第5話 ソフトクリームの食べさせ合いっこ
私は気を取り直して、風見先輩がドリンクバーから持って来てくれたリアルゴールドを飲んだ。シュワシュワとした炭酸が弾けて、喉を刺激たっぷり潤してくれた。
「やっぱり美味しい」
「ねっ。だよねだよね! 和央ちゃん、お腹は空いてない?」
「うーん。言われてみれば、少し空いたかもです」
「ここ、トルコライスやカルボナーラなんかもあるよ! 奢るから食べたいものがあったら、なんでも言ってね」
「ありがとうございます。だけど今、がっつりしたものは食べられないかもです。気持ちは嬉しいんですが」
「そ、そっかそっか! ここ、ソフトクリームあるって言ったよね? それはどう? お腹に入る?」
「はい。食べたいです」
「了解! 今、持ってくるから。ちょっと待っててね〜」
風見先輩は勢いよく引き戸を開けて、ブースから出て行った。
私に気を遣っているのが丸わかりだ。まるで家来とお姫様のような立場だった。
少ししたら、風見先輩が戻ってくる。
手には、ソフトクリームを2つ持っていた。仕様なのかコップに入っていた。
あれ。
右側のソフトクリームは、茶色いソースのようなものがかかっていた。
「じゃーん。こっちのアイスにはチョコレートソースをかけてきたよ。和央ちゃん、どっちがいい?♪」
「えっと、じゃあ、ノーマルな白い方をいただきます」
「オッケー!」
風見先輩からソフトクリームを受け取った。アイスに刺さったスプーンを使って、早速、食べてみる。うん。しっかりミルクの味がするのに、少しシャリシャリしていて美味しい。
風見先輩は私を見ながら、私が選ばなかった方のソフトクリームをゆっくりと食べた。
その表情は慈愛に満ち溢れていて、もしかして"サトシくん"と重ねて見ているのかな、なんてことを思ってしまった。
「……美味しいです」
「ふふっ。良かったぁ」
「先輩のも、美味しいですか?」
「うん。チョコ味が絶妙! なおさら甘くて、おいしーよ。和央ちゃん、一口食べる?」
「えっ」
いいのかな。でも、ちょっとだけ食べてみたい気持ちがあった。
ええいままよ!
こくんと頷いた。そしたら、風見先輩が自分のスプーンでアイスをすくい、私の口元に持って来てくれた。
えっ。えっ。
これ、そのまま食べたら間接キスになるよね? いいの?
いろいろ考えたけど私は不思議な力に抗えずに、そのままパクついた。
……美味しい。
濃厚なチョコの甘さがソフトクリームのコクを、より際立たせていた。
「ありがとうございます。味変にぴったりですね」
何故か風見先輩の目が見れなかった。
「ねぇ、和央ちゃんのも食べさせてよ」
「えっ。このノーマルなソフトクリームをですか?」
風見先輩が持っているものと同じ味な気がするけど。
「うん! あーん」
彼女は躊躇うことなく、目を閉じて口を開けた。唇はリップが塗られていて、ピンク色だった。無防備で、隙だらけだった。今ならデコピンできそう。
風見先輩は私のソフトクリームの到着を、今か今かと待ち侘びていた。
勇気を出して、アイスを自分のスプーンですくった。恐るおそる風見先輩の口元に持っていく。
唇に触れると、優しく食らいついた。
「んぅしい!」
「何言ってるかわからないですよ」
風見先輩は無邪気な人だった。イメージでは、大人っぽいと思っていたけど、完全に真逆だった。
遠くにいるより、近くにいる方が、気づくことがたくさんある。
「ねぇ。和央ちゃん」
「はい。なんですか?」
「——キスしちゃったね。わたし達」
風見先輩が、とんでもないことを言った。完全に不意打ち。
「し、してないですよ!」
全力で否定させてもらう。
「ううん。お互いのスプーンでソフトクリームを食べさせあったから立派なキスだよ。間接キスともいうけどね。キスはキスだよ」
「な、なるほど?」
妙な説得力があった。確かに、キスのうちの一つに入るかもしれない。
巷では、これもファーストキスに入ってしまうのかな? みなみちゃんに聞いてみないと。
「——で。わたしとのキスはどうだった?」
風見先輩が唇に人差し指を当てて、にんまりと口角を上げた。青色のピアスがきらりと光る。
栗色の髪は手入れされていて、とてもきれいだと思った。
「か、からかわないでくださいっ!」
顔が赤くなるのが自分でもわかる。
「和央ちゃん、かわいいっ!」
「かわいくないですよ!」
「ムキになるところもかわいいっ!」
う〜! も〜! 照れてしまって何も言い返せない。
「急に黙るところもかわいいっ!」
「どうしろっていうんですか!」
かわいいの言葉が渋滞していた。もう、お手上げだ。
風見先輩は私を買い被りすぎだ。今日、知り合ったばかりなのに。
こんなに特大級の好意を向けられると、どうしていいかわからず戸惑ってしまう。
それもこれも"彼"のおかげなんだろうなぁ……。
「サトシくんって、どんなキャラなんですか?」
気になって風見先輩に自分から質問していた。
「和央ちゃんも"ヒロ5"に興味出てきた!?」
「ヒロ5?」
「『ヒロインが5人もいる!?』のアニメの略! タイトルが長いから、そう呼ぶファンも多いんだ」
「なるほど……。あの、サトシくんに興味が出たとかではないんですが。自分に似ているキャラということで、いろいろ聞いてみたくて」
「OK! OK! 実は、和央ちゃんをネットカフェに連れてきたのは、他でもない理由があるからなんだ!」
風見先輩がもったいぶって言った。




