第7話 心臓の音、めちゃくちゃうるさい
でも、アニメを誰かと見るのって楽しい。いろいろ感想も言い合えるしね。
「うーん!」
同じ体勢でいると肩が凝る。私はヘッドホンを外した後、大きく腕を伸ばして、椅子の背もたれに体重をかけた。
めいいっぱい上に伸びると、体がほぐれていくようで気持ちが良い。
「お疲れかな?」
同じくヘッドホンを外した風見先輩が、私の顔を覗き込んでくる。相変わらず距離が近くてドギマギしてしまう。息遣いが感じられるほどだった。
「和央ちゃん、喉渇いた? ここには紅茶とかもあるよ。飲む? それとも、もう一回ソフトクリーム食べる? あっ。実は味噌汁なんかもあるんだ〜」
「そ、そうなんですか!? 味噌汁も!?」
変なところに食いついてしまった。
「うん。即席タイプのやつなんだけどね。飲んでみる? 作ってきてあげるよ♪」
「お、お願いします」
風見先輩が親指を突き出した後、鼻歌を歌いながらブースから出て行った。一人取り残された私は体育座りをして、足に顔を埋めた。
風見先輩は優しい。何度も彼女のことをパシリに使ってしまった。
嫌な顔ひとつせず、尽くしてくれるんだもん。だけど、これも私がサトシくんに似ているおかげなのだろう。嬉しいけど、ちょっぴり複雑だった。
数分後、風見先輩がブースに戻ってきた。手には、お味噌汁のお茶碗を二つ持っていた。
「はい。どうぞ」
「ありがとうございます」
風見先輩から受け取ったお茶碗は熱々だった。早速、二人並んで、味噌汁をすする。
リアルゴールドやソフトクリームと甘いものを続けて食べたからか、口直しにちょうど良かった。美味しい。
「わかめが入っているんですね」
「具なしかと思うよね? そうじゃないんだよね〜。ありがたい」
「はい。それに、体も温まります」
「えっ! 和央ちゃん寒いの? わたしがあたためてあげる!」
風見先輩がテーブルに味噌汁を置いた。
「えっ。ひゃっ!」
私に向き直ると、包み込むように抱きしめられてしまった。柔らかい体を押し付けられて、フリーズする。ドクドクと脈が速くなる。
「せ、先輩。私の味噌汁こぼれちゃいますよ」
「ごめん!」
風見先輩は爽快に謝ると、一度私から離れた。少し残念に思う自分がいたのは内緒だ。
しかし、彼女は私の味噌汁をヒョイっと取り上げた後、そのままテーブルに置く。
再度ふわりと抱きしめられてしまった。
「これなら大丈夫でしょ?」
「〜〜〜」
「あれ? 和央ちゃん。体、熱くない? それに、心臓の音、めちゃくちゃうるさい……?」
これが煽りじゃないなら、なんなのだろう。風見先輩が私の胸に耳を押し当てている。平常心ではいられなかった。
「うん。バクバク言ってるね。なんか、かわいい♪」
さらに強く抱きしめられた。もう離さないというように、風見先輩にがっちりホールドされている。ふわふわの感触が私にのしかかる。
「は、離れてください!」
私はいっぱいいっぱいだった。
「ん〜。もう少しこのまま」
「〜〜〜っ」
「和央ちゃんってさ、反応が素直だよね。なんかね、つい、からかいたくなっちゃうんだっ」
だって、仕方ないよ。
きれいな先輩がこんなに近くにいるんだもん。
親にだって、こんな熱い抱擁はされたことない。
とっくに私のキャパシティは限界を超えていた。
「恥ずかしがり屋なところも、サトシくんみたいだね」
そんなことを風見先輩がぽつりと言った。
……。
その言葉を耳にした途端、私の盛り上がった気持ちがストンと落ちた。冷静になり、風見先輩をゆっくりと押した。
「あ、あれ?」
「さすがに、苦しいです」
「う、うん……。ごめん」
風見先輩が今度は大人しく離れてくれた。彼女は怒られた子どものように、しょんぼりしていた。
風見先輩がこんなに私に甘々なのは、サトシくんを重ねているからに過ぎない。
わかっているはずなのに。なんだかモヤモヤしてしまう。
私は気を取り直して、再び味噌汁をずずーとすすった。
「味、濃くない?」
風見先輩が恐るおそると言ったように、私に話しかけてきた。
「ちょうどいいですよ」
「良かった。お湯の量あってたんだ」
「美味しいです」
「えへへっ」
風見先輩はまるで優しい妻のように、ニコニコと笑っていた。
私にはエプロンを付けていて、両手でおぼんを体の前に抱えているように見えた。
君の味噌汁が毎日飲みたいと言ってしまいたくなる魅力がある。なんてね。
「あのね。和央ちゃん、漫画読みたくない? 雑誌もあるよ?」
風見先輩が猫撫で声を出した。
「あとね、カラオケをしたり、ダーツができたりするブースもあるんだ! 興味ないかな?」
「めちゃくちゃあります!!」
彼女は私が好きそうなワクワクするワードを連発してきた。
「えへへっ。和央ちゃんが好きなもの、どれでも、ぜーんぶ付き合うよ」
「ええーっと、じゃあ……」
「でも、ごめんね。今日は、もう遅いから帰らなくちゃ」
パソコンの画面を見ると、右下に「18:00」と表示されていた。いつの間に、こんなに時間が経っていたんだろう。
私も、そろそろ家に帰らないと、お母さんに怒られる。
「また来たいよね?」
「はい!」
「じゃあさ、わたしに"付き合って"くれない?」




