞよろしくお願いします。飽きたら1ヶ月持ちません。