砦前の決着
◇◇
「ねえちょっと、人の気配が近づいてくるわ」
ザラが突然、焦ったような声で言った。
「いったい誰が来たんだ?」
「そんなの私が知るわけないでしょ。アタシは魔法に集中してなきゃいけないから、アンタが何とかしなさいよ」
「へいへい、分かりましたよ」
前方はパドマに任せても大丈夫そうなので、後ろを警戒する。すると細い横道から話し声が聞こえてきた。
「どうだ、オレと一緒に外回りに出てよかったろ」
「まったくでさ!こんなにいい獲物がノコノコ歩いているのを見つけられるなんて、さすがはアニキですぜ」
「アニキ最高ー!」
そんな騒がしい声とともに、3人の野盗が遠くから姿を現した。
1人はヒゲを伸ばしたオッサンであり、残る2人はそれよりは若い。3対2、しかもザラは魔法の行使中で動くことができない。実質俺1人でなんとかしなければならないようだ。
だがそれより何よりも、野盗たちが頭上に持ち上げているもが問題だった。
「こらー!何するだーー!早くオラを降ろすだ!」
1人で帰って行ったはずの金属鎧娘ことミミルが、3人がかりで担がれ運ばれていた。
「ミミル!」
「あ、ちょっと待ちなさいよ!」
ザラの制止の声を振り切って駆け出す。彼女が攫われてしまったら、その両親を助け出しても意味がなくなってしまう。
俺は走りながら剣を抜いて突っ込んだ。
「お前ら、ミミルを離せ!」
「な、なんだテメエは!?おいお前ら、コイツは任せたぞ」
ヒゲの野盗がミミルから手を放して短剣を構える。いきなり重荷を背負わされた2人の野盗はこけそうだったが、なんとか踏みとどまっていた。
ヒゲの野盗へ、剣を構えて体ごとぶつかっていく。受け止められたがそのまま勢いで押し込み、うまく体勢を崩させることができた。
続けて剣を振り下ろすが、ヒゲの野盗はそれにギリギリで対応してきた。こいつも俺よりレベルが高いようだ。体勢を立て直されたら勝ち目が薄くなってしまう。
俺は休むことなく連続で斬りつけ続けた。
「でい!どりゃ!おりゃ!」
「ぐぅ、くそっ、このっ!」
野盗の短剣が腕をかすめたが、崩れた体勢からの攻撃では威力が低い。それに何より俺の体力はバカ高いので、この程度は無視できるほどのダメージだ。むしろこっちの攻撃を当てるチャンスができたので、思いっきり剣を振り下ろした。
「もらった!!」
「ぐわあ!」
いい感じの袈裟斬りが入り、ヒゲの野盗は血を流して膝をついた。憎々しげに睨んでくるが、やらなければ仲間を守れない。だからトドメを刺すべく、剣を構えた。
それを見ていた野盗の子分Aが、ミミルから手を放してこちらへ向かってきた。
「チクショウ、よくもアニキを!」
「あっ、おい待てぐぇっ」
「あいでっ!」
1人では支えきれずに、子分Bはミミルの下敷きになってつぶれた。
子分Aはそれにはかまわず、短剣を振り上げ突進してくる。弾丸のように早いが、直線的なので対応しやすい。
「しねえっ!」
「やだね!」
俺は盾を構えてそれを受け止める。
甲高い音を立てて、盾が剣を弾く。それによって一瞬固まった子分Aに向けて、俺は剣を突き出した。
「えいっ!」
「痛え!」
当たるには当たったが浅い。
さらに追い討ちをかけようとしたが、子分Aは俺を警戒したのか、後ろに下がって身構えた。
「てめえ、なかなかやるな」
「そうでもないさ。まだまだだよ」
身内にすごく強いのがいるから、自分の弱さがよく分かる。だからこそ俺は、彼女たちに頼りきりになったらダメなんだ。
「今度はこっちからいくぞ!」
「来いやあ!」
気合を入れて、子分Aへと斬りかかる。
一合二合と斬り結び、三合目で大上段に構えた。
「これで終わりだ!」
「バカが!スキだらけだぜ!」
子分Aが突きかかってくるが、むしろそれが狙いだ。
子分Aは素早く俺の懐に入り込み、短剣を突き刺してきた。しかしそれは鎧の表面を滑って流れ、勢いあまって体勢を崩す。その無防備な背中へ向けて、渾身の一撃を叩き込んだ。
「ぐぇっ!バカ、な……」
「バカはオマエだよ。さっきの戦いを見てなかったのか?」
ヒゲの野盗は鎧の隙間を狙ってきたのに、子分Aはそれができていなかった。だから大丈夫だと思ったが、予想以上にうまく行ってよかった。
それにそもそも、ヒゲの野盗の攻撃を食らっても全然余裕だったので、その子分のコイツならまともに食らっても平気な自身があった。
オークスの体力は素晴らしい。この手に限るな。
「ぐえぁ」
「何が起こった!?」
いきなり背後からカエルが潰されたような悲鳴が聞こえたので振り返ると、ヒゲの野盗が森から伸びてきた木によって締め上げられていた。
手元にはナイフが転がっていることから、俺を後ろから刺そうとしていたのだろう。そういえばトドメを刺し忘れていた。刺されていたらけっこう痛かったかもしれない。
杖をこちらへ向けているザラへ手を振ってお礼を伝える。
これで野盗たちは無力化できたようだ。
白目をむいて気絶している子分Bの上でミミルがうずくまっていたので、歩み寄って手を差し伸べた。
「大丈夫か?ケガはないか?」
「うう、ありがとうごぜえますだ。だども、ちょっと足をひねっちまったみたいだ」
「歩けるそうか?」
