第18話 意識しない!
「ほら。ぼーっとしてないでフォーク拾って」
「ひゃ、ひゃい」
釘を刺された気がした。視線を感じて後ろを振り返ると、なんとみなみちゃんがじーっと見ていた。
思わぬ光景に肩が飛び跳ねてしまう。さっさとフォークを拾って、そそくさと椅子に座った。
「ねぇ、わお」
「う、うん?」
何もやましいことはしていないはずなのに何故かドキッとした。
「……そのフォーク汚いからさ、私の使って残りのワッフル食べなよ」
「ありがとう」
落ちたフォークには黒いゴミが付いていた。
みなみちゃんが差し出したフォークを、私はありがたく受け取ろうとした。
「えー!? みなみちゃんもまだワッフル残ってるよね? わたし食べ終わったからさ、このフォーク使いなよー」
そう言って、風見先輩が自分のものを差し出してくる。
私の目の前では、かわいい女の子が、3本爪を譲り合っている光景が繰り広げられていた。
しかし、みなみちゃんのフォークは持ち手部分を私の方に向けている。
一方、風見先輩は、フォークの刺す部分を私の方に向けていた。
一瞬、迷った後、私は風見先輩のフォークを選んだ。
「ありがとうございます。みなみちゃん、残りのワッフル早く食べようよ」
「うん……」
みなみちゃんはフォークを静かに引っ込めた。その後、一言も発さず、黙々と食べ始めた。
そういえば、風見先輩とは、この前間接キスしたばかりだった。思い返してみて、少しだけ心臓が速くなる。
ええい! 意識しない! 意識しない!
私は平常心を装って、ワッフルを口にした。味がしなかったのは言うまでもない。
「あー。美味しかった。みなみちゃんワッフル屋さんに連れて来てくれてありがとう」
「……どういたしまして」
風見先輩がニコニコ笑顔でみなみちゃんにお礼を言った。
3人の間に和やかな空気が戻って来た気がした。
◇
家に帰った後、すぐに夕食の時間だった。あれだけワッフルを食べたあとなのに、お腹が空いていて、親子丼をペロリと平らげてしまった。
「ふー。今日は楽しかったなぁ」
自室で一人、ベッドで横になる。お腹はいつもよりも膨れていた。
「そういえば、今日は風見先輩とヒロ5の続きを見なかったなぁ……」
みなみちゃんもいるし、ワッフル屋さんに行ったのだから当然のことだろう。
お店で大音量でアニメを見るのは迷惑極まりない行為だ。
……。
何を思ったのか、私はスマホを取り出して、『ヒロインが5人もいる!?』というワードで検索していた。
「サブスクでも見られるんだ」
うちで契約している定額動画サービスの見放題コンテンツの一つに含まれていた。
ならば見ない選択はないと、アプリを開いて、続きの3話から視聴することにした。
ヒロ5の3話のストーリーはこうだった。
今回は、大風サトシくんの後輩、門真はるかちゃんにスポットライトが当たる回だった。
水色の髪の毛をしたボブの女の子で、頭が良いけど、天然な雰囲気のあるヒロインだ。
はるかちゃんが廊下で先生から頼まれた教材を落としたところ、サトシくんが拾ったことをきっかけに、二人は仲良くなっていった。
ある日、サトシくんが、はるかちゃんのクラスを尋ねる場面があった。彼女が消しゴムを落とした時に、二人して机の下に入って見つめ合う瞬間があった。
ヒロインのはるかちゃんは、心の中で「近い近い」と連呼していた。
「なんか、今日、風見先輩とそれっぽいことしたなぁ……」
これまでアニメのシーンを模倣してきてからこそ、気づくことがあった。
ワッフル屋さんであった風見先輩との出来事は偶然だったかもしれない。
でも、ときめきを感じたのは事実だった。
二人きりだったらどうなっていたかな。あの場所がネットカフェだったら……キスくらいはしていただろうか。
いやいや。なんにもなってないって!
風見先輩は今日、私のことを後輩として好きって言っていたし。
そういう想いの子には、き、キスなんてしないから! うん。落ち着け私。
「でも、風見先輩。友達がいないって言っていたなぁ」
未だに信じられない。オシャレでかわいくて、私たちの学年では憧れている人が多い。
同級生だったら、なおさらみんな放っておかないんじゃないかな?
私はごろりと寝返りを打った。お腹の中にある食べ物も一緒に回転した気がする。
ウトウトと瞼が重くなってきた。最近は、風見先輩のことばかりを考えている気がする。
◇
その次に風見先輩と会えたのは1週間後だった。てっきり、次の日も放課後、会いに来てくれるものと思っていたから、拍子抜けした。
みなみちゃんいわく、進路面談とか講習で忙しいんでしょということだった。確かに、3年生だから1年生の私たちと比べると、何かとやることが多そうで大変だと思った。
「和央ちゃーん!」
教室を出て、一人で帰ろうとしていたその時、廊下の先から風見先輩が現れた。
「久しぶりですね」
まさかのタイミングで驚いてしまった。
「えっ。そう?」
風見先輩は呑気そうに笑った。
『なんで会いに来てくれなかったんですか? もう飽きられちゃったかと思いました。なーんて』
そんなこと言えたら、可愛かったかな。
心の中でだけ、意地悪なことを言ってみる。




