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第5話:〜初雪〜

第4話から♪受験もようやく‥

「いらっしゃいませ。」

 館内に入ると、海の中を演出するように穏やかな音楽がかかっていた。

 ガラスで仕切られた窓口に生徒手帳を提示し、学生料金でチケットを買って、水槽へと続く通路に立っていた職員にチケットを切ってもらい、関山と奥へ進んだ。


「水族館なんてすごい久々♪小4以来かも。」

「俺もだ。中学にもなると、こんな所来る機会ないしな。」

 休日の為か、やはり子供連れの家族が多く、どの水槽の前にも人だかりが出来ていた。

 ここには、昔何度か来た事がある。その時はまだ小さかったので、親に抱き上げてもらったり、人だかりをかきわけて行って、背伸びをして岩場に隠れた魚を覗いていたものだ。


「ねね、あっちの水槽にもすごいのいるよ!!」

 関山が興奮気味に、クラゲを見て和んでいた俺の服を引っ張ってきた。

「はは。何興奮してんだよ。まるで小学生だな。」

 関山は一瞬、ムッと顔をしかめた。

「クラゲを見てニヤケてる人に言われたくないですよ!!」

「え!?俺、ニヤケてたか!?」

「冗談だって♪さ、あっち行こう。」

 関山は、より力を入れて俺の服を引っ張り、俺は抵抗もせず関山に着いて行った。

 周りながら、俺達は色々な話をした。悠介が同じクラスの頼本(ヨリモト)と良い感じになっている事、颯太が他クラスの女子と付き合い始めた事など、話題はやはり恋愛に関するものが多く、中でも、俺のタイプを聞いてきた時は、流石に口隠ってしまった事もあった。


 関山のペースにのったまま、一通り周り終えると、俺達は休憩所のイスに腰を下ろした。


「ふぅ。楽しかったが、流石に端から端まで連れ回されたら疲れたな。」

 俺がおごったジュースを飲みながら関山が笑った。

「ま、一通り見終えた訳だし、次の場所行きますか??」 携帯を見ると、時計は3時丁度を表示していた。

「そうだね♪あ、でもぅ‥二人でカラオケも難だし、ゲーセン行かない??札幌のナムコとか。」

 関山から手渡された空き缶をすぐ横のゴミ箱を捨てた後、俺は因れたジャケットを直すと、行くぞ、と言って関山を手招きして、室内に連結していた出口へ向かい、螺旋階段を降りて外へ出た。



 札幌へ向かう電車の中、札幌までは距離は短いので俺達はドア付近に立っていた。

 向かいに立っている関山は何か思い悩んだ顔をして、ほのかに赤く染まった窓の外をぼんやりと眺めていた。俺は敢えて声はかけず、何かあるな、と考えながらも、関山と同じように窓の外を眺めていた。


 札幌駅は水族館とは一変して、コートをはおって急いて走る会社員や、肩を寄り添って歩くカップルなどの姿が多かった。


 ナムコのあるビックカメラは札幌駅の南口を出てすぐ近くにある。ビックカメラへ繋がる階段を、降りて来る人をかわしながら関山と競いながら駆け上がる。 途中、関山が一歩リードしていた俺の服を掴んだ。

「ぁ、ぁーあっ!!」

 俺は階段を踏み外してスネを強打し、その場で声無き悶絶をした。その為、関山に圧倒的な差で負けてしまった。

 俺が関山に遅れて階段を上り終えると、関山は誇らしげな顔をして仁王立ちしていた。

「流血ものですが。」

 関山の頭を軽く小突くと、関山は、ごめんごめん、と笑いながら俺の腕を取り、ビックカメラの入口へと走った。


 店内の、ほぼ満員状態のエレベーターに無理矢理入り、ナムコのある9階へ向かってる途中でも関山に掴まれた腕は自由になる事はなかった。

━━━これじゃまるでカップルだな‥‥


 9階を表示するランプが光り、分厚いドアが開ききった音を聞き終えた後、一斉に動き出した人混みに紛れ、俺達はエレベーターから出た。


 ナムコの中に入ると、関山がプリクラコーナーへ直ぐ様走った。

「記念に撮ろ!!ね??」

 あまりの強引さに俺は多少後退ったが、やれやれ、と呟き関山の進むがままにプリクラを撮り、その後はゲーセンの中を連れ回された。


 午後6時。琴似へ戻ると、辺りはもう暗くなっていて街灯がついていた。俺達はそのまま帰路につき、駅を後にした。

「いやぁ、今日は楽しかった楽しかった♪」


 自動車の通りが少ない道を二人で歩いていると、関山が全身で伸びをした後満足気に言った。

「俺は1日中、召し使いのように振り回されてましたが。」

 疲れきって猫背になった俺に、関山が、気にしない気にしない、と言って背中を叩いてきた。



 公務員宿舎が立ち並ぶ道を抜け、俺の家がある住宅街に入る、あたりはより一層暗さをまし、カーテンのかかった住宅の窓から僅かに洩れる光が街灯代わりとなっていた。

「家まで送ったるよ、どぅせ時間あるしさ。」

 家の前に着いてから俺は関山に言った。関山が頷くと、一瞬途切れた会話を繋ぎ直し、関山の家の方へ歩き出した。しかし、その時の関山は、電車の中で見せた、何か思い悩む顔をしていた。


