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1話 機械の心臓

どもっす!キタキツネです!

Cursed in the Skyの第一話です!二週間も空いてしまった…

遅れた理由は結構ありまして、まず第一に、Cursed in the Skyに登場する戦闘機の設計をしてました!蒼燕一機だけで、およそ10時間…その他の偵察機やら量産機やら重爆撃機やら…おそらく10機ほどの設計をしてました。二つ目に期末です!勉強してました!


 空は静寂を取り戻していた。さっきまで飛んでいた、機械の心臓を持った鋼鉄の鳥が、地上に降りて眠ってしまったから。

 その鳥と、その鳥の脳みそが戦った後処理は、地球がする。空は綺麗なものしか受け入れないから、汚れたものはいらないということだろう。

 つまり、地上は汚れてるってことだ。俺は汚れたのは嫌いじゃないし、むしろ綺麗すぎたらそわそわするから、少々汚れてる方がいい。

 地上はそんなとこ。

 洗濯をしても、掃除をしても、埃とか塵とかをすべて消せる魔法があっても、消えない汚れがある。消せない過去がある。

 服に付いたカレーのシミみたいに、いつまでもいつまでも跡が残るし、薄くなってもカレーのシミだと分かる。地上の汚れってそんな感じだと思う。

 ドロドロもしてないし、サラサラもしてない。汚したもの状態とか、そのものが服に付く前の状態とかじゃない。もう生まれた時から付いてて、ついている状態で生まれてきた。「カレー」でできた「シミ」 じゃなくて、「カレーのシミ」っていう感じ。

 食べ物でできたシミは、当然匂いとかはするけど、その食べ物じゃない。シミそのものなんだ。地上の汚れは、その汚れが地上に落ちた瞬間、「汚れ」じゃなくて「地上の汚れ」になる。固有名詞になる。

 だから、何をもってしても落とせない。名前が変わる前の「汚れ」は落とせても、もうその汚れが付いてしまった跡は絶対に消せない。すぐに汚れだと分かる。

 まだ曇ってはいるが、さっきよりは晴れてきた。俺の飛行機が格納庫にしまわれていくのが見える。まだ飛びたそうにしているように見えたが、「俺は疲れたから休むよ。お前もしっかり休みな」そう心の中で言って、飛行機から目をそらし、事務棟の方へ歩く。

 「せっつっな~!」

 後ろから呼ばれたので振り返ると、俺と同じくらいの歳の女性が飛び込んできた。驚いて、そのまま仰け反りそうになったが、受け止める。その反動で後ろに倒れてしまった。危うく頭を打つところだ。

 「あぶねぇな!急に来るな青葉」

 風見青葉。俺と同じ兵学校卒で、たまたま同じ基地に配属された。兵学校の時から仲は良かったから、青葉と同じ基地へ配属になったときは、素直にうれしかった。

 成績は学年の、トップ十分の一といったところ。およそ100位くらいだろう。仲良くなった理由は、当然、彼女から何か教わりたかったとか、逆に彼女が俺から何か教わりたかったとか、そういう理由じゃない。

 たまたま宿舎の部屋が隣だったからだ。ただそれだけ。初日、彼女が俺の部屋へあいさつにきた。何も出さないのは失礼だからと、部屋に入れて、お茶を出し、話した。それで意気投合したってわけだ。

 要するに、青葉は俺の数少ない親友ということだ。

 「ごめんごめん。刹那が帰ってきたって聞いたから」

 青葉は、そんなことを言いながら後頭部を左手で掻いた。

 「あれ?ほかの人は?まだ飛んでるの?」

 彼女の質問に、悩んだ。しばしの沈黙。

 「墜とされたよ。敵機は六機だった。最初から逃げてればよかった」

 そうだ。今思えば、戦うことが無謀だったんじゃないか。いくら隊長がいたって、多すぎた。

 「そう…。悪いこと聞いちゃったね。ごめん」

 そう言いながら、彼女が俺の上から起き上がった。俺に手を差し出し、起こしてくれる。

 「いや、いいよ。敵機は全部落としたし。隊長の仇もとれたはず」

 しばらくの沈黙。彼女は悲しんでいるように見えた。

 確かに、この基地で一番実力がある隊長が墜ちたのは悲しい。でも、仕方がないことだった。多分隊長は、三機から同時に狙われたんだ。そうでないと、専用機を持っているパイロットが簡単に墜ちるはずがない。

