砦前の作戦会議
全員の準備が整ったところで、来た道を逆に辿って進むことになった。
先頭はフェルパーの男、スカウトのポルト。その後ろにミルドが続き、そしてミミル、俺、ザラの順で並ぶ。パドマは殿を歩いている。
時折出てくるモンスターは、ポルトとミルドまたはパドマ1人で片がつくので、かなりの速さで進んでいた。
そうやって歩いていると、全身鎧ことミミルが話しかけてきた。
「グレイさんたちも強いんだなあ。オラの出る幕が全然ねぇべ」
「俺たちというより、パドマが強いんだよ。それとザラも、すっごい魔法使いなんだぞ」
そう言ってザラに視線を送るが、逆に睨まれてしまった。友愛値がマイナスなせいか、なかなかデレてくれない。
「本当だか!そりゃ頼もしいだなあ。人攫いのアジトも教えてくれたし、グレイさんたちはまるで神様がオラたちを助けるために使わしてくれたみたいだべ」
「そんなんじゃないさ。俺は頼もしい仲間がいるだけの、ただの旅人だ」
「そうなんか。でもオラも旅とかしてみてえな。オラずっと村さいるから、外のことなんか全然知らないんだべ。もし良かったら、外の世界のこと、教えてくんろ」
外の世界と言われても、俺が教えられるのはここに来るまでの事くらいだ。そこまで面白い話だとは思えない。正直にそう伝えるとそれでもいいと言われたので、言いにくいところはボカしながらも話した。
ミミルはとてもいい聞き手で、俺のあまり上手くない話にもいちいち相槌をうってくれる。さらに、剣鹿に止めを刺したくだりでは、拍手をして喜んでくれた。
「やっぱりグレイさんたちはすごいんだな!なあなあ叔父さん、オラも旅に出てみたいだ。オラにもモンスターとの戦い方とか教えてけろ」
「バカ言っとるんじゃねえ!オマエみたいなノロマじゃ、コボルト一匹倒せねえべ。村で大人しくしとるのが一番だ」
「そんなことないだ!オラだって戦ってレベル上げれば、コボルトくらい1人で倒してやれるだ」
ミミルが両手を振りまわしてアピールする。金属の塊が目の前をブンブン横切るので、当たったら微妙に痛そうだ。
「今の話からすると、ミミルは戦闘をしたことがないのか?」
「んだ。オラはずっと村で家のことしてただけだからな。レベル上げなんて全然しとらんかったよ」
ということは、レベル1の素人そのままということか。ミルドが村へ追い返そうとしている理由がよくわかった。
「でもそしたら、こんなモンスターがいる所にいたら危ないだろう。俺たちに任せて帰った方がいいんじゃないか?」
「んなことできね。お父ちゃんとお母ちゃんはオラが助けるだ!それに、オラにはお爺ちゃんが作ってくれたこの鎧がある。これ着てればどんなにモンスターにぶたれても、全然痛くないんだあ」
ミミルが誇らしげに鎧を叩くと、重い音が響いた。
確かにとても頑丈そうだけど、本当に大丈夫なのだろうか?ミルドに視線で尋ねるが、仕方がないとでも言うように肩をすくめるだけだった。
休憩をはさみつつ進んで数時間後、野盗のアジトが見える場所までやってきた。
両側を森に囲まれた一本道の先にあり、かつては関所だったことがうかがえる。使われなくなって破棄された砦を、野盗が勝手に利用しているのだろう。
砦の前には見張りが2人いた。両方とも粗末な革鎧着て剣を一本下げている。
ひとりで偵察に行っていたポルトが戻ってくるのを待って、作戦会議を始めた。
「あれで間違いなさそうだな。さて、どうする?」
「そんなの決まってるべ!みんなまとめてぶっ飛ばして、お父ちゃんとお母ちゃんを助けるべさ!」
「ダメだべ」
「ダメだね」
「叔父さんはともかくグレイさんまで!なして!?みんなこんだけ強いんだから、簡単に助けられるべ」
ミルドがうかつな事を言うミミルを叱ろうとしたので、それを押しとどめて理由を話す。
