第41話 影を追う
◇
日直が号令をかけてからすぐに私は教室を飛び出した。
部活に行く人の波をかき分けて、急いで昇降口に来た。
放課後。私は風見先輩が行きそうな場所をすべて回ることにした。
何か手掛かりが掴めるかもしれない。
まず初めに、お馴染みのネットカフェに行った。一人で来店するのは初めてだった。
受付にいる店員さんに、風見先輩を見かけなかったか聞こうとしたけど、私は写真を持っていないことに今さらながら気付いた。
それに、初めて見るバイトの子だった。たどたどしく接客をしてくれた。会員証を持つ手が震えていた。きっと最近入ったのだろう。
風見先輩のことは知らない気がした。
ひとまず私は店員さんに聞くことをやめて、普通のお客さんとしてブースを利用することにした。
「せま……」
今回、私はシングルフラットルームを選択した。
一人用のブースは二人用よりも、窮屈に感じた。
本当はこれでも十分に広いと思う。
だけど、私は風見先輩と利用することに慣れていた。
彼女が隣にいないと、元気が出なかった。
ちょこんと体育座りをしてみる。右隣を見てみると壁だった。切ない気持ちに押しつぶされそうになってしまう。
ブースを出て、ドリンクバーに来てみた。
風見先輩が好きだと言っていた、リアルゴールドのボタンが目に入った。
私はそのまま通路をさまよって歩いた。
どこかに風見先輩がいないかな。一縷の望みをかけて、店内を見て回った。
ネットカフェのブースには、小さな小窓がついている。
そこを覗くと、中に誰がいるか確認することができた。あまりジロジロ見るのは失礼だから、サッと目を通す程度に収めた。しかし、どのブースにも風見先輩はいなかった。
少し時間が経ってから、ネットカフェを後にした。
あと、風見先輩が行きそうなところは……。
「土管!」
そうだった。彼女にはとっておきの秘密基地があった。
前に、風見先輩が家にいたくない時に行くことが多いと言っていた。
「どこだったかな……」
空き地には、彼女に誘導される形で行ったから、正直場所は覚えていなかった。
でも、そのまま家に帰るなんてことできないよ!
勘でも良いから街をさまよってみよう。
私は勇気を出して一歩を踏み出した。
◇
「あった……」
空き地を見つける頃には、もうエネルギーを使い果たしていた。2時間は歩いたように思う。
前に来た時は、草が生い茂っていたけど、今はきれいになっていた。
私はそのまま真ん中にある土管に向かった。外側は少し黒い跡がついていて汚れていた。
——風見先輩がいますように。
そんな希望を持って、中を覗いてみた。
「きゃっ」
「うわっ」
「ごめんなさーーーーい!!!」
土管の中で、男女が密会をしていた。二人は寄り添っていて、突然の乱入者をよくない目で見ていた。気まずい!
私はすぐに謝罪をして、空き地から出た。
風見先輩!
あなたの秘密基地はラブラブスポットになっていますよ!
時間をかけて来たのに、滞在時間は1分もなかった。コスパが悪いって、こういうことを言うのかな? 違うか。
次はどこに行こうかな。
風見先輩との思い出の場所と言えば……。
頭に浮かんだのは光ホテルだった。
せっかくだから向かって見ようかな。何か手掛かりがわかるかもしれない。
私は淡い希望を持って、駅を目指して歩いた。
◇
光ホテルは、前来た時と変わらないモダンでおしゃれな雰囲気をしていた。
風見先輩と一緒に建物を見上げたことが、昨日のことのように思う。
私はとりあえずホテルの周りを数回まわった。敷地内はゴミひとつ落ちておらず、きれいだった。
ひたすら、ぐるぐるぐるぐる回ると、冷静になることができた。私は一体どうしたいんだろう。
いい加減、喉も乾いてきた。
そういえば前にロビーに行った時、自販機があったことを思い出した。
「せっかくだし、ジュースでも買ってこようかな」
有言実行。思い立ったが吉日。
私は光ホテルの入り口に向かった。
自動ドアをくぐると、自販機はすぐに見つかった。フロントのエレベーター横にあった。駆け寄って、ラインナップを上から順に見ていく。
「あっ……」
リアルゴールドがあった。風見先輩が好きなジュースだから否応なく意識に入ってしまう。
ネットカフェにもあって、さっき飲んできたけど——。
ピッ。
ここは運命だと思い、迷いなくリアルゴールドを購入した。
早速、蓋を開けて、腰に手を添えてから、一気に飲んだ。
「美味しい!」
生き返るようだった。喉が潤う。
一息ついていたら、ロビーにいた男性のホテルマンと目が合った。おかしそうに首を傾げられてしまう。
そして、スタスタとこちらに向かってくる。
もしかして……。
風見先輩の行方を何か知っているのかな!?
漫画とかでは、ひょんなことから重要人物と知り合う展開ってよくある。
まさか、あのホテルマンが私に何かヒントをくれるのかも——。
ドキドキしていたら、彼は私の目の前で静かに止まった。
「——恐れ入りますが、本日こちらにご宿泊のお客様でいらっしゃいますでしょうか」
「えっ」
「もしご宿泊でない場合は、ロビーのご利用はお控えいただけますと幸いです」
「す、すいませーーーーん!!」
私は、一目散にホテルを飛び出した。制服姿のままだし、自販機しか利用しないし、きっと不審者に見えたのだろう。
さっきから私、謝ってばかりだ。急ぐ足は、最寄り駅に向かって、とうとう自宅を目指していた。もう外は暗かった。本当はまだ探したいけど、今日は帰るしかなかった。