 そんなことを考えていると、気分が憂鬱になってくる。

 俺は一度空を見上げ、ため息をつきながら、首の力を抜いて頭を首にぶら下げた。

 「青葉、煙草ある?」

 「え?部屋にならあるけど、今酔ってるでしょ?吸って大丈夫なの?」

 「大丈夫だよ、もう酔いは抜けたから。霧島司令官に報告してから部屋へ行くよ。今はだれかと話したい。」

 「わかった。私はちょっと私の若葉を見てくるから、もし私が戻ってなかったら勝手に入ってていいよ。」

 彼女はそう言って、綺麗な顔で笑顔を作って見せ、格納庫の方へ走っていった。彼女の足取りは、少しおもそうだった。

 任務の不成功と、敵との会敵、そしてこちらの被害、相手の被害、俺の撃墜数などを司令官に報告した。

 「そうか…すまない。もう一機行かせるべきだった。ただ、よくやった。雲居。お前の腕前には期待してるぞ。」

 彼は、そう低い声で言った。うなってるみたいだ。

 「失礼します」

 俺は敬礼をし、足早に出て行った。青葉を待たせてるかもしれないから、できるだけ急ごうと思う。

 今いるところは事務棟で、宿舎は別にある。その宿舎までの距離が、近いようで意外と遠い。300mほどあるだろう。

 宿舎の俺の部屋は、三階の一番事務棟側の部屋で、その隣が青葉、その隣にもいるらしいが、そいつに会ったことはない。なにせ、まだこっちに来てから最初の週だから、この基地内に何人の人がいるかも、この周りの地理に関しても、ほとんど何も知らない。

 宿舎のエントランスに入り、正面の階段を上がっていると、人が下りてくる音が聞こえた。気にせずそのまま上る。二階のフロアに繋がるところで、目が合った。

 眼鏡をかけていて、勤勉そうな顔の奴だった。

 今にも草が生えてきそうな、見事に湿った土の色を再現しているであろう、木の廊下を直進し、自分の部屋の前に来る。

 さっき青葉に「もう酔いは抜けている」と言ったが、あれは少々嘘だったかもしれない。現に、少し気持ち悪い。

 とりあえずドアノブをひねって中に入る。入る前に隣を確認したが、彼女は、まだ帰っていないようだった。

 酔いを醒ますために、とりあえずシャワーを浴びることにした。どうせ夜にまた入るから、本当に浴びるだけで済ませる。水ってすごいな。一瞬で酔いがさめた。

 浴室から出て、体をふき、服を私服に着替え、タオルを首からかけた。俺の私服は、大体半袖と半ズボンか、長袖と長ズボン。とにかく動きやすくて、肌触りがいいやつが多い。

 多少ビジュアルにこだわったものもあるけど、ほとんど着ていない。せいぜい二回くらいだ。

 宿舎の部屋の一番大きな窓を全開にし、その窓の前に置いている、机の収納されている椅子に座った。カーテンがひらひら揺れる。

 頭を後ろに倒し、濡れた髪が一気に下を向くのが、感覚で伝わってきた。

 目をつぶる。

 ちょうど12時くらいだろう。太陽が高いおかげで、日が窓から入ってこないから、風が心地良い。初夏に吹く風だ。名前はなんだったかな。確か名前があったはず。聞くだけで綺麗だと分かる名前が。

そうだ、青嵐だ。たぶんそんな感じの風が、今俺に吹いて、髪を乾かしてくれている。気持ちいいな。このままいるのも悪くない。

 そんなことを思っていると、廊下を歩いてくる音が聞こえてきた。そして隣の部屋の扉が開かれる。

青葉か。

 呼びに来てもらうのを待とうかとも思ったけど、自分から話したいって言ったのだから、さすがに失礼だろう。

 俺は椅子から立ち上がり、部屋から出た。そして、そのまま隣の部屋の扉をノックし、「いいよ」という声が聞こえてから、扉を開けた。

 「失礼」

 「いらっしゃい。シャワー浴びたの?」

 「うん。ちょっと酔いを醒ますために」

 彼女も窓を開けていた。俺に椅子をすすめて、青葉はベッドに座る。やがて倒れこみ、天井を見る形になった。

 「煙草は机の上。もし吸うなら外のベンチ行こ?匂いつくから。」

 青葉は寝ころんだ状態のまま手を持ち上げ、机の上を指差した。吸おうか迷ったけれど、外に出るのがめんどくさかったし、気持ち悪くなるかもしれなかったから、やめておいた。

 「やっぱり吸わない。」

 「そう。まぁ気が向いたら何時でも言って。その時はあげるから」

 「わかった」

 その後、しばらく沈黙が続いた。机の上で、扇風機の羽が、風で回っている。せっかくプロペラがあるんだから、空を飛びたいと思っているだろう。胴体をつけて、回転率を上げて、あとは羽をつければもう飛べる。自分自身で飛べる才能は、俺達より遥かに持っている。

