第42話 掲示板
◇
今日はあちこち回って疲れた一日だった。とうとう風見先輩の行方を知る手掛かりは何も掴めなかった。
自室で一人、ごろっとベッドに横になる。
私はスマホを触って、トークアプリを開いた。風見先輩はまだ既読をつけていなかった。
「はぁ」
思わず、ため息をついた。
その後、検索アプリを開く。なんとなく『大風サトシ』というワードを打ってみる。ヒットしたページの目立つ場所に、ヒロイン5人に囲まれた、彼の画像が表示されていた。頬を赤くして、照れているようだった。
「ねぇ。サトシくん。風見先輩がどこに行ったか知らない?」
私は二次元の彼にまで助けを求めていた。目の前のサトシくんは軽く微笑んだまま何も喋らない。
……。
私は、そのままネットサーフィンをすることにした。たまに寝返りを打ちながら、煌々と光る小さな画面を見つめていた。
「……へぇ。ヒロ5のファンコミュニティなんてものもあるんだ」
ページを飛びまくっていたら、私は、『ヒロインが5人もいる!?』の魅力を語る掲示板サイトを見つけてしまった。迷わずタップする。
【みんな誰推し?】
【ヒロ5の好きな場面教えて〜】
【鹿島じゅかちゃん好き来て!】
いろんなタイトルのトピックが目に入った。アクティブユーザーが結構いる。
ふーん。やっぱり人気アニメなんだなぁ。
私はゆっくりとページをスクロールした。
そしたら、【大風サトシくんが一番かわいい!】というタイトルのトピックが目に入った。
……。
世界は広い。風見先輩みたいな主人公ラブな人っているんだなぁ。
好奇心が湧き、思いがけずトピックを開いてみた。
すると、
『サトシくん今日も好き!』
『サトシくんおはよう〜』
『サトシくん学校行ってくるね〜』
など、ざっと100を超えるコメントがトピック内に書いてあった。
順を追って見る限り、サトシくんを好きな人はたくさんいると思った。
「……ん? IDが同じだ」
しかし、私は気付いてしまった。
そのトピックで投稿しているのは、IDを見る限り、一人だった。
ハンドルネームは、"ユキ"。
…………。
えっ。
「……まさか、風見先輩じゃないよね」
彼女の下の名前は、葉っぱに雪と書いて、葉雪だ。
カタカナにしたらハユキ。ハを取ったら"ユキ"と呼ぶこともできる。
…………。
コメントを遡って見てみると、今年の6月あたりから、ヒロ5のサトシくんにハマり出したのがわかった。
一つずつ丁寧にコメントを読んでいく。
【サトシくん似の女の子に頑張って声かけちゃった! ネットカフェに一緒に行ってくれて嬉しい〜】
それは9月5日にコメントされたものだった。
その日、私は風見先輩に初めて声をかけられた。
1-Aの教室で、『——付き合ってくれない?』と言われたことが、昨日のことのように思い出された。私は変な声を出して、動揺丸出しだったっけ。恥ずかしいなぁ。
続きのコメントを読んでいく。
【同級生に絡まれたら、サトシくん似の女の子に助けられちゃった……。キュンとしちゃったなぁ】
そうだ。風見先輩に絡む男子生徒の前に出たこともあったんだった。懐かしい。
私はドキドキしながら次のコメントを読んだ。
【好きって言ってくれた。真似してるだけってわかってるけど……どうしよう。すごく嬉しい。何これ。ハマっちゃいそう!】
風見先輩とネットカフェに2回目行った時に、私はヒロインの足利寧々ちゃんを真似して、彼女に囁いたのを覚えている。
あの後、同じように風見先輩からも、耳を攻められたっけ……。
コメントを見れば見るほど風見先輩にしか思えなくなった。
ごくり。
「もしかして、全部読んだら、転校した理由がわかるかも……」
私は一つ残らず、コメントを読むことを誓った。
【Wちゃんのこと好きかも。ヤバい】
そのコメントを見た途端、胸を掴まれた。ぎゅう。
風見先輩。これって……。
Wって私のことだったりする?
Wから始まる名前なんて、他に渡辺くらいしかないよ……。
スマホを持つ手が震えそうになる。
あっという間に、最終コメントまで辿り着いてしまった。
【Wちゃん。ごめんね。ありがとう】
そんな内容で、トピックは終了していた。
「風見先輩……」
私は宙を見た。いつも通りの自分の部屋。
机の上には、使いっぱなしの付箋が置いてあった。
床にはボールペンが転がっている。あっ。お気に入りのやつだ。あんなところにあったんだ。後で拾って筆箱の中に入れておこう。
なんて、どうでもいいことばかりが頭の中に浮かんでは消えた。こんなの現実逃避だ。
風見先輩のコメントを見て気づいたことがあった。
彼女は完全に私とお別れすることを視野に入れていた。
そんなのってないよ。私はベッドに突っ伏した。だけど涙は出てこない。まだ現実感がないからだろうか。胸は張り裂けるように、苦しかった。
ピコン。
その時、スマホの通知が鳴った。
もしかして、風見先輩!?
すかさず通知を見たら——みなみちゃんからだった。
【ばんわー】
なんて、気ままなメッセージが送られてきた。肩の力が抜けた。
【わおー】
連投された。
【どうしたの?】
今、メッセージのやり取りをする元気がなかった。
だけど、悲しい気持ちも紛れるかもしれないと思い、みなみちゃんに返事をした。
【今日も早く帰ったねー。一緒に帰りたかったのに!】
絵文字なしだった。
【ごめんね。ちょっと用事があってさー】
嘘は言っていない。
【用事って何? もう、風見先輩はいないから、会ってることはないんだよね?】
みなみちゃんからすぐに返事が来た。
背中に冷たいものが走る。何で知ってるの?
嫌な予感がした。
【みなみちゃん。風見先輩が転校したの、もしかして知ってたの?】
彼女から返事が来る時間が長く感じられた。
プルルルルルルル。
ビクッと体が跳ねる。みなみちゃんが電話をかけてきたのがわかった。
今までずっとメッセージのやり取りをしていたのに……。
不思議に思ったけど、取らない理由はない。私はすぐに電話に出た。




