↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

76/85

記憶と絆

宴会中の元奴隷の顔を見回し、【ステータス窃視】を使う。

ゲームでのひとりひとりのステータスを憶えているわけないが、記憶操作された者とそうでない者では明らかな特徴があった。

それは【忠誠】の数値。俺とは関わりなかった者たちは50もなく、俺との記憶がある者は100を越えていた。


テントに個別に呼び出して、俺との記憶が作られたものである可能性を話す。

誰もが最初は戸惑っていたが、調教を受けた記憶を消せることが分かるとそれを望んだ。


記憶を消すには本人の体力と理性が必要で、負担が大きいことがよく分かる。しかもステータスは完全に戻るわけではなく、偽の記憶で過ごした期間が長いほど影響が残るようだった。

全員の処置が終える頃には、真夜中になっていた。

スキルを使いすぎたからか、頭がひどく痛む。ミミルが出してくれた温かいお茶を飲むと、やっと心が落ち着いてきた。


最後の一人を送ったブリセイダが戻ってきた。


「やはり彼女もキミを憶えていないようだった。処置の前はキミを見ただけで恐怖していたのに、終わればとたんに忘れてしまう。これはとても興味深い」


「どちらにしろ俺は心が痛い。向こうが楽になる分マシだけどな」


頭痛が少しは楽になったので、気合いを入れて姿勢を正す。まだ俺の仕事は終わっていない。


「処置するとどうなるかは見た通りだ。それで、ザラとパドマはどうする?」


そう、この二人も記憶とステータスをいじくられていた。

俺がこの世界で目覚めて会った、最初からいる二人。彼女たちのそれまでの記憶は偽物かもしれないが、俺と過ごした時間はそうではない。消せるのは作られたものだけだ。


ザラはブリセイダに目を向けた。


「アタシたちの故郷に起きたことは偽物じゃないのよね?」


「うむ。残念だが、確かな事実だ。偽物の記憶は、捕まってからのものだけであろうな」


それを聞くと、ザラはつまらなそうに鼻を鳴らした。


「じゃあいいわ。消しても消さなくても同じだもの。別にアタシは困ってないわ」


「そうですね。ワタシも同じです」


パドマがザラの横に立つ。


「グレイ殿は以前、偽物の記憶も含めて謝罪をしてくれました。グレイ殿も偽物の記憶に苦しめられていた上で、ワタシたちを気遣ってくれたのです。その記憶はワタシにとって大切なものです。消してしまうなどとんでもない」


「パドマ……」


二人の顔は晴れやかで、嘘偽りの欠片も見当たらなかった。


「なのにそれを消すか問われるなんて、ワタシは信頼されていないのかとちょっとショックでした。おわびに一発殴らせてください」


「パドマ!?」


「それいいわね。アタシも乗るわ」


「ザラも!?」


「二人だけズルいだよ。オラもやるだ!」


「私も私も!」


「そっちは関係なくないかな?」


「む、今のはひどいだ。オラには関係ないとか悲しいだよ」


「私も悲しいです」


二人ともちっとも悲しくなさそうだが、このままでは収まりそうにない。ブリセイダはいつの間にかテントからいなくなっていたので、助けを求めることもできない。

どうやら諦めて彼女たちの一撃を受け入れるしかなさそうだ。



翌日、目が覚めると日がすっかり昇りきっていた。テントから這い出せば、他の者たちは移動のための準備を始めている。

ミミルが持ってきてくれた朝食を食べていると、ブリセイダがやってきた。


「昨夜は大変だったようであるな。他のものたちも昨日の疲れが残っている。今日はあまり進めそうにないが、それでも動かぬわけにはいかぬだろう」


「そうだな。ここに留まる理由がない。何事もなければ、日暮れ前に森を抜けられるはずだ」


「我々は森の中の方が警戒しやすい。森を抜ける手前で陣を張ることはできぬか?」


【地図】を見ながら考える。森を抜ければ目的地はすぐそこ、一日もかからないだろう。


「問題なさそうだ。じゃあそれで行こう」


そういうことになった。





移動中、なぜかブリセイダが隣を歩いていた。


「昨夜の話だが、グレイ殿もまた記憶を操作されているのだろう?自分のそれを解除することはできないのか?」


「ためしてみたんだが、無理そうだった」


自分のステータスを見れるし、スキルの力は俺の中にある。だが記憶を取り戻すのに使うのは【女殺し】のスキルだ。男には当然効果はないし、自分自身を効果対象にすることもできない。


「それに……」


それに俺の記憶を取り戻したとして、俺は【今の俺】のままでいれるのだろうか。果たして【この肉体の俺】は、【ゲームを知る俺】と同じなのだろうか。それを知るのが、怖い。

だから今は、どうにもできないから、俺は俺のままで頑張ろうと思う。

俺が俺でいられるうちに、俺がやりたいことをやってしまおう。


「それに?」


問いかけられて、意識を現実に向ける。


「いや、なんでもない。それよりいつまでいるつもりだよ。安全確保を部下に任せたままでいいのか?」


「しっかり教育しているので問題ないぞ。たまには我がおらぬ方が楽になれてよいだろう。なに、あのモンスターの大移動の影響で、まともなモンスターは影を潜めているだろうよ。なので明日くらいまでは平和であろう」


「そうか」


ならこのままくだらない話が続くのだろうなと思ったが、口に出すことはなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。