第36話 あたしが、わおのこと好きって言ったらどうする?
「あたしはさ、わおはいい子だと思ってるんだけど。素直すぎて、見ていて心配になるんだよね」
「……」
私って、そんなにわかりやすい性格なのかな? 友央にも言われたけど……。
だけど、親友のみなみちゃんが言うのなら、きっとそうなのかもしれない。
「最初は、わおが風見先輩と仲良いの面白いって思ったけどさ……。最近は本当に、あまりいい感じに見れないんだ」
「それってどういうこと?」
「本当、どういうことなんだろうね」
みなみちゃんは私から目を離すと、ソファの背にもたれかかった。ため息をつく仕草に色気を感じた。
「ねぇ、みなみちゃん、教えてよ」
食い気味に言うと、彼女はチラッとこっちを見た。数秒の間の後、ゆっくりと口を開いた。
「あたしが、わおのこと好きって言ったらどうする?」
「嬉しいよ」
「まじか……」
みなみちゃんは頭を抱えた。
「みなみちゃん?」
「あー。そういうことか。わおとは親友でもあり、幼なじみでもあるから、こういう時、そういう雰囲気にはならないのかもね。うん」
一人で勝手に考えて、一人で勝手に納得している。みなみちゃんは混乱しているようだった。
「ねぇ。わお」
「は、はい」
自然と、お互い向き合う形になった。
「あたしさ、風見先輩にわおを取られるの嫌なんだ。今日もホテルに行ったって聞いて、尋常じゃなく嫉妬してる」
「……」
「でも、これが恋なのかはわからない。だけど、わおがあたしの側からいなくなるの、結構嫌かも」
「みなみちゃん……」
彼女がいつもよりも可愛く見えた。
「ねぇ。みなみちゃんって私以外にもめちゃくちゃ友達いるよね?」
「うん。いるけど」
「なら、私がみなみちゃんから離れたとしても、そんなに寂しくはないでしょ」
「……わおって意地悪だね」
「えっ!!」
何か気に触ること言っちゃったかな。俯いたら、みなみちゃんの顔が目の前にあった。
「あたしは、わおが一番の友達だと思ってるんだけど!」
みなみちゃんの顔は少しだけ赤かった。照れているように見えた。
「嬉しいな。知らなかった」
「わ、わおはどうなの?」
「私もみなみちゃんが一番の友達だと思ってるよ! これからもずっと」
「……そっか。嬉しいけどその言葉、なんかずるいね」
みなみちゃんはソファから立ち上がった。どこに行くのかと思ったら、そのままカーテンを開いた。そしてガラッと窓を開ける。生ぬるい風が部屋の中に入ってきた。
「ちょっとー。冷房かけてるんだからやめてよ!」
「ちょっとくらいいいじゃん。気を引き締めたくてさ」
そう、みなみちゃんは背中で語った。……変なの。
だけど今の話で私とみなみちゃんは両思いであることを知った。恋愛ではなく、親友としての意味だけど。
私は飽きるまで、彼女の流れるような髪をずっと見ていた。
「——ねぇ。和央、風見先輩がいるんだけど」
そしたら、みなみちゃんがおかしなことを言った。
「え? 変な冗談言わないでよ」
「いや、本気。窓の外見て」
私はソファから立ち上がると、みなみちゃんの隣に並んだ。
ここからは、コンビニが見える。お店の電気が薄ぼんやりと路上を照らしていた。
目を凝らして見てみると、見覚えのあるシルエットがあった。目が釘付けになる。
「風見先輩だ……」
「でしょ」
昼間会った時に見たままの風見先輩がそこにはいた。遠くからでも、輝くようなオーラを放っていた。
「……でも、一人じゃないよ」
隣には男性が一緒に歩いていた。風見先輩より背が高くて、ガッチリとした体型。そしてダボダボな服を着ていた。
——まるで前にみなみちゃんが言ったような、ヤンキー系の彼氏に見えた。
「風見先輩の恋人?」
みなみちゃんが胸をざらつかせるひとことを言った。嘘。
先輩、彼氏がいたの?
目の前が真っ暗くなるのを感じた。嫌だ。嫌だ。
体の芯が燃えるように熱い。これは嫉妬だ。
「——それにしては年上すぎない?」
みなみちゃんは目がいい。私に代わって、次々に情報を教えてくれる。
「……って……じゃない!!!!」
その時、窓の向こうから、大きな声がした。風見先輩が隣にいる男の人に何かを言っているように聞こえた。
「うる……って……かよ!!!! 黙って……よ!!!!」
男の人も負けじと言い返していた。
「……行かなきゃ」
「ちょっとわお!?」
緊急事態だと思い、急いで外に出ようとした。みなみちゃんが慌てて私を追いかけてくる。
廊下で行き合った友央が、私たちの勢いを見て、驚いた顔をしていた。手に持っていたスマホを落としそうになっていた。
家の外に出ると、先ほどよりも二人の声が鮮明に聞こえた。
「お父さん、やめてよ!!!」
風見先輩が真に迫るような声を出していた。
お、お父さん!?
そう呼ばれていた男性を見てみると、風見先輩に、どことなく似ているような気がした。目尻が深くて、儚い雰囲気が出ている。
「もうお酒飲まないで!!! お母さんが悲しむよ!!!」
風見先輩はそう叫んだ。
お父さんと呼ばれた男性を見てみると、白い袋を持っていた。右手にはチューハイを持っており、風見先輩を無視するように、時折ぐびぐびと飲んでいた。きっとお酒を買った帰りなのだろう。
「ねぇ。お父さん!!!!」
次の瞬間だった。男性は白い袋を風見先輩の体にぶつけた。
「っ……」
「うるせぇ!!! 黙ってろよ!!!!」
信じられなかった。私の中で何かが弾ける音がした。
風見先輩は道端に、うずくまった。
気がついたら、私は二人の元に駆け出していた。
「わお!?」
みなみちゃんの声も振り切って走る。
「……ちょっと、何してるんですか!!!」
「……えっ。和央ちゃん……」
風見先輩は、眉をひそめながら驚いた顔をしていた。
男性の方は、まさか人に見られていたとは思っていなかったようで、目が泳いでいた。しかし、気を取り直すように、すぐにチューハイを口にした。