 歩いて100メートル行った所、下手稲通り沿いの信号の辺りで、関山が立ち止まり、思いきったように話題を変えた。


「あのさ‥大原の好きな人って‥」―――やはりな‥修羅場だ‥‥

 関山に向けていた視線を地面に向ける。

「知ってるのか。」

 気まずい空気がながれ、その中で、意を決したように関山が言った。

「うん‥実は学校祭の休憩時間の時、大原達の会話聞いちゃったんだ。」

――そんな‥

俺は黙ったが、あの話を聞かれていては誤魔化す事も出来ないと感じ、正直に言おうと決心した。

「実は尾美なんだ。好きと言うか、アイドル的存在に思ってる。」 正直に言ったはいいが、関山には苦しい言い逃れにしか聞こえなかったかも知れない。しかし、関山の笑う声が聞こえた。俺は耳を疑った。車の音で多少かきけされてはいたが、それは確かに笑い声だった。

 恐る恐る顔をあげると関山がコートの袖で顔を覆っていた。


「関山‥‥」

 顔を覗き込もうとすると関山が慌てて体の向きを変えた。

「大丈夫!!前々から聞こうって思ってて‥うちが大原好きだって事、本人に知られてるのわかってたから、ちゃんと心構えも出来てたから‥」

 言葉の間には、何度もズッと鼻をすする音が入っていて、俺は関山が泣いているのを悟った。 俺はどうしていいのかわからず、ただただその場に立ち尽くした。

「ぁ‥ご、ごめんね!!なんかいきなり変な事言って!!」

 泣いているのを必死に隠しながらも、関山は謝った。

「いや、俺こそすまん。」

「な、なんで大原が謝んのさ!!謝るのは私だから。そういえばさ、尾美さんも大原の事‥気になってるみたいだよ。頑張ってね。私‥応援してるから。」

 俺はそれを聞いて、喜んでいいのか悔やんだらいいのか戸惑った。直接ではあまり話さないし、尾美が俺を好きになる理由がわからなかった。

「お、尾美が俺を??まさか‥」

「はは。素直に喜びなよ。私の事は良いからさ。」

 その言葉を聞いて、俺は胸が苦しくなった。尾美が俺を好きかどうか以前に、関山とそれまで築きあげられた親しい関係がボロボロと崩れていくんじゃないかと言う不安。友達以上恋人未満という境界線を引きながらも、そんなのは嫌だ、と思う。それでも尾美が好きな自分を心底恨んだ。

「私は本当大丈夫。だけどお願い、今までと変わらずに接してね??」

 関山が泣き止んだばかりの顔に笑みを浮かべて言ってきた。俺はその笑顔を見て少し安堵し、わかった、とゆっくり頷くと、二人の間に会話がなくなった。


 そういえばさ、関山が沈黙の中、口を開いた。

「今日初雪予報されてたよね。今年もはずれちゃうのかな。」

 今日までに見た天気予報では、見る度に違う専門の人間がでていて、雲の動きなどを詳しく説明していた。去年の予報は10月下旬と予想されたが、10月の中旬には初雪が観測された。 はずした事に何かしら無念さを感じ、今年は当てにいこうと天気予報も必死なのだろうと俺は思った。

「そうかもなぁ‥期待させておいて、結局はデタラ‥ん??」


 そう言って空を見上げると、頬に冷たさを感じた。

「関山‥あいつら、デタラメなんか言ってなかったみたいだ‥。」

 下を向いている関山の頭を軽く叩いて上を向かせた。


「え‥嘘みたい!?予想当たったんだ!!」

 空からは、辺りの光を乱反射させた、光り輝く真っ白な粉雪が降り注いできていた。

「すごー‥タイミングが良いというか悪いというか‥」

 関山はそう言った後、焦ったように時計を見る素振りを見せた。

「あ、今のは変な意味じゃなくてその‥い、今何時??」

 俺は関山の挙動不審なところを見て笑いながら、7時になるところだ、と答えた。

「それじゃあうちはそろそろ行くわ!!送るのここまででいいから。」

 そう言って関山は点滅している信号を渡っていった。

 俺はそれを見送り、姿が見えなくなってから家の方向へ向きを変えた。

 すると突然遠くから関山の声が聞こえ、すぐに俺は振り返った。関山が道路を挟んだ歩道のところに立っていた。

「なしたんだ??」

 俺が大声で関山に返事をすると、彼女は手を口の横にたて、叫んだ。

「うち、絶対諦めないから!!ずっと狙ってるから覚悟しときなよ!!それと、実は今日のは‥」

「お前の作戦だったんだろー??」

 辺りを歩いてた人の視線が気になったが、構わずに俺は叫んだ。

「し、知ってたのかい!!いじめだぁ」

恥ずかしさを堪えきれなかったのか、彼女はそう言って家の方へ走っていった。


「はは‥つくづく面白い奴だな‥」

 少しその場に止まり、関山が戻ってこない事を確認し、振返ると信号待ちをしていた人達が薄笑いしていた。俺は逃げるように家へと走った。



 ――尾美が俺を‥

 ベランダで煙草をふかし、関山の言葉を思い返す。

「まぁどちらにしろ、善は急げってな‥ここはいっちょ玉砕覚悟で言ってみますか!!」

 少し関山にうしろめたさを感じつつも、俺は尾美への告白を決意した。

6話をょろしく(●´∀`●)

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