第35話 突然の来訪
私はソファにもたれながら、目を閉じた。
近くにあったブタのぬいぐるみもギュッと抱きしめる。一人でぐるぐると考えてみる。
「もしかして、風見先輩の願望……!?」
『ヒロインが5人もいる!?』では、由夏先輩が風見先輩に一番似ていると言える。年上でお姉さんキャラなところがそっくりだ。
私がサトシくんとして考えたら、風見先輩が由夏先輩になるわけで……。
二人が付き合うのが風見先輩にとってのハッピーエンドということになるのかな!?
そ、そしたら……。
私が風見先輩と付き合うのが、風見先輩にとってのハッピーエンドになる!?!?
なんて、夢見すぎかな。さすがに調子に乗りすぎだよね。
そもそも、私って、サトシくんのように他にヒロイン的存在がいるわけがない……。
とまで思ったところで、みなみちゃんのことが頭に浮かんだ。
ずっと親友だと思っていたのに。
風見先輩と知り合ってから、彼女の動向がおかしくなった気がする。意識しないでおこうと思ったけど無理だった。
なんとなく嫉妬めいたものが見えるようになった。深いキスまでされたし……。
「みなみちゃんは友達がたくさんいるのになぁ」
私だけ特別じゃないことは、私が一番よく知っていた。
うーん。
足を手で引き寄せて、体育座りをしてみる。こうやって丸まっていると、気持ちが落ち着いた。
……。
なんだか眠くなってきたなぁ。お風呂に入らなくちゃいけないのに。
ふと昼にホテルでシャワーを浴びたことを思い出した。自動的に風見先輩との情事も頭を掠める羽目になった。
プルルルルルルル。
ビクッ。
その時、スマホの電話が鳴った。
画面を見ると、表示されていたのは、なんとみなみちゃんの名前だった。
どうしたんだろう。私は考える間もなく電話に出た。
『和央』
みなみちゃんの声だ。いつもより声が低いのが気になった。
「どうしたの?」
『今日さ、風見先輩と会ってたんでしょ?』
「えっ……」
なんでわかるんだろう。戸惑う私をよそに、みなみちゃんは続けた。
『友央くんに聞いた。ほら。あたしたちソシャゲ仲間じゃん? DMでやり取りしてたら、急に言ってきたからさ。びっくりした』
「……」
友央のおしゃべりめ! 何でもかんでもすぐに言っちゃうんだから。
『ホテルに行ったって聞いたよ』
「う、うん」
『なんで行ったの? 二人は別に付き合ってるわけじゃないよね?』
「そ、そうだけど……」
みなみちゃんの圧が怖かった。
『ねぇ。今から和央の家、行っていい?』
時計を見ると23時を過ぎていた。もう夜も遅いし、断るのが普通だろう。
だけど、拒否できなかった。それくらい熱いものを感じた。
「い、いいよ」
『ありがとう。それじゃ』
電話は切られてしまった。これから何が起こるのだろう。
アニメを見た余韻に浸る暇もなかった。落ち着かない私は、その場で意味もなく立ったりした。
◇
「あらー。みなみちゃん。どうしたの? こんな夜遅くに」
「すいません。和央に用事があって。これ。お菓子です」
「気を遣わなくて良かったのにー。明日も休みでしょ? ゆっくりしていってね」
「ありがとうございます」
電話を切った後、10分後にみなみちゃんが家に来た。走ってきたのかな。額には汗が滲んでいた。
夜分、遅くに家に来たからか、菓子折りを持参していた。中身はせんべいということだった。ここで、甘いものを選ばないところが、親世代からも好印象を持たれる理由なのかもしれない。案の定お母さんは、にこやかにみなみちゃんを受け入れている。
「わおの部屋に行こう」
「……うん。どうぞ」
みなみちゃんは私の背中を押した。力強く、急かすような仕草だった。
「ごめん。部屋汚いかも!」
「あたしの部屋よりマシだよ。いいから」
ドアを開けて、みなみちゃんを招き入れた。
そういえば彼女の部屋は、足の踏み場もないほどだったなと今更ながら思い出す。
みなみちゃんは先ほど私が座っていたソファの上に軽やかに腰を下ろした。
「風見先輩と今日、どうだった?」
「えっ?」
みなみちゃんは唐突に喋った。枝毛を気にするように髪の毛を指に持ってまじまじと見ていた。
「うん。楽しかったよ」
抽象的な質問だったから、抽象的に言葉を返した。だけど、みなみちゃんは満足しないようだった。
「——そうじゃなくて。ホテルに行って何をしたの?」
「……」
先ほど、友央にも電話でそんなことを聞かれた気がする。
世の中の人は「ホテルに行く=いかがわしいことをしている」だと思っているのだろうか。あまりにも短絡的すぎないかな!
まぁ。実際、人に言えないことをしていたわけだけど。ゴニョゴニョ。
「そ、添い寝をしたよ!」
「そ……」
みなみちゃんに隠すのも変だったので、私はありのままの出来事を伝えた。
彼女は髪の毛を触るのをやめて、じっと私を見た。
「えっちだね」
意外な感想だった。
「そんなんじゃないよ」
「また、サトシくんの代わりってやつ?」
みなみちゃんは、せせら笑った。
「……違うもん」
「違うってことはないでしょ」
彼女は意地悪だ。冷たく言い放ってくる。
私が何も言わずに黙っていると、ソファの空いたスペースをポンポンと叩いた。
「隣に来て」
「う、うん」
言われるがまま、みなみちゃんの隣に座った。そしたら、彼女から食い入るように見つめられた。




