再会と別れ
翌日、予定通りに森を抜けた俺たちは目的地へ到着することができた。
「ここがグレイが昨日話していた場所なのか」
「そうだ。ヒュマの軍にさらわれて、俺たちが助けた開拓村だ」
村の周囲には以前はなかった大きな柵が建てられている。まだ仮組みだがそれは村に戻ってからあまり時間が経っていないせいだろう。
作業をしている住民は俺を見つけると手を振ってくれた。村長を呼んでくると言って一人が飛ぶような速さで行ってしまい、残った人に案内されて村の入り口をくぐった。
「よく来てくださいました。我々はいつでもあなた方を歓迎します」
出迎えてくれたのは、テレグ山で会った体格のいい男だった。村長として自信がついたのか、あの時よりも落ち着いているようにみえる。
「ありがとう。復興も順調みたいだな。手伝うことがあったら遠慮なく言ってくれ」
「恩人を働かせるなんてとんでもありませんよ。それより我が家にお越し下さい。狭いですが精一杯おもてなししますよ」
村長に案内されながら村の中を歩く。
壊れていた場所はほとんど修理されていたが、まだ片付けきれていないものも残っている。だが出会う村人はみんな元気にあふれていて、作業の手を止めて走ってきては頭を下げてくれた。
「聞いていた以上に感謝されているようだな。まるで英雄を迎えるようではないか」
「娯楽が少ないだけだよ。あの騒動をくり返し話すから印象が強くなっているだけさ」
「いえいえ、我々は本当に感謝しているのですよ。あの時は大変な思いをしましたが、おかげで村の結束がより強くなりました。外の柵を見たでしょう?あれは以前から作るろうという意見はあったのですが、誰も何もしてきませんでした。それが今では皆で協力して作っているのです。あなた方に自慢できるよう、立派な村にしていくつもりですよ」
村長は胸を叩いて笑った。
村長の家に着くと、テーブルに向かい合わせに座って話を切り出した。
「村長さん、あなたに頼みたいことがある」
「我々にできることなら、なんでもいたしましょう」
二つ返事で言ってくれるのは嬉しいが、話というのはこの村にも関わる問題だ。よく考えてもらわないと困る。
「ここに連れてきた者たちなんだが、彼女たちは帰る場所がないんだ。この村に迎え入れてもらえないだろうか」
「なるほど。それは大変な話ですね」
村長は慎重にうなずいた。
これはエルフたちと移動を始めてから話し合っていたことだった。元奴隷の者たちのほとんどは、村から出たことがないのでどこにあるのか分からないようだった。
地名を言われても分からないような小さな村だったり、分かったとしてもここからでは遠く、送り届けるのは難しい。
そこで一つの案として、この村で定住するのはどうかと聞いてみたところ、できることならそうしたいという意見が多かった。
「定住を希望しているのは、フェルパーの男女、シルフ・リザードマン・バーディアン・オーガの女性、合わせて六人だ。狩りの方法を教えてあるし、モンスターとの戦い方も教えてある」
ドワフの女性とドラゴニュートのイシャンは、エルフたちと一緒に別の場所へ行くことになっている。本人たちがそう決めたので、俺はその手助けをするだけだ。
「それは頼もしいですね。村のみんなにも聞いてみる必要はありますが、わたしは問題ないと思います。働ける人が増えることは我々にとっても良い話です。それにグレイさんの連れてきた人ならば、余計な心配は必要ないでしょう。寝泊まりする場所ですが、しばらくは集会所を使えばいいでしょう。大工はたくさんいますので、家の心配はありません」
「よろしく頼むよ」
「しばらく滞在するのでしょう?今日は宴会を開きますので、その時に皆に伝えましょう」
村長は乗り気のようだ。別なあてもあったが、ここで受け入れてもらえるならその方がいい。ひとまず肩の荷が下りた気分だった。
宴は日が傾き始めるころから始まり、村の広場は人でいっぱいになった。
手に入れたモンスターの肉を提供するととても喜ばれ、よりいっそう盛り上がった。
村長は酒に酔い始めると丁寧な口調がくずれ、豪快な笑い声が夜空にひびいた。とりつくろった顔より、こちらの方が好感が持てる。
赤ら顔で壇上で住人の受け入れの話をすると、村人全員から歓迎の声が上がる。村長のことをからかう声はあるがどれもが好意的で、信頼されているのがよくわかる。
旅の疲れもあり、宴は早めにお開きになった。俺たちは村長の家に泊めてもらうことになったが、さすがに全員は無理だったので数人ごとに別々の家に行くことになる。
その時点でもう村人と仲良く話しているのが見えた。
この村なら大丈夫だろう。
翌日からは村の手伝いをして過ごした。いろいろと資材を調達する必要が出てきたので、外での活動に慣れた俺たちが活躍できる。特に俺の容量の大きいアイテムボックスが役に立った。
エルフの指導の下で森の木を切っていく。大まかな加工を村人がおこない、使えるようになったものは片っ端からアイテムボックスに放り込んでいく。
近づくモンスターはエルフが察知し、パドマが監督しながら元奴隷に戦闘経験を積ませていく。期間は短いが、そうして村人と交流を深めていった。
数日たったある日、魔法の連絡板に連絡が届いた。
それはジークロードからのもので、やっと悪徳商人ウラルトの関係した奴隷商のアジトに踏み込むことができたというものだった。
捕まっていた者たちも救出できたが、間に合わなかった者も多かったらしい。その奴隷の中にも、偽の記憶を植え付けられた者がいるかもしれない。
助けられるものがいるのなら、助けてやりたい。この村はもう大丈夫だろう。
そうして、翌日に村を立つことにした。
村長との挨拶を済ませた後、ブリセイダがやってきた。
「グレイ。我らエルフはここで別れることにする」
「そうか。名残惜しいが、いつまでも一緒にいるわけにはいかないな」
「ああ、我らはの住処は森にこそある。以前に聞いた、ミミル殿の故郷の近くの森へ行くつもりだ」
「あそこはダンジョンになってるが、住んでも大丈夫なのか?」
「ダンジョンは魔力が普通より濃いが、我らは苦にならない。ワイドビーク村と言ったか?何かあればそちらの村のギルドから連絡をする。貴殿らの旅が良い物になるよう祈っているよ」
「俺の方こそ、キミたちが今度こそ安心して暮らせるように祈っている。そのためにも頑張ってやるさ」
握手をしようと手を差し出せば、力強く抱きつかれた。少し迷ったが、俺も手を回して抱きしめる。
二度と会えないわけではないのだ。会いたいと思えば会うことはできるだろう。
しばらくお互いの体温を感じたあとで、ようやく俺たちは身を剥がした。
「じゃあ、またな」
「ああ、また会おう」
そうして、俺たちは別々の方向へ旅立っていった。