 これだけ長く沈黙が続いても、全く気まずくない。青葉との昔からの関係が、そうしているんだろう。話しても、話さなくてもいい。青葉の前だと、いつでも気が軽い。

 青葉は目を瞑っているようだった。寝てるのかも。

 「ねぇ、刹那、初任務での撃墜数と、感想は?」

 急な投げ掛けだけど、意外と素直に考えることができた。彼女はまだ寝転がっている。

 「四機墜としたよ。けど、あんまり思った通りの飛行はできなかった。風が乱れてたんだ。」

 「風が乱れてた?」

 青葉は起き上がり、不思議そうに聞いてきた。

 「うん。下降気流が強かった。コブラをしたときに、うまくいかなかったんだ。」

 「ふーん。下降気流が強いなら下まで下がればよかったのに。」

 「いや、蒼燕じゃそうもいかないよ。雲の下まで降りてたら、撃ち落されてた。」

 「なんで?」

 少し黙る。なんでだろう。なんであの時俺は、下に下がれば撃ち落されると思ったんだろう。直感的な何 かだと思う。多分間違ってない。だけど、なんでそう思ったのかは分からない。なんでそう思った。何かあるはず。何かが。

 「風だ。」

 「へ?」

 「風がそう言った。下がれば撃ち落されるって。」

 「確証はあったの?」

 そしてまた黙る。確かに、何も確証はなかった。

 「でも、隊長は墜ちた。隊長は下に下がっていったんだ。それは見てた」

 「ふ~ん。流石だね。刹那。風の声が聞こえるのか!私には絶対できないや」

 青葉は、笑いながらそう言った。俺には皮肉のように聞こえたが、本人はその気がないだろう。俺も、皮肉ということを考えていった訳ではないと思う。そういう奴じゃないから。

 「いや。青葉にもできるよ。翼の振動で感じ取るんだ。こう、ビビビビって」

 椅子の背もたれに左手をかけ、上を見ながら言う。

 「ビビビビって。いわれても今一ピンと来ないよ」

 微笑混ざりに鼻息が漏れる。

 そしてまたしばらくの沈黙。

 「やっぱ刹那はさ、飛ぶために生まれてきたんだよ。そんなこと普通、分からないもん。病気のことだって、ほら、神様が、そうした方が刹那は幸せだって判断したんだよ。きっと」

 珍しくまっとうなことを言ったから、少し面食らってしまった。

 「そうかな。俺はそんなこと思わなかったな。長く生きられないから、この体のこと恨んでた」

 俺の病気は、まるで悪魔との契約内容のような病だ。寿命の大半と引き換えに、超人的な視力と反射神経が備わっている。でも、こういう病は少なくない。今までの人類史でも、度々ある。たとえば、視力を失った代わりに、聴覚と触覚が研ぎ澄まされる。俺の病はそういう系統の奴だ。

 「いや。私のやつがあってると思うな。だって、長く生きたから幸せってわけじゃないでしょ?人は、一瞬のために生きてるんだから。過去の償いのためでも、未来の成功のためでもない。人生で一度だけある、『この時のために生まれてきた』っていう感覚。その一瞬のために生きてるの。」

 『この時のために生まれてきた』を感じるために生きている、か。確かにそうかもしれない。今思えば、長く生きたからと言って幸せなわけではない。『早く死ぬ』自分の人生、そればかり見ていた気がする。 

 何気ない会話だけど、何か、人生において大事な何かの核心が、今掴めかけたような気がする。

 「でも、やっぱり早く死ぬのは怖いな」

 「刹那は空を飛ぶとき、『死ぬのは嫌だ』って思う?」

 「いや、思わない。青葉、俺が言ってるのは…」

 俺が言い終わる前に、青葉が声を発した。

 「それと同じだよ。空を飛ぶと、墜とされるかもしれない。でも、そんな恐怖なんて忘れるほど、空が好き。その恐怖を忘れないと、空を楽しめない。それと同じ。『空を駆ける』その一瞬のためだけに、人生全部を捧げられる。だから楽しいんだよ。」

 死の恐怖を忘れないと、真の意味で楽しむことはできない。確かにそう思う。俺が空を飛ぶ理由もそんな感じだろう。

 寿命も、過去も、病気も関係ない、閃光のような時間だけが、空にはある。だから飛ぶのか。

 地上の自分を忘れるために。

 生きていく希望を見つけるために。

 その後は、青葉から話しかけられることはなかった。寝てしまったんだろう。

 背もたれに凭れ、窓から見える空を見上げる。

 着陸する前に合った、どんよりとした雲は消え、透き通った青い空と、汚れのない雲が浮かんでいた。

 「綺麗だな…」

  不意にそんな声が漏れた。


いかがでしたか?気に入っていただけたらブックマークやら評価やらお願いします!

前書きで書いた戦闘機たちは、後々登場します。次の話で一機出てきます。蒼燕、若葉の次ですね。

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