「それが、痛くてちょっとダメっぽいだ」
さっき急に落とされたからだろう。具合を見てやりたいが、鎧を着ているから分からない。回復薬は袋ごとザラの所に置いてきてあるし、ほっぽって取りに帰るのはかわいそうだ。
仕方ないのでこのまま運べるかどうかやってみよう。
「ちょっとじっとしててくれよ」
「へ?へ?いったい何するつもりだか?」
「よっっ!!っと!」
お、重い。だが持ち上げられないほどではない。
お姫様抱っこにしようと思ったが無理だったので、俵担ぎになってしまった。でもこの際我慢してもらおう。
「う、うわっ!オラが持ち上げられてるだ!」
「悪いがじっとしててくれよ」
なんか言動が悪役っぽいけれど、こうしないと歩けないのだから仕方ない。足元に気をつけながら、荷物を目指して歩き出した。
◆◆
槍と大剣が交錯し、音を立てて火花が散る。
パドマとバルトロは互いに距離をとると、荒い息を吐いて睨み合った。
「どうやら向こうの決着はついたようですね」
「ちっ、まったく使えないヤツらばかりだ。まあ、長引かせるのもつまらんし、オレたちもそろそろ終わりにしようか」
「望むところです」
パドマが身を低くかがめて槍を構え、バルトロは大剣を肩に担いで構えた。お互い息を整えながら、機をうかがう。
樹木の暴力により不安定になっていた砦の一部が崩れた。音を立てて地面に落ち、土埃が大きく舞い上がる。それがお互いの姿を隠した時、パドマが動いた。
弓から放たれた矢のように駆け出し、回り込むように土埃の中を移動する。力ではバルトロに分があると理解しているパドマは、素早く動き回ることでバルトロの不意をつき、一気に押しきる作戦にでた。
後ろ、と見せかけて横から飛び出す。
槍とともに土埃を突き抜けたパドマが見たのは、自分に向けて大剣を振り下ろそうとしているバルトロだった。
「っしゃあ!カンが当たったぜ!!」
「……っ!まだです」
風を切り裂いて大剣が迫る。
パドマは持っていた槍を地面に突き刺して、それを足場に跳び上がる。
バルトロの大剣はパドマを追いきれず、手放された槍を弾き飛ばしただけに終わった。
パドマはバルトロを飛び越えて、その背後に着地した。
「くそっ、まさかあれを躱されるとは。だが、もう武器はないぞ」
バルトロが振り返ると、すぐ目の前にパドマがいた。まるでこれから槍を振り回そうとするかのように、体を思いっきりひねっている。
「『剛身』。我が身は只一本の槍なれば」
パドマの体に力が巡る。ドラゴニュートの特性である防御強化を、スキルによってさらに高めたのだ。
バルトロは本能的にそれが危険だと気づき、すぐさま大剣で切りつけようとした。
しかし、それはもう遅かった。
「『イノシシの牙』!」
全身のひねりを使って繰り出された貫手が、バルトロの鎧を撃ち抜いた。
重い全身鎧を着たバルトロが吹き飛ばされ、木の一本に激突する。そのままずり落ちて倒れた後は、立ち上がることはなかった。
◇◇
俺はミミルを担いだまま、ザラと共に砦の前までやってきた。ザラによれば、この砦にはもう戦意がある人間はいないらしかった。
砦の正面には、胴体部分に穴の空いた鎧を着た男が倒れていた。それなりに厚みのある金属板に穴を開けるとは、いったいどんな威力のある攻撃をしたのだろうか。
それを成したであろうパドマは、槍を地面に置いて座っていた。
「パドマ、かなり負担をかけたが、無事だったか?」
「はい、ワタシは大丈夫です。なかなかの強敵でしたが、勝つことができました」
ケガをしているようなので回復薬を渡したいが、ミミルを担いでいるので難しい。だからミミルを降ろそうとしたのだが、なぜだか抵抗された。
「なあミミル、お前が降りてくれなきゃ、回復薬を取り出せないんだよ」
「嫌だ」
「なんでそんな駄々っ子みたいなこと言うんだよ、なあ」
「ええと、……グレイさは足が痛いオラを見捨てるつもりなんだべ」
「そんなことない。それにミミルよりも、パドマの方がケガが大きいだろ」
助けを求めてザラを見るが、なぜだか汚物を見るような視線を返される。俺、なにか悪いことしたか?
パドマに視線を移すと、こちらは呆れたような、納得したような表情をしている。なんでそんな顔をされているのか、俺にはまったく理解できない。
どうすればいいのか途方に暮れていたら、砦の中から出てくる人影があった。
「おお!こりゃあすごいな」
のんきにも聞こえる声を出したのは、フェルパーのポルトだった。
担いだままのミミルが動いたので、落ちないように慌てて支える。
「ポルトさん!お父ちゃんとお母ちゃんはどないなっとうの!?」
「ミミルちゃん、なんでそんなことになってるの?帰ったんじゃなかったっけ。おじさんとおばさんは無事だよ。すぐに来るから安心して」
その言葉通りすぐ後から、砦の奥からドワフの夫婦を連れたミルドが出てきた。
「お父ちゃん!お母ちゃん!」
「ミミル!」
「まあまあ、なんてこと!」
あばれるミミルを降ろしてやると、両親に向けて走りだした。痛めた足を少し引きずっているが、問題はなさそうだ。やっと降りてくれてほっとした。
ドワフの夫婦は鎧姿の娘としっかり抱き合って、お互いの無事を喜び合った。




