第6話 全部風見先輩のせいだ!
「理由ですか?」
「うん! このパソコンを使えば、無料でアニメが見放題なんだ! もちろんヒロ5も! 興味があるならさ、和央ちゃん一緒に見てみない? どう?」
「1話くらいならいいですけど……」
「本当!? ありがとう!!!」
風見先輩は太陽みたいに笑った。
ネットカフェのお金も出してくれるみたいだし、一緒にアニメを見るくらいなら、お安い御用だ。
私たちはソフトクリームを食べ終えた後、早速、アニメ『ヒロインが5人もいる!?』の1話を観ることにした。
風見先輩は慣れた手つきでパソコンを操作していく。
「あっ。そういえば、ヘッドホン一つしかないね」
目の前には、お店のロゴが入った黒いヘッドホンが一つだけあった。
アニメを一緒に観るってことだから、これは一つのアイテムを二人で共有する流れになるのかな!?
なんかそれって、仲良しみたい。
……というか、恋人同士?
ワイヤレスイヤホンじゃないんだから、物理的にぎゅーっとくっつかないと、音が聞こえないよね。
今の距離でも近いのに、さらに風見先輩に寄り添うなんて……。心臓がもたないよ!
彼女の方をちらっと見たら、何故か意味深にこくりと頷いた。えっ。
「——大丈夫だよ」
私を見透かすように優しげな瞳を向けた。もしかしてすべてを受け止めてくれるの!?
「——お店の人がさ、もう一つのヘッドホンを貸してくれるから!」
「へっ?」
「わたし、受付まで行ってくるね。和央ちゃん、待ってて!」
すたこらさっさという効果音を鳴り散らすように、風見先輩はブースを出て行ってしまった。
拍子抜けをした。
てっきり風見先輩は、一緒に使おうと言い出すかと思った。早とちりしちゃった。恥ずかしい。
私は深呼吸をして、ほてった体を冷まそうとした。ふと、ソフトクリームが入っていたコップが目に入ると、反射的に間接キスのことが頭に浮かんだ。
風見先輩がソフトクリームを口に運んでくれた時、スプーンが舌に当たった。なんだか、変な感触だと思った。
そっか。これがキスっていうものか……。
って、いやいや! そんなわけない。私、洗脳されかけているのかな。
パソコンの画面には、"大風サトシ"くんが映っていた。頭に手を当てて、やれやれというような困ったポーズをしていた。
彼を取り囲むように、5人の美少女が微笑んで立っていた。みんなかわいい。
どうせだったら、5人の誰かに似ている方が良かったなぁ。何故、サトシくんなんだろう。
そんなことを考えながら、残ったリアルゴールドを全部飲んだ。今からアニメを観るなら、その前に飲み物を持ってきた方が良いかな。次はコーラにしようかな。
私は既にネットカフェの快適な環境に毒されつつあった。個室だと周りの目を気にしなくていいし楽。漫画も読めるようだし、ハマっちゃうのもわかるかも。お昼休みに一人だったら、ここに来たいかも。なんてね。
私は思いっきり足を伸ばして、風見先輩が戻ってくるのを今か今かと待った。
◇
「——ねぇ。サトシくん、カッコよくなかった!? 由夏先輩をヤンキーから助けたところイケメンすぎ!」
「は、はい。そうですね」
風見先輩と私は二人並んで仲良くアニメ『ヒロインが5人もいる!?』の鑑賞をした。今、ちょうど1話を見終わったところだった。
風見先輩は、小声できゃあきゃあ言っている。
1話の内容はこうだった。
主人公のサトシくんがトゥインクル学院に転校したところから物語は始まった。
彼が校内を探索していたところ、不良に絡まれていた神宮寺由夏先輩を見つけた。ピンチだと思い、助けようとしたが、勢い余って転んでしまう。
しかし、なんだかんだありながら最後には由夏先輩を助けることに成功した。ここが一番の見どころとも言えるシーンだと思った。
てっきりヒロイン5人が全員出てくるのかと思った。しかし、由夏先輩だけだった。
風見先輩が言うには、『ヒロインが5人もいる!?』は、1話ごとに各ヒロインにスポットライトが当たる構成を採用しているようだった。2話は別のヒロインが活躍するらしい。由夏先輩は出てこないということだった。
なんだか珍しいアニメだなぁ。というか……。
「由夏先輩、ピンク色の髪してましたね。あんなに清楚で真面目そうなのに、実はヤンチャな性格だったりするんですかね」
「なんてこというの!?!?」
素直な感想を口にしたら、風見先輩に嘆かれた。
だって、うちの学校だと、ピンク色の髪をしていたら、生活指導の先生にこっぴどく怒られることだろう。
アニメあるあるなのかな。髪色が奇抜でも、話が普通に進んでいる様子がシュールで少し面白かった。
「もう。和央ちゃんってば。現実主義なんだから! それと由夏先輩じゃなくて、サトシくんをもっと見てよ!」
「見てましたよ。私って、そんなにその、サトシくんに似てますか?」
「うん。そっくり! 今の返しも、サトシくんが言いそうな台詞っぽいかも」
「……」
そんなことを風見先輩から告げられたら、何も言えなくなってしまう。
私の一挙一動を意識されて見られているようで恥ずかしい。こんなにも自意識過剰になってしまうのは、サトシくん、ううん全部風見先輩のせいだ!




