江戸時代で看病
「梨恵よぉ、おめぇ、どこから来た?」
「あ…。」
「内緒かぁ?住まわせてやったのに?」
「未来からって言って信じます?」
「うん、信じられねぇな。けどよぉ、これから先ずっと信じないとは言ってないぜ。」
「そうですか。」
それから幾日かが過ぎた。
「おい…。今日は店、休む。」
「どうしてです?」
「なんだか、具合が悪くてよぉ…。」
「お大事に。」
(それにしても、どうしたら帰れるのだろう…?もしかして達吉さんが倒れたのにも何か縁があるのかしら?とりあえず元気になってもらいましょ。)
「達吉さん?」
「あ?」
「具合はどうです?」
「ダメだ…。熱が…。」
「そうですか~。」
「おらぁ、高熱で死ぬんかな…?」
「大丈夫ですよ、おそらく。」
「おそらくだろ?必ずじゃないだろ?」
「絶対大丈夫!」
(氷枕でも作ってあげましょ。そうすれば、もとの達吉さんに戻るでしょ。)
「氷枕、作ってきますからね。」
「氷枕…?なんでぃ…?」
(そっか、氷枕は江戸時代にないんだ!そうだよね、氷枕ってゴムで出来てるものね。ゴムに代わるものって…?ってか、その前に冷蔵庫がないから、氷作れないか。)
「あ…、なんでもないです~。忘れてください。」
「なんでもいいけどよぉ~、助けてくれよ~。」
(じゃあ、水…。ダメ。思いつかない。普通に布を濡らして看病するか。)
それから数日間というもの、梨恵は濡らした布を達吉の額に置き、しばらくして新しく濡らした布を持ってきて、達吉が先ほどまで額を当てていた布は雑巾として使い、店を綺麗にした。
(お世話になったからね。)
そして…。
「おう、梨恵。ありがとよ。おらぁ、生き返ったぜ!」
「生き返った…。大げさな。」
冷静に突っ込む梨恵。
「それに、店も綺麗じゃねぇーか。」
「えぇ、そりゃ。達吉さんの額に当てていた布を雑巾として、店を綺麗にしましたからね。」
「…。」
「大丈夫です。雑巾にしたものを額に当ててはいませんから。」
「当たりめぇだ。」
「あはは。」
その時であった。達吉が額に先ほどまで当てていて、まだ雑巾にしていなかった布が、例の光を発したのである。
「あ、その光!」
「こりゃあ、驚いた。おめぇが言っていたのは本当のことだったんだな。じゃあな。世話になったぜ。」
「こちらこそ。もしかしたら、私はご先祖様に会ったのかもね。」
「はは。じゃあ、おらぁ、子孫に会ったってことか?ははは。じゃあな。」
「それじゃあ。」
そして、光は梨恵を飲み込んだ。瞬きすると、そこは雑貨屋。時は止まっていたのだろうか。店主が不思議な顔もせずにいることからして、そうだろう。
(…不思議。)
こうして、梨恵はもとの世界、もとの時代に戻ったのである。作者が最も不思議に思うことは、もとの世界に戻る鍵が、以外にも雑巾になる前の布であったことである。




