第二陣との攻防
一陣は障害物をすり抜けてきたモンスターばかりだったが、二陣は障害物をなんとか抜けてきた中型も混じっていた。
最初と同じように、まずエルフの弓隊によって数を減らし、生き残ったものを盾持ちが受け止める作戦だ。
一陣の時と同じように木々の間から次々と矢が飛んできて、モンスターの群に降り注いだ。
体格が大きいせいかタフな個体がいて、まだ生きているモンスターが多い。他のモンスターの盾になるように動いているのがいるのも厄介だ。
先ほどよりも数が多いのを見て、両横の盾持ちの腰が引けている。
「盾持ちの俺たちが倒れたら、みんなの命が危ないんだ。気合いを入れろよ!」
「は、はい!」
俺も余裕がなかったからか、つい強めの声をかけになってしまった。だが盾持ち全員がしっかり構え直したので、今のでよかったようだ。
「パドマ、俺たちがモンスターを受け止めたあと、モンスターの中に飛び込んで暴れてくることはできるか?引っかき回したらすぐに戻ってきていい」
「分かりました、つまり攪乱ですね。必ずやりとげてみせます」
我ながら無茶な頼みだと思ったが、パドマはしっかりとうなずいてくれた。よし、これならなんとかなりそうだ。
降り注ぐ矢をくぐり抜けたモンスターたちが突撃してくるのを、腰を落として盾で受け止める。
中型は体が大きくなった分スピードが遅いので、受け止めるだけなら一陣よりも楽だ。問題なのはその後、足を止めたらこちらの盾の外から攻撃しようとしてくるし、盾をどけようとしてくる。それに耐えながら牽制攻撃をして、攻撃隊のための隙を作らなければならない。
「では、行って参ります!」
パドマは助走をつけて走り出すと、槍を棒高跳びのようにつかって俺の頭上を越えて行った。
空中でパドマの両手がスキルの光を宿し、モンスターの群へ衝撃とともに落ちる。
次々とモンスターが蹴散らされていくのが、盾越しに見える。モンスターも背後に気を取られたのか、盾への圧力が減った。
「今だ、後列、突け!」
パドマに見とれていた後列が、あわてて槍を構えて前進してくる。
一陣で慣れたからか、タフな中型にもしっかりとダメージを与えられているようだ。
問題なのは敵の数だ。倒せないわけではないが、このままだと全員の疲労が溜まる一方だ。モンスターの群はこの後も来るようだし、できるだけ早く殲滅して次に備えたかった。
そんなことを考えていたら、パドマが再び俺を飛び越えて戻ってきた。
「申し訳ありません。思ったよりもモンスターの数が多く、倒しきることができませんでした」
「いや、十分な働きをしてくれた。下がってしっかり回復をしておいてくれ」
「いえ、大したケガはありません。この血は全てモンスターの返り血です。ワタシも攻撃に加わります」
パドマが落ちていた自分の槍を拾いに戻る。
「では、次は私がやります。見ててください!やあああっ!!」
フィーがいきなり声を上げながら、モンスターの群に飛び込んでいった。パドマほど見事ではないが、鎧を着たまま俺たちの頭上を飛び越えたのには驚いた。
「フィーア、勝手に行ってはいけませんよ!グレイどのっ……!!」
「パドマはここで押さえているヤツラのトドメを刺すんだ。フィーの援護は……イシャン!お前が行ってくれ」
「お、俺がですか!?」
すぐ近くにいたイシャンを指名すると、戸惑った返事をされた。
「大部分は俺たちが引き受けてるから、奥で残ってるヤツラは多くない。こっちを殲滅したらすぐに助けにいくから、それまでフィーを助けてやってくれ」
「わ、分かったぜ。うおお、やってやる。やってやるぞ!」
イシャンは気合いを入れながら走ってきた。
俺は盾に取りついているモンスターを【シールドバッシュ】ではじき飛ばして、イシャンが通れる隙間を空ける。
走り込んで行ったイシャンをモンスターが狙おうとするので、再び【挑発】を使ってこちらに注意を引き戻した。
「この程度の敵、俺たちなら倒せる。やるぞ!」
「「「おお!」」」
勇敢に飛び込んでいった仲間を見たからか、士気が高まっているのを感じる。これならなんとかなりそうだ。
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イシャンが追いついた時、フィーアの兜は外れていた。モンスターの攻撃を受けたのだろうか、鎧に血が飛んでいる。
兜に隠れていた耳はヒュマのものに似ていて、イシャンは思わず足を止めそうになった。
イシャンは仕事を探しに街に出てきたところを、だまされて奴隷にされたドラゴニュートだ。だましたのはヒュマの女性であり、見た目は親切そうな人だった。
だまされた怒りとその後の屈辱が浮かびかける。だが、それは次の瞬間に吹き飛ぶことになった。
フィーアの目が、光ったように見えた。
距離があったはずなのに、イシャンにはそれがはっきり見えた。
【竜眼】。それは竜の力を秘めた魔目。見ることは世界を知ることであり、竜の目で見るということは、人知を越えた世界を知ることであるという。
ドラゴニュートは力を求める種族であり、そのために竜そのものになろうとする者もいる。その究極の一端が、目の前にいた。
「があああぁぁぁあああああああああ!」
フィーアが剣を振るえば、モンスターの上半身が宙を舞った。
フィーアが盾で殴れば、モンスターが砲弾のように吹き飛んでいった。
剣も盾も持っているだけ。理性も技術もないが、彼女を止められるものはいない。
それは人の形をした暴風であり、暴力そのものだった。
あれを守るだなんて、なんて馬鹿げた思い上がりだろうか。
タチが悪いことに【挑発】に似たスキルを使っているのか、モンスターが自分からやられに飛び込んでいく。
自分にできることは何もないのではないか。そう、思ってしまった。
『フィーを助けてやってくれ』
そうグレイに言われたことを思い出した。
(助ける?あれを?オレが、どうやって)
アレに近づけばイシャンも攻撃されかねない。そんな予感がひしひしとする。そんな相手をどうすればいいのだ。
(~~~。オレにできるのは、あいつの負担を減らすくらいか?)
自分を無視してフィーアに向かおうとするモンスターを攻撃し、引きつけて倒していく。一対一なら、苦労せずに倒すことができる。だがこれが、本当にフィーアを助けていることになるのだろうか。自分は必要ないのではないか。
そんな不安を感じながらも戦っていると、引きつけていたモンスターを倒したグレイたちが駆けつけてきた。
「イシャン、よくやった!後は俺たちにまかせろ」
彼らを見て、イシャンは心の底からホッとした。それとともに、自分の不甲斐なさもまた感じた。
「オレは……。オレも、まだ戦える」
「なら頼む。俺はフィーを止めるから、その間に残ったモンスターの相手をしてくれ」
「アレを止める……、正気なのか?」
「もちろんだ。フィーは俺の仲間だからな」
グレイはそう言い切ると、未だに暴れ続けているフィーアに向かっていった。
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