「力押しができるか確証がないし、できたとしても俺たちの被害も大きくなる。それどころか俺たちが戦っているうちに、攫われた2人を連れて逃げられるかもしれない。それからまた追いかけるとなると、敵は数を増やして待ち構えているだろう。そうなったらもう取り返すことができなくなる」
「……」
不満がありそうだが、具体的な反論が出でこないようだ。なにか思いつかれる前に、ダメ押しに言葉を続ける。
「あと、捕まってるミミルの両親の安全が保証できない。もし人質に取られでもしたら、俺たちは手が出せなくなる。最悪、みんな捕まってバラバラに売られるかもしれないな」
「そ、そげな……」
俺が言った結果を想像したのだろうか、ミミルは顔を青くした。
「だから、そうならないようにみんなで考えるんだ。何か意見があったらどんどん言ってくれ。もちろんミミルもね」
フォローしようと笑いかけるが、あまり効果はないようだ。
もっと何か言った方がいいのか迷っていると、パドマがおずおずと切りだした。
「突っ込むのが無理なら、迎え討つのはどうでしょう。道の途中なら2人も並べば塞げるので、敵が多くても不利は少ないと思います」
「そうだな。相手の陣地で戦う必要もないし、それはいいかもしれない」
「で、でも、そげな簡単に砦から出てきてくれるだか?砦に篭られたらどうすんだべ」
ミミルの反論に、ザラがニヤリと笑った。
「ならアタシが最初にデカイのをぶち込んでやるわ。砦を攻撃されたら、イヤでも出てくるでしょ」
「それもいいけど、捕まってる人のことも考えろよ」
「わかってるわ。巣に篭るゴブリンを追い出すいい方法があるのよ」
悪い笑みを浮かべるザラに、ミミルが食いさがる。
「でもさっきグレイさんが言ったように、人質に取られたらどうするだか?やっぱ中に入って先に助けた方がいいんじゃねか?」
「ワシもそう思うぞ」
「叔父さん……!」
助け舟を出したのは、意外にもミルドだった。
「あら、さっきはダメだって言ってなかった?」
「なんにもやらんで突っ込むのは無理だが、砦から追い出す方法があるなら話が変わってくるべ」
「なにをするつもりだ?」
「つまり、両方で行くっちゅうことだ。兄ちゃんたちがここでヤツらの気を引いてる間に、その隙にワシとポルトで砦に入って助け出す」
「それだとそっちの危険が大きいけど、できるのか?」
「できんかったらこげなこと言わん。ワシらはこれでも、ここらでは腕利きの冒険者だ。敵に見つからないように動くくらいわけねえ。むしろ敵を食い止めなきならんそっちが危ないだ」
「それこそ心配ない。俺は体力には自信があるし、何よりザラとパドマがいれば負ける気がしない」
「ならこれで決まりだべ」
ミルドが拳を突き出してきたので、それに拳を当てた。そしてお互いニヤリと笑う。
そんなことをしていたら、横でミミルが手を上げた。
「ならオラは叔父さんたちと一緒に行くだ」
「ダメだ」
「ダメだね」
「またしても即答だべか!」
俺が口を開きかけると、ミルドが手で遮ってきた。
「ミミル、オマエのその鎧はガチャガチャ音たててうるさいし、なにより速く動けんだろう。ついてこられても、足手まといなだけだわい」
「だども……」
「だどもへちまもねえ。オマエは大人しくここで待っとれ」
「……なら、こげな鎧脱ぐ!」
「アホか。ワシがオマエ連れて来てやったんは、その鎧があったからだ。それを脱ぐっちゅうんなら、今すぐ村さ帰れ!」
ミルドが叱ると、ミミルは目を見開いた。
何かを言おうと口を開き、それが言葉になる前に何かに気づいて口を閉じる。そんな風にパクパクと口を開け閉めして、結局なにも言わずにうつむいた。
ミミルがかわいそうだけど、ここはミルドの方が正しい。ただ言い方がきついので、フォローしておくべきだろう。
そう思って声をかけようとしたとき、うつむいていたミミルが突然顔を上げた。
「叔父さんのバカ!もう知らん!!」
そう叫ぶと村への道を猛然と走り出した。
涙目で罵倒の叫びを上げながら走り去るミミルを、俺は見送ることしかできなかった。




