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神釣り ―天を裂く糸―  作者: おかゆフィッシング


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21/28

第21話 神糸の記憶

タイトル変えましたー!

神釣り!

覚えやすいでしょ?

よろしくお願いします!

 ――風の音が、やけに遠い。

 視界は白く霞んでいて、まるで雲の中にいるようだった。

 リュシアはゆっくりと目を開ける。

 見慣れた光景。光と金属の構造物が織りなす天界の街、「エリュシオン」。


 脚の下に浮かぶ透明な歩廊。

 その下では、無数の光糸が縦横に走り、地上へと伸びている。

 その一本一本が、地上の“魂”と繋がっている――そう教えられてきた。


(……夢? いいえ、これは……記憶)


 風が頬を撫でる。

 あの日、彼女は命令を受けた。

 “地上の選定”――増えすぎた人間の中から、神々の糧となる魂を釣り上げる任務。


 リュシアの指先には光の糸が結ばれていた。

 それを操作すれば、下界の一点――水辺で動く人間の気配が感知される。

 釣り上げる対象の“位置”も“抵抗の力”も、手元で分かる。


「リュシア。選定番号C-127、“沙耶”。命令通りに引き上げなさい」

 背後から響くのは、上官アーゼルの低い声。

 その瞳は、いつもと変わらず冷たい。


「……了解、しました」


 指先を動かすと、光の糸が唸りを上げた。

 抵抗を感じる。まるで生きた魚が暴れるような振動。

 “これが人間”――そう教えられた通りの反応。


 けれど、違った。

 その感触には、明確な“恐怖”があった。

 釣り上げられる瞬間、糸越しに伝わる心の叫び。


(いや……やめて……! 誰か!)


 リュシアの手が震えた。

 けれど、止めることは許されない。

 アーゼルの視線が背に刺さる。

 命令に従わなければ、彼女自身が罰せられる。


 光が閃き、地上から一人の女性が浮かび上がる。

 手に刺さった神糸が血を滴らせ、その瞳がリュシアを見た。


 ――その目を、彼女は一生忘れない。


「……助けて……息子が……!」


 言葉が届くより先に、光が彼女を包み込んだ。

 そして、消えた。


 残ったのは、指先の感触と、血の温もりだけ。


(あれが……レンの母……)

(私が――釣った)


 リュシアは膝をついた。

 夢なのに、心臓が痛いほどに鼓動している。

 過去の光景が、何度も何度も再生される。


「リュシア、ためらうな。これは神の選定だ」

 アーゼルの声が響く。

 彼女は唇を噛み、光の糸を握り締めた。

 あの瞬間に、自分の“神”としての在り方は壊れたのだと分かっていた。


(私は……あの日から、何を信じてきた?)


 光が消え、静寂が訪れる。

 足元の雲がゆっくりと流れ、地上の景色が見えた。

 そこに、あの少年――レンが立っている。

 見上げるその瞳が、まっすぐに空を射抜いている。


(ごめんなさい……あなたの空は、私が壊した)


 リュシアの頬に、一粒の涙が落ちる。

 それが雲の上に消えると同時に、夢がほどけていく。



 目を覚ますと、部屋の中は薄明るかった。

 白の塔の地下施設、石の天井の隙間から微かな光が漏れている。

 ベッドの傍らで、レンが寝息を立てていた。


 彼の手が、無意識に空を掴もうとするように動く。

 その仕草に、リュシアは一瞬、呼吸を止めた。


(もしまた空を見上げたとき、

 あの糸を掴むことができたなら――)


 彼は母を取り戻すのか。

 それとも、私の罪を暴くのか。


 リュシアはそっと彼の額に触れ、微笑んだ。


「……もう少しだけ、この夢のままで」


 囁きながら、再び目を閉じた。

 けれどその眠りは、もう二度と穏やかではなかった。


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