第17話 ふにっ
「わおがどこで何していようが気にならないです。だって友達だもん。まぁ……。先輩に嫌がらせされてたら、止めたいですよ。だって友達だもん」
みなみちゃんは友達という言葉を二度も使った。
少し支離滅裂だと思った。もしかして動揺してる?
「うん。私たちは友達だよね」
「んっ」
こんなにも友達という言葉を使うと、不思議と私たちは友達じゃないような気がしてくるから不思議だ。
いやいや。私とみなみちゃんは友達を超えて——親友なのだ!
こういう強調も不自然に見えるかな。
「二人とも仲良いね」
風見先輩がワッフルを食べるのを再開した。名残惜しそうにチビチビと食べながら、私たちに視線を向けた。
「だって、中学からの仲ですもん! 部活も同じだったし」
みなみちゃんはフォークを立てて言う。
「懐かしいね。今はお互い帰宅部だけどね」
「うん。高校では、のんびりしたかったし。今もこうして、わおとワッフル屋に来られているしね」
「私たちの中学のバスケ部は熱血系だったからなぁ。そういえば、あの頃とはまったく違う環境だね」
二人だけで身内の話で盛り上がりそうになってしまっていた。
「いいなぁ」
風見先輩が間に入るように、ぽつりと言った。
「——わたし、友達いないからなぁ」
そんなことを、寂しそうに続けた。
思わず、向かいの席に座る彼女をガン見してしまった。
「えっ。風見先輩が友達いない? ……嘘ですよね?」
私は耳を疑った。聞き間違いだろうか。
「うん。一人もいないんだ」
空耳じゃなかった。
みんなからの憧れの先輩が、友達がいない!?
信じられない思いだった。
「で、でも、廊下で目が合っていた時、隣にいつも女子の誰かがいましたよね?」
そういえば風見先輩が一人でいるのを、私は見たことがなかった。
いつも二人組でいた。
「あぁ。うん。クラスメートの子だよ! たまに話しているけど、一緒に行動するような仲じゃないかなぁ」
言われてみれば、風見先輩は固定の女子と一緒にいた記憶がなかった。派手目な女子といる時もあれば、おしとやかな女子といる時もあった。
「そうだったんですね……」
なんて言っていいかわからず、私は静かに相槌を打った。
「——風見先輩は、あたし達のワッフルは食べたけど、自分のは差し出さなかったですもんね」
「みなみちゃん?」
グイグイ突っ込んでいく彼女は、怖いもの知らずの獅子のようだった。
「普通、食べ合いっこしませんか? "あっ。わたしのも食べて〜"とか。自分のことしか考えてないから、友達がいないんじゃないですか?」
シーン。間違いなく空気が凍った音がした。
み、みなみちゃん。先輩だよ!?
なんで、そんな失礼なこと言っちゃうの。
私がフォローを入れようとしたら、目の前の彼女から笑い声が漏れた。
「あはははははっ。確かに。そうだ!! みなみちゃん、指摘してくれてありがとう」
風見先輩はお腹を抱えて笑っていた。
みなみちゃんの言葉に少しも怒ってはいないようだった。
「二人ともごめんね。でも、どうしよう。もう、わたしのワッフルないんだ……。そうだ。追加注文しようっと! すいませーん!」
風見先輩は店員さんを呼ぼうとしていた。
「お、お腹いっぱいなのでもういいですよ!」
みなみちゃんがすかさず止めた。バツが悪そうに下を向いていた。
「そう? うーん。こういうところが無神経なのかもね。隣のクラスの女子にも、実際言われたことがあるんだ。えへへっ」
「……」
「和央ちゃんのことも、サトシくんと似ているという理由で強引に誘っちゃったしね。反省しないとだ」
風見先輩はしゅんとしていた。
「私は、別に嫌じゃなかったですよ!」
「和央ちゃん」
「まぁ。ちょっと複雑と言ったら、複雑ですけど」
私は頬をかいた。
「そうだよね。じゃあさ、嫌な時はしっかり言ってね。やめるから」
「は、はい」
「その代わり、嫌じゃない時はグイグイいくかもしれないけど!」
ばきゅーんとピストルポーズを向けられた。
「か、風見先輩……」
私はとっさにウッと打たれたポーズをした。
そしたら、右肘がフォークに当たって、派手な音を立てて床に落ちた。
「わっ」
勢いを増して、テーブルの下に入っていく。なんてことしちゃったんだろう。私って本当にドジだなぁ。
「わたしが取るよ!」
風見先輩が椅子から立ち、テーブルの下に潜り込もうとした。
「いやいや、大丈夫ですよ!」
先輩にそんなことさせられない。
私も急いで後を追った。
落ちたフォークを拾おうとしたら、風見先輩の手と触れ合ってしまった。
「あっ」
思わず声が出てしまう。前を見ると、すぐ側に風見先輩の顔があった。
彼女の瞳は透き通っていて、純粋無垢。いい香りもした。これはワッフルの匂い?
すぐにフォークを拾って、椅子に座ればいいものの、私は動くことができなかった。
「どうしたの?」
小声で彼女から声をかけられた。
「いや……あの」
キスできそうなくらい近かった。店内は喧騒に包まれているけど、私たちの周りだけ、やけに静かだった。
何故か、風見先輩とネットカフェにいるような錯覚を覚えた。全然、真逆の場所であるはずなのにね。
「ひぃっ!?」
彼女は私の頬に触れた。虚ろな目で見つめた後、軽くふにっとつまんだ。




