第12話 告白
「風見先輩」
「んっ?」
心なしか彼女の声に色がついたように思う。
「……何でもないです」
「なぁにそれ」
風見先輩は苦笑した。お返しと言わんばかりに、私の背中を優しく撫でた。
「ひゃっ」
「へへっ。いいでしょ♪」
「この……!」
私は、やり返した。先ほどよりも丁寧に手を這わせた。
風見先輩が小さな高い声を出す。
ネットカフェのブースで女子二人、密着して、撫で撫でし合っているなんて聞いたことがない。
だけど、離れ難いのも事実だった。なんだろう。ドキドキするのに癒される。初めての感覚だった。
「……風見先輩」
どれくらい時間が経ったのだろう。久しぶりに出した私の声は掠れていた。
「……」
彼女は何も言わない。
「私ってそんなにサトシくんに似てますか?」
これでも勇気を出していた。
「……」
だけど、風見先輩は黙ったままだ。
「自分ではわからないけど、どの辺りですか?」
「……」
何か言って欲しかった。
「私、風見先輩に言ってないことがあるんですけど……実は兄がいるんですよね」
ああ。ついに白状してしまった。
自分が思ったよりも喉が渇いていることに今さらながら気づいた。
「驚きましたか? 私、兄にそっくりってよく言われることが多いんですよ。なので、もしかしたら、風見先輩の理想に近いのって兄の友央だと思うんですよ」
心臓はけたたましく鳴っていた。
一世一代の告白のつもりだった。
風見先輩が私を好いてくれるのは、サトシくんに似ているからだ。
そもそも私とサトシくんは性別が違う。だけど、私にそっくりな兄とは性別が同じだ。
もしかしたら、風見先輩は私の兄——松島友央の方が好みなんじゃないか。兄は大学1年生だ。黒髪短髪で、焼肉が好き。努力家だけど、抜けている一面がある。今、彼女もいないようだった。
だったら私がするべきなのは、二人を引き合わせることではないのか。
「あの……」
風見先輩からの一言が欲しかった。なのに、さっきから黙ったままだ。
私は風見先輩の肩を押しのけた。体を起こしたら——なんと寝ていた。
「ええっ!」
拍子抜けしてしまった。風見先輩は豪快に口を開けて寝ていた。
じゃあ今の話は聞いていないってこと!?
「むにゃむにゃ……」
かわいい寝言まで言っている。
……。
正直、安堵した。
さっき夜遅くまで勉強していたって言ってたよね。きっと今、追い込みの時期だよね。
無理に起こさず、このまま寝かせてあげよう。
私は慎重にブースの床の上に、風見先輩を置いた。
このままだと寒いかもと思い、入り口にあった膝掛けを取りに行って、そっと彼女の上にかけた。
私は一息つくために、ドリンクバーに向かった。コップにリアルゴールドを注いだ後、少し迷って先輩の分もついだ。
起きた後、喉が渇いていたらすぐに何か飲みたくなるよね。
風見先輩がいるブースに戻り、やっと肩の力を抜くことができた。
「ふぅ」
一度大きく伸びをした。リアルゴールドを飲んだら、手持ち無沙汰になってしまった。
「ヒロ5の続き見たいかも……」
風見先輩が好きなアニメだ。彼女が寝てしまった今だけど、続きの内容を知りたかった。
風見先輩って全話見たのかな。きっと2周はしてるよね。
私はパソコンのマウスを動かして、アニメ動画が見れるサイトに接続した。
「よし」
備え付けのヘッドホンをつけて、自分だけの世界に集中する。風見先輩は私の隣で幸せそうな顔をして、すやすやと寝ていた。
◇
『ヒロインが5人もいる!?』の2話のエンディングが流れ始めた。サトシくんが真ん中にいて、5人のヒロインの女の子たちが彼を囲んでいた。
由夏先輩は年上の魅力を醸し出すように、唇に人差し指を当ててウインクをしていた。
「面白かったなぁ」
今回は、サトシくんと同じクラスの女の子、足利寧々(あしかがねね)ちゃんにスポットライトが当たる回だった。
黒髪ロングの正統派ヒロイン。少し口が悪くて、素直になれないツンデレキャラ。
だけど、実はサトシくんと幼稚園が一緒だったという幼なじみ属性もある。
今回の見所は、サトシくんが図書室で寝ている時に、寧々ちゃんがそっと近づき、「昔、好きだったよ。また会えて嬉しいな」と囁いたのがハイライトだった。
私はヘッドホンを取って、机の上に置いた。風見先輩はまだ隣でスヤスヤと眠っている。
ぐっすりだなぁ。肩をちょんちょんと触ってみるけど微動だにしない。
風見先輩の青色のピアスは、照明に当てられて、まばゆく光っていた。耳に穴を開けるのって怖くないのかな。どうなんだろう。
それにしても、きれいな顔立ちをしているなぁ。メイクも薄くしているのかな?
鼻が高くて、唇もぷるっとしている。
そういえば、同じクラスの子が「風見先輩みたいになりたい」と言っているのを聞いたことがあった。女子人気も高いんだ。少しだけ嫉妬しちゃうなぁ。……。
私は風見先輩の耳元にゆっくりと近づいた。物音を立てないように、慎重に。
「風見先輩」
小さな声で名前を呼んでみた。返事がない。私はホッと胸を撫で下ろした。
実はいうと、ヒロインの寧々ちゃんのことが頭に浮かんでいた。
サトシくんに想いを打ち明ける場面では、彼女の顔は桜色に染まっていた。
「好き」
ヒロインのように、好意を言葉にしてみた。
その瞬間、胸が甘酸っぱい気持ちでいっぱいになった。
まるで私が風見先輩を本当に好きだというような錯覚を引き起こさせる。
私と風見先輩は幼なじみではない。むしろ昨日、交流を持ち始めたばかりの、ただの先輩後輩の関係でしかないわけだ。
「……昔、好きだったよ。また会えて嬉しいな」
先ほどのアニメのシーンを丁寧に辿り、寧々ちゃんの台詞を一言一句間違えずに言い切った。
へへへっ。少しの照れがあった。
なんかこれって、声優さんみたい!?
「……和央ちゃん。ヒロ5の2話見てくれたんだね」
「お、お、お、起きてたんですか!?」
驚きのあまり、後ろにのけぞってしまった。木の戸の仕切りに背中がつくと、ガタッと場違いな音が辺りに響いた。




