第16話 一口食べていい?
◇
ワッフル屋『Waffle Lane』は混雑していた。お店の外まで、ずらりと人が並んでいた。さすが人気店。
早めに着くかなと心配していたけど、ぴったりだった。
みなみちゃんが事前に予約してくれたおかげでスムーズに店内に入ることができた。
店員さんに四人がけのテーブル席を案内された。
座る位置は、みなみちゃんと私が隣。向かいには風見先輩が一人で座った。
ワッフルを各々注文して、店員さんが3人分を一緒に運んできてくれた。早速手を合わせて、実食する。
「美味しい〜。サクサクのワッフルと、レアチーズクリームの絶妙なマッチがたまらない〜!」
最初に感動の声を上げたのは、風見先輩だった。目を輝かせて舌鼓を打っている。
「うん。チョコソースのも美味しい。いくらでも食べられそう」
みなみちゃんもワッフルと一対一で向き合っていた。いつもより口数が少ないけど、美味であることが全身から伝わってくる。
私が頼んだワッフルは、ベリーミックスソースがかけられているものだった。しかも、ストロベリーアイス付き!
一口食べると、甘酸っぱい風味が口いっぱいに広がっていく。
幸せってこういうことをいうのかなぁ……。
目を閉じて、いつまでも余韻に浸りたかった。
「——和央ちゃんと、みなみちゃんのワッフルも美味しそうだね」
風見先輩は、よだれを垂らすような勢いで、私たちのお皿のワッフルを交互に見た。
これは、一口ちょうだいって言われる流れかなぁ。
「食べてみますか?」
意外にも先に口を開いたのは、みなみちゃんだった。
「いいの!?」
「その代わり、聞きたいことがあるんですが」
みなみちゃんが姿勢を正した。
「うんうん。何?」
「わおのこと、どう思っているんですか?」
えっ。ちょっと! 待って!
「んっ? 好きだよー」
「ゲホゲホッ」
二人のテンポの良い会話に、ついむせてしまった。今、軽く爆弾発言が紛れ込んでいたけど!?
「わお、大丈夫?」
みなみちゃんは、赤ちゃんをあやすように私の背中を撫でてくれた。
風見先輩はというと、みなみちゃんのワッフルを一口貰っていた。
「こっちもおいしー」
なんて呑気なことを言っている。
「い、今、好きって言いましたか?」
ここぞとばかりに追求した。私は冷静ではいられなかった。
「うん。言ったよー」
「そういうこと、さらっと言わないでください!」
「えー」
風見先輩は絶対人たらしだ。天然で、私の心を気付かぬうちに掻っ攫っていく存在。
「ねぇ。和央ちゃんのワッフルも一口食べていい?」
「は、はい。どうぞ」
風見先輩に頼まれたら、断れなかった。お皿を前に出すと、彼女は躊躇わずにフォークで刺した。
「ありがとー」
お礼を言いながら、ベリーミックスソースが乗ったワッフルを口に運ぼうとした。
「——じゃあ、わおがサトシくんって言う人に似ていなかったら、好きにならなかったってことですか?」
みなみちゃんが、急にとんでもないことを言った。
風見先輩の手がピタッと止まる。みなみちゃんをじーっと見つめた後、ワッフルが刺さったフォークを皿の上に置いた。
ここからとんでもなく、間があった。即決で言えないのが答えだと思った。
「意地悪な質問をしちゃいました。すいません」
沈黙に耐えきれなくなったのか、みなみちゃんが先に謝った。
「……和央ちゃんを好きになったきっかけはサトシくんだったから。あらためて、言われると……考えさせられちゃうなぁ」
「そうですよね。それがなかったら、わおのこと、知ってすらいなかったってことなんですもんね」
みなみちゃんの言葉は棘がある気がした。
「うん……」
「風見先輩はわおのこと、恋愛としては好きじゃないんですよね?」
今度はアイスティーを吹き出しそうになった。今日のみなみちゃんは一味違う。
「……」
だけど、風見先輩はすぐには答えなかった。
私はハラハラした気持ちのまま見守った。
「和央ちゃんのことは後輩として……好きかな」
体の中を冷たいものが走っていった。その後、じっとりと汗ばむ。
私は一人前に傷ついていた。
「私も風見先輩のこと、先輩として……好きです」
聞かれてもいないのに、ついそんなことを口にしていた。
まるで自分に言い聞かせるような、口ぶりだった。
「そっか」
みなみちゃんが代わりに答えた。冷たさが抜けていて、どこか優しく諭すような声音だった。
「ねぇ。わおは、風見先輩との密会は嫌じゃないの?」
「密会?」
「ネットカフェで会うこと。サトシくんの代わりをさせられてるんでしょ?」
「だから、別に嫌じゃないよ!」
「本当?」
「うん」
私は胸を張って、正直に言った。
「——ねぇ。みなみちゃんが、嫌なんじゃないの? 私と和央ちゃんが放課後に会うことを面白く思ってないんじゃないの」
風見先輩が頬杖をついて、みなみちゃんをじっと見た。
まさか。えっ……。
思わず私もみなみちゃんを見ると、目を丸くして、口をつぐんでいた。
「はぁ? あたしは関係ないじゃないですか」
みなみちゃんはぶっきらぼうに言い放つ。でも、言葉尻が震えているように思えた。
いつもひょうひょうとしている彼女の珍しい姿だと思った。




