手回し腕回し
これは、とある人から聞いた物語。
その語り部と内容に関する、記録の一篇。
あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。
世の中、やたらと太りにくい人がいる。
身近に感じる理不尽のひとつじゃないかと思うぞ。自分と同じか、それ以上に食べているはずなのに、自分は明らかにスタイルが崩れていっているのに、相手はいつまでも平然としている。
痩せること、スタイルを整えることを考えている側であるならば気になるし、ねたみもするだろう。相手がひょっとしたら、相応の苦労を重ねているかも……などという想像には至らないくらいに、切実だ。
仮にコツを聞いたところで、懇切丁寧に教えてもらえるかは相手の気質や人間関係次第。はぐらかされることも多いだろう。
しかし、その方法が常軌を逸したものでも……採用したいと思えるだろうか。
俺の昔の話なんだが、聞いてみないか?
俺は今も痩せているとは言い難い体型だが、昔はこれに輪をかけてふくよかなボディをしていた。
おかげで学校では太っちょ系悪役の代わりとして、主人公役の友達の必殺技を食らう役回り。体重があるから下手に反撃すると、相手に思いのほかダメージを与えてしまうんで抵抗するのもひと苦労。
向こうは楽しいかもしれないが、俺にとっては不快のかたまり。いつか瘦せ細って、ぶん殴る側に回ってやろうと常日頃考えていた。
が、俺は痩せがたく、太りやすいというあまりにもあまりな体質を持っていた。
運動や節制を繰り返したとて、1キログラムを減らすのに何か月もかかる有様。それでいて気が緩むと、すぐに2キロ3キロと増量されていく。
いまだ膝が支えてくれているとはいえ、そのうち自分で歩けなくなるんじゃないか……などと漠然と不安を覚えていたんだ。
それでも隣のクラスには幼馴染で、俺と同じくらいの太りっぷりを友達がいたから、完全に闇落ちまではしなかったんだがな。
しかし、それも脅かされるときが来てしまう。
あいつが、みるみるうちに痩せ始めてきたんだ。さすがに漫画などで見るような一日でデブからガリに変身する、なんて極端なものではなかった。
けれども、何日も見ていくとその変化は確かなものととらえられる。全身のラインとか、顔の細り具合とか、服のゆとりの持ち方とかな。
痩せてる、と確信を持てたときにはもう、どういう手品を使ったのかと詰め寄っていたんだ。
あいつ自身、「お前に合ったものかどうかはわからないが……」と前置いたうえで、その方法を伝授してくれた。
込み入った手段を覚悟していたが、彼の教えてくれた方法は思ったよりも簡単だった。
注意する点は2つ。
1つは自分の肩甲骨の部分に、しその葉を貼り付けること。店売りされているものでもいいが、自生しているものを自分で摘んだばかりのものが最適らしい。そいつを最低でも72時間、かたときも肌から離れないようにしておく。
2つ目は上半身裸の状態で、うつぶせになって眠ること。こいつもまた一晩限りではなく、連日続けるようにする。この期間中、風呂に入ったり汗をかいたりして、肩甲骨が濡れそぼってしまうことがあったら、しそを貼り直すところからやり直しだ。やはり摘みたてのしそを新たに用意して使うことが上等とされる。
「もし、うまくいったのならうつぶせになって眠るときに、『そいつ』は起こるだろう。『そいつ』が何かは口でいうより、見たほうが分かる。うまくいかなきゃ分かんないままだけど、うまくいったらどうだろうね……?」
実際、話を聞いてから3か月間はうまくいかなかった。
しその葉がはがれるときもあったし、うっかりややむを得ずで体を濡らしたこともあった。うつ伏せに寝ていると思ったら、いつの間にやら寝込んでしまって、寝返りをうってしまってパアになることもあったな。
しその葉に触れ続けたせいか、肩甲骨のあたりもムズムズ、チクチクしてきている。それでいて結果が出ないものだから、俺自身もいらだちを感じていたなあ。
ヘンテコ、まゆつばな方法に頼るより、やはり地道な減量作戦のほうがマシなのではないか……と思い始めていた夜のこと。
裸うつ伏せも、ようやく寝返りせずに姿勢キープできるようになっていた。
うとうとしながら、自覚できたら起き直す。そう細切れ睡眠を繰り返して、時刻は午前2時前後くらいに差し掛かっていたな。
にわかにパチン、パチンと音が聞こえるようになる。首のすぐ後ろからだ。
風船などがはじける音とは違ったな。こう、ある程度弾力があるもの同士を打ち合わせているように思えた。固すぎても、やわらかすぎても、このような音が立つのは難しいだろう。
ならば、なにが……と俺は首だけをどうにか背後へ向けようとする。
左右、稼働できる範囲での首回しだ。完全に振り返ることはできなかった。
それでも目で見る範囲で、俺に判断がついたのは「腕」だった。
俺の両側の肩甲骨から、腕らしきものが生えている。俺の腕とほぼ同じくらいの太さと長さのように思えて、そいつらが「かしわで」を打っていたんだ。
拍手といえるような速さじゃないな。音楽の時間で拍子をとるかのような緩やかさだったが、この時点の俺は冷静に見ることはできなかったね。
優先したのは、起き上がってより詳しく確かめよう、という動きじゃなかった。一刻も早くこいつを排除したい、という気持ち。
ごろりと、俺はうつ伏せ状態から思い切り寝返りを打つ。肩甲骨が床に触れるようにな。つまり腕を下敷きにしてやろうと考えたわけ。
もくろみはうまくいったし、腕そのものが肩甲骨からなくなりはしたが、大惨事さ。敷布団からは外れたものの、下敷きにした床はいっぺんに血と脂まみれに。
臭いもひどいし、自分ひとりじゃ対処しきれず、家族にも自然とかぎつけられていろいろと問い詰められたっけなあ。あのときの弁解含めて、印象深いが好んで言いふらしたくはないものだ。
で、実際に俺の体重は数キロほど減っていたのさ。あの両腕のおかげ、と見るのが自然なんだろうが、あんなことがあると容易にもう一度、という気にはなりづらかった。
教えてくれた友達もほどなく転校してしまって、連絡つかずだからな。何かあった時の正しい対処法がわからねえまんまだし。




