第14話 ファーストキスの相手は、あたしだからね?
◇
気づけば、昨日ネットカフェを退室した時間に迫っていた。なので、急いで後片付けをして、風見先輩とはお店の前で別れた。甘い時間は、そう長くは続かなかった。
「わお、おはよー」
「おはよう」
みなみちゃんは今日も朝から元気だ。私が教室に入ると、彼女はもうすでに席についていた。ポニーテールがいつもに増して、きちんと結ばれていた。
「ワッフル屋さんのことなんだけど、17時に来店予定って予約入れちゃった! 良かったよね?」
「うん。いいよ。いつもありがとー」
昨日は、風見先輩との先約があったから、一緒に寄り道することができなかった。今日は何も約束していないから、昨日の借りを返すように、みなみちゃんと心ゆくまで遊ぶぞ!
だけど、予約はもう入れてくれたんだ。
助かるけど、なんだか焦っているように見えるのは気のせい?
「——ねぇ。風見先輩とは昨日、どうだったの?」
「えっとね。またネットカフェに行ったよ! だけど、風見先輩はお疲れなのかブースに入ったらすぐに寝ちゃった」
「ふーん。じゃあ、わお、一人で暇だったんじゃないの?」
「いやいや。アニメ見てたから楽しかったよ! それにその後、風見先輩はすぐに起きたし——」
そう言ってから、昨日の光景がフラッシュバックした。
風見先輩の耳に"好き"と言ってしまったこと。お返しのように、彼女からも"好き"と言われたこと。
アニメのシーンの模倣であったとしても、リアルな感覚にドキドキしてしまったこと。
耳に囁かれてゾクゾクしたことなど……すべて。
「わお? なんか、顔赤いよ」
「な、なんでもない!」
みなみちゃんに指摘されて、ますます恥ずかしくなってしまった。
背中を向け、頬に手を当てると、熱くなっていた。
「……まぁ、いいけど。ねっ。わおはさ、どういうワッフルが好き? あたしはね、チョコ系が食べたいんだけど、どう?」
みなみちゃんはいつもの調子で楽しそうに話を振ってくれた。
深呼吸を繰り返して落ち着いた私は、再び彼女と向き合った。
「そうだなー。私も甘いのがいいかなー。いちご……いや、やっぱりみなみちゃんと同じチョコ系がいいかも!」
「いちごもいいじゃん。二つ頼んじゃおうよ! 飲み物は、アイスコーヒーがいいよね。甘いのだったら、飲みきれないし」
「確かに! でも私コーヒー飲めるかな」
「あっ。わお、苦いのダメだっけ? 本当、お子ちゃまだなー」
「むっ。ガムシロップ入れれば飲めるもん」
「それ、反論になってないよ!」
みなみちゃんは、おかしそうに笑った。なんだか幸せそうだ。きっとワッフル屋さんに行くのを、すごく楽しみにしているんだろうなぁ。
えへへっ。なんだか私も放課後が待ち遠しくなってきた!
「早くワッフル屋さんに行きたいね」
「わおの食いしん坊ー」
「別に何言われたっていいよーだ」
あっかんべーをした後、自分の席に向かおうとした。
そしたら、みなみちゃんに手首を掴まれてしまった。
「な、何?」
「昨日、風見先輩とキスはした?」
そんな爆弾発言を言う。
「ええっ!? し、してないよ」
「そっか。良かった」
「っていうか、一度も風見先輩とキスしたことなんてないってば! そ、ソフトクリームのやつは間接キスってだけでしょ? みなみちゃん、変なこと言わないで!」
わざわざ呼び止めて、キスのことを聞くなんておかしい。熱でもあるのかな。
私は右手を伸ばして、みなみちゃんのおでこにくっつけた。
「わ、わお、何してるの?」
「んー。別に?」
大丈夫。熱はないようだった。
「……わおの手、冷たい」
「やった。じゃあ、心があったかいのかなー?」
私は、みなみちゃんのおでこから手を離した。
「そういう迷信あるよね。でも、自分で言うなしっ」
二人して顔を見合わせて笑い合った。
やっぱり昔からの友達と一緒にいるのって楽しい。波長も合うし、気兼ねなく冗談だって言い合える。みなみちゃん、私とずっと親友でいて欲しいな。
「——あのさ、あたし達、昔キスしたこと覚えてる?」
静寂が訪れた一瞬。みなみちゃんは珍しく真剣な顔をして言った。
「えっ……。私とみなみちゃんが?」
「うん」
急に言われてびっくりした。何かの間違いじゃない?
恋人同士でもないのに?
過去を思い出してみたけど、ピンとくる記憶がなかった。
「わお、忘れてるんじゃん。ほら、中1の時に階段で口と口がぶつかったじゃん」
「あぁ!! あの事故!!」
みなみちゃんに言われて思い出した。そうだった。
移動教室の時、階段を降りた私はこけてしまい、ちょうど下にいたみなみちゃんにダイブしたことがあった。
その時に、唇と唇が事故で触れてしまった。
「確かに。そういうことあったけどさ。別にキスじゃなくない?」
私は正論を言ったはずだった。
「でも、唇同士はひっついたじゃん」
「まぁ、そうだけどさ。あの時、血の味しかしなかったよ?」
「あははっ。そうだったね。あたしとわお、どっちも唇から血ぃ垂れ流してたもんね」
「うん。歯、折れるかと思ったよ」
みなみちゃんの唇を今見たけど、何も傷なんて残っていなかった。
リップクリームが塗られているようで、ほのかに艶があった。
「わおさ、昨日、風見先輩とファーストキスしたーって騒いでたじゃん」
「う、うん」
「だけど、その理論で言ったらさ、わおのファーストキスの相手は、あたしだからね? そこんところ覚えておいてよね!」
「は、はい……」
みなみちゃんにはNOと言えないような迫力があった。




