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風見先輩が私のことを好きなのはラノベアニメの主人公に似てるから。〜好感度高めから始まる恋のススメ〜  作者: 宮野ひの


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第45話 おにぎり定食





 私は2日間にかけてT大学とK大学のオープンキャンパスに行った。


 結果として、風見先輩には会えずじまいに終わった。そりゃそうだ。


 大学には膨大に人がいる。噂に聞くと、同じキャンパスでも卒業まで一度も会わない人もごまんといるとか。

 オープンキャンパスごときでは、憧れの先輩に会うことを、どうやら神様は許してくれそうにないらしい。


 だけど、K大学の文学部に惹かれた自分がいるのも事実だった。

 私でも耳にしたことのある講師がいるし、近代的な授業内容には好奇心がくすぐられた。


 とはいえ、私は大学進学のために地元から出る気はあまりなかった。

 みなみちゃんもこっちに残るって言ってるしね。


 だからもう二度と、この地に足を踏み入れることはないのかと思うと、感慨深い気持ちになった。


「今夜のホテルはここか……」


 大学のオープンキャンパスに行くにあたって、私は宿を取っていた。

 そこは偶然にも、風見先輩とデイユースプランで行ったことのあるホテルだった。全国チェーンだから、どこにでもあるのだ。


 チェックインを済ませて、部屋に入ると驚いた。

 風見先輩と利用した時と、まったく同じ部屋だったからだ。ダブルベッドの配置も、椅子もテレビもすべて同じもの。懐かしい気持ちでいっぱいになった。


 荷物を床に置いた後、早速、私は目当てのものを取り出した。

 ——それは、サトシくんと由夏先輩のアクリルスタンドだった。


 こんなところにまで持ってくるのはおかしいかな。

 だけど、願掛けのようなものだった。

 無事に風見先輩に会えますようにと、お守りのような役目として、家から持って来ていた。


 今の時代、ご飯に行った時とか、旅行の観光地などで、アクリルスタンドと一緒に、写真を撮るのが流行っているんだって。


 SNSを見ていると、画像が流れてくることがよくあった。


「私は、ホテルと一緒に撮っちゃおう」


 デスクの上にアクリルスタンドを置き、スマホを取り出して、角度をつけてシャッターを切った。


「よしっ」


 まるでサトシくんと由夏先輩が、二人で旅行に来たような良い写真が撮れた。


 この2年で本当にいろんなことがあったなぁ……。


 サトシくんの声優が2股をして炎上したり、世間では本当に先輩萌えブームが来たりした。


 友央はメイクをすることに目覚めたり、お母さんは宝くじ100万円を当てたりした。みなみちゃんはSNSに踊ってみた動画を載せたらバズって、インフルエンサー一歩手前になったりした。


 私はというと……な、何も変わっていない!


 だけど、みなみちゃんが言うには、後輩に人気だということだった。

 制服の上からパーカーを着るようになったら、なんと真似する女子が続出したのだ。


 あの頃の風見先輩のように、憧れられてるのかな? なんちゃって。


「……お腹空いたなぁ」


 窓の外は薄暗かった。時計を見ると18時だった。

 今日は一日中、あちこち歩いて疲れた。何か食べ物をお腹に入れたかった。


 ラーメン。お肉。イタリアン……。いろんな食べ物が頭の中に浮かんだ。

 なんでも美味しそうだけど、今の私が一番食べたいと思うのは和食だった。日本人だからかな?


「とりあえず、ホテル周辺を歩いてみるかななぁ」


 貴重品とスマホとアクリルスタンドを持って、早速、部屋から出た。

 おすすめの店をスマホから探してみても良かったけど、街を歩いて自分が気に入ったところに入ってみたかった。


 大通りを歩くと、当たり前に人が多かった。なんとなく気持ちが落ち着かない。


「裏通りに行ってみようかな」


 気まぐれで道を曲がった。薄暗く、連なる建物が道路に向かって影を作っていた。

 私はほっと一息をつくことができた。


 風が強く吹く。その時、良い匂いが鼻をかすめた。


「この香り、なんだろう」


 ふらふらと本能のまま、足が向かった。体が疲れていることも、不思議と忘れられた。


「あっ。あの、お店かな」


 私の目の前に定食屋さんが現れた。赤いのれんが飾ってあって、建物は年季が入っている。

 知る人ぞ知る、古き良きお店という雰囲気が感じられた。


 外に出ているメニュー表を見てみると、「唐揚げ定食」「焼き魚定食」「肉野菜炒め定食」などが書いてあった。


「へぇ。おにぎり定食なんてものもあるんだ」


 内容は、好きなおにぎり2つが選べて、豚汁がついているセットだった。また、カブのお漬物もついているようだった。


 ぎゅるるるる。


 その時、私のお腹が情けなく鳴った。


「……ここにしてみようかな」


 早速、のれんをくぐって扉を開けた。ガララと小気味よい音が鳴る。


 中は思ったよりも広くて、テーブル席が6つもあった。今の時間帯にしては珍しく空いていた。

 カウンター席に座ろうか一瞬、悩んだけど、広々と使えるテーブル席を選んだ。


「いらっしゃいませー」


 年配の女性がすぐにお茶とメニュー表を持ってきてくれた。私は入店前に決めていた、おにぎり定食を頼んだ。


 具の中身は自由に選べたので、私はツナマヨと海老マヨ。マヨマヨづくしを選んだ。

 注文を聞き終えた女性は、人の良い笑みを私に向けた後、ゆっくりと厨房の奥へと消えていった。


 ふぅ。無事に頼むことができた。


 そういえば、一人旅をするのって初めてだなぁ。目的は大学のオープンキャンパスなんだけど。


 異国の地に迷い込んだみたいで気持ちが弾む。ここには誰も私を知る人がいない。松島和央。青嵐高校3年生というペルソナを、いとも簡単に剥がすことができた。


「なんか、大人だな……」


 お茶を飲みながら、ひとりごちる。


 みなみちゃんがいたら、『そんなことを言うのは、まだまだ子どもの証拠だよ』とツッコミを入れられそうだ。てへへっ。


 あっ。そうだ。今日のオープンキャンパスのことを、お母さんに報告しようかな。きっと心配しているはずだ。


 カバンに手をかけてスマホを取り出そうとしたけど、やっぱりやめた。

 もう少し一人旅の余韻に浸っていたいからだった。

 スマホを触るのはホテルに戻ってからでも遅くないだろう。


 頬杖をついてぼーっとしてみる。お客さんが来店したら、先ほどの年配の女性が対応していた。行ったり来たり結構、忙しいな。


「おまたせしましたー」


 ようやく、私のおにぎり定食ができたようだった。


「ありがとうございま……」


 お礼を言って受け取ろうとしたら、動けなくなってしまった。


 ——私の目の前に風見先輩がいたからだ。


 帽子を被って、マスクをしていたけど、すぐにわかった。

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