Awaking
「全く、何で俺がこんなイベントに参加しなきゃなんないんだよ」
「文句言うなって、折角チケットが余ってたんだからゲームデビューと行こうじゃないの」
文句を言われた方は気にしない様子で会場に向かう。
奴の名前はトシキ。平たく言えば俺の相方みたいなもんだ。
「カオルも今時珍しいよな。全くと言って良いくらいにゲームやらないんだから」
「ほっとけ」
ゲームの技術進歩がさらに進み、経済までも動かすようになった世界。仮想世界と現実世界を結ぶゲームができたのはもちろん、こういう風に有志のユーザーを集めてのロケテストなんかも恒例行事のひとつになっている。
「今回のはカオルの親も開発に関わっているんだろ?何か話聞いてないか?」
「知るかよ。あんなゲームに取り付かれたクソ親なんかな」
何でも、今回のゲームには俺の両親も開発に関わっているらしい。基本家でも会話なんてないから心の底からどうでも良いけど。
「久々のロボットものだからなぁ。今回はチケット取れて本当に良かった、ってカオルも思うぜきっと」
そんな俺の心境などお構いなしにトシキは会場の中に入っていった。
チケットを見せて中に入ると、そこにはゲーセンで置かれていたようなカプセル型の筐体が所狭しと並んでいた。
「俺の場所はここだな。カオルのは別なところだから自分で探せよ」
「しばらくの別れだな。ま、ほどほどに楽しむよ」
最初の抽選で選ばれた筐体に向かう。
筐体の中に入ると椅子と頭に付ける接続用のヘッドセットが置いてある。
まずはこのゲームで使うアバターの設定をしないといけない。
最近のゲームでは現実の自分に似せてアバターを勝手に作ってくれるので簡単な操作ですぐできる。
このゲームの前知識がまるでなかったので一応説明を読んでみる。
「なるほどね」
自分でロボットを操作して戦ういわゆる戦略もののようだ。
こういうゲームは初めてなので練習がてらログインする。もう既に何人もログインしているようだ。
目を開けるとそこはもう仮想の世界だった。
俺にとっての初めての仮想世界が広がっている。
「感覚は生身と変わんないか」
軽く手を動かしてみる。少しだけ違和感があるが慣れの問題だろう。
今回のロケテストは100人が参加すると聞いている。ログイン人数を見てみるともうほとんどログインしているようだ。
「みなさん、はじめまして開発担当の者です。今回はこのLimited Warsのロケテストに参加いただき、ありがとうございます」
見たくもないクソ親父の顔が写る。
「このゲームはもし戦争が見世物だったら、ビジネスだったらと言う考えでできたものです。皆さんにはこれから2つの陣営に分かれてもらいます」
そして次にとんでもないことを口にする。
「そして皆さんに殺し合いをしてもらいます」