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風見先輩が私のことを好きなのはラノベアニメの主人公に似てるから。〜好感度高めから始まる恋のススメ〜  作者: 宮野ひの


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第9話 恋人繋ぎ

「……………………入らないよ」


 長い間をたっぷり取った後、みなみちゃんが冷静な声音で言った。


「やっぱり? あのね、風見先輩が間接キスも立派なキスだって言うからさ、つい気になって、みなみちゃんに聞いちゃった」


「はっ? 間接キスしたの?」


 彼女は眉間にシワを寄せて、とてつもなく怖い顔をした。


「う、うん」


「わおと風見先輩が? ソフトクリームで?」


「うん……」


 みなみちゃんは私の肩をガシッと掴み、顔を近づけてくる。


「わお。無防備すぎるよ!」


「そ、そうかな?」


「わお絶対、風見先輩から、からかわれてる! 隙があるから、グイグイ来られちゃうんだよ!」


「みなみちゃん、落ち着いて」


 彼女は般若のような顔になっていた。


 私の言葉に冷静になったのか、みなみちゃんは一つ咳払いをした後、私の肩から手を離した。


「ごめん」


「いいよ。っていうかさ、私とみなみちゃんも間接キスしたことあるでしょ!」


「前にカフェに行った時だよね? わおが、あたしが頼んだトロピカルジュースを美味しそうーって。一口飲ませてーってやつ」


「うん! あれはめっちゃ美味しかった。あの説はありがとう。……だからさ、そんなドキドキするものじゃないでしょ。間接キスって」


「そう? 今のわお、めちゃくちゃ乙女な顔してるよ。まるで、風見先輩との間接キスが良かったみたいな」


「え、えー!」


 そんなはずはない。自分で顔をペタペタ触ってみるけど、わからなかった。

 あれ。この動きって、昨日のネットカフェでもしたなぁ。……。


「まぁ。あの、みんなの憧れの風見先輩だもんね。緊張するのが普通かもね」


 みなみちゃんは私から目を逸らして言った。そして続ける。


「でも、わおって、あたしとの間接キスは、なんとも思わなかったんだ。ふーん」


「そりゃそうでしょ。私とみなみちゃんは友達だもん」


 一瞬だけ、間があった気がした。


「んっ。だよね」


「うん」


 みなみちゃんの口角は上がっていた。だけど、伏し目がちだった。


「わおは、何もおかしなこと言ってないのに。あれー?」


 彼女は首をかしげた。どうしたんだろう。


「ってか、みなみちゃん。数学の宿題やったー?」


「やばい。やってない! わお見せてー」


「もー。今回だけだよ」


 もう一度、授業の話に戻したら、いつもの元気なみなみちゃんになった。

 えへへと笑って頭をかいている。やっぱり笑顔が一番似合うよ。


 みなみちゃんとは中学からの友達だ。私は彼女の泣いている姿や落ち込んでいる姿を見たことがなかった。

 だから、神妙な顔つきをしていたら、つい気になってしまう。


 みなみちゃんは、私の太陽のような存在だ。ずっとずーっと友達……いや、親友でいて欲しいな! 私は心からそう願っていた。





 3時間目は理科だった。教室から理科室に移動するために、私は、みなみちゃんと廊下を歩いていた。

 教科書とノートを手で抱えながら、たわいもないことを話していた。


「あれ。風見先輩じゃない?」


「本当だ」


 階段を登ったら、なんと風見先輩を見つけてしまった。昨日の今日だったから、反射的に胸がドキッとしてしまう。


 しかし、風見先輩は一人じゃなかった。数人の男子たちに囲まれていた。ネクタイの色が緑だから、男子たちは全員3年生であることがわかる。


「か、風見さんってさ、アニメが好きなんだよね?」


 黒縁メガネをかけている男子が、先輩に声をかけていた。


「風の噂で聞いてさぁ。俺らもアニメが好きなんだけど、今期は何見てる?」


「もしかして、『猫色のキミに夢中』とか見てる?」


「ばっか! それエロゲが原作のアニメだろ! 風見さんに聞くのはセクハラすぎるって」


「ふははは。すまんて!」


 男子たちだけで話が盛り上がっている。風見先輩は何も言わずに、ただじっとしていた。


「風見さんは女子だからさ、『エトセトラボーイズ』とか見てるんじゃない?」


「それBLが原作のアニメだろ〜。西野って本当そういうところあるよな。やめろよ〜」


 そう言いながら、男子たちは顔を合わせて愉快そうに笑っていた。

 その間、風見先輩は一言も発さない。

私は我慢できなかった。


「……あの!」


 勇気を出して、私は風見先輩の前に立った。

 男子の先輩は、みんな驚いたように、きょとんとした顔をしていた。


「和央ちゃん!」


 風見先輩の目は、潤んでいるように見えた。今、助けに来ましたよ!


「か、風見先輩の好きなアニメは、『ヒロインが5人もいる!?』です!!!!! 各自、偏見を押し付けるのはやめてください!!!!!」


「えっ」


 黒縁メガネの男子が、何度も瞬きをしていた。どうやら驚いているようだった。


「——いや、そのかばい方は、なんか違うだろ」


 みなみちゃんが遠巻きに、冷静なツッコミを入れた。


「風見さんって、『ヒロ5』のファンだったの?」


 今度は、襟足が長い男子の先輩が言った。


「……うん。そうだよ!」


 風見先輩は弱々しく笑った。


「なんか意外。魔法少女系とか、日常系のアニメを見ているかと思った」


 ヘラヘラしながら言う。カチンとくるような言い方だった。


「わたしが男性向けラノベ原作アニメを観てるのって変?」


 風見先輩の声がいつもよりも低かった。


「い、いやそんなことは……」


 ゴニョゴニョと言い淀む。目が泳いでいて、後ろにいる男子たちを見た。


「で、でも良かった。ヒロ5は俺も見てるからさ。なんか風見さんとは話が合いそう」


「だよな。良かったらさ、昼休みにアニメ雑談とかしない?」


「いいね! 女子と話せるのってやっぱり嬉しいし」


 男子たちだけで話が盛り上がっている。私たちは完全に蚊帳の外だ。風見先輩が、ぽつんと一人取り残されているのがわからないのかな。


「で、どう? 俺、ヒロ5のファンブック持っているからさ。話は結構、詳しいほうだと思うけど?」


 メガネの男子が風見先輩に向き直った。少しだけ頬が赤い気がした。


「悪いけど——」


 えっ。


 風見先輩は、私の手をギュッと握った。指と指が絡み合う。これは恋人繋ぎというやつだ。な、なんで! 今、握るの!?

 男子の先輩たちの視線が、じーっと手に注がれている。